◆ことばの話1350「アカルイ」

南海難波駅に、サントリーのペットボトル飲料「SORA」の広告ポスターが出ていました。そこには、こんなフレーズが。

「ア・カルイ・コーヒー」

あれ?これって。黒沢清監督でオダギリジョーや浅野忠信らが出てカンヌ国際映画祭にも参加した映画、

「アカルイミライ」

から取ったのかなあ。そう言えば、週刊誌のグラビアにも、篠山紀信氏が撮ったものに、

「アカルイ・ハダカ」

というようなタイトルが付いていたような。「アカルイ」とカタカナ表記する言葉が流行っているのでしょうか?インターネット検索で「アカルイ」を引くと、なんと5800件も出てきました。ついでに「アカルイミライ」を引くと5260件「アカルイ」に占める「アカルイミライ」の率はなんと、90,7%!!こうなると、「アカルイ」の元祖は間違いなく映画「アカルイミライ」ですね。ネットの中の、『「踊り場」広告批評7月5日vol.04』という所に、こんな文章が載っていました。

『サントリーSORA』

もう飲みました?サントリーから6月24日に発売されたNEW YORK STYLE COFFEE『SORA』。私は味には無頓着な方なのですが、まぁ可もなく不可もなくといった感じでしょうか。この広告、実はまだ手に入れてないのですが、上の画像に「ア・カルイ・コーヒー」と書いてあります。おそらく『アカルイミライ』(監督・脚本・編集:黒沢清 キャスト:オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也ほか )という映画のタイトルを意識してつくったものだと思いますが、この辺りは さすがにサントリーといった感想を持ってしまいます。


ああ、なるほど。やっぱり映画からとったようですね。私はまだこの映画は見ていないのですが、「漢字かな混じり文」で「明るい未来」と、すべてカタカナで「アカルイミライ」とした場合との違いは、やはりカタカナのほうが、軽い感じ、そして漢字では表しきれないイメージの広がりを感じるような気がします。世の中が不況で「暗い」だけに「アカルイ」という音の響きが求められていて、また「未来」という漢字で表されるものも20世紀にさんざん語り尽くしてきたにもかかわらず、その「未来」であるはずの21世紀に入っても、結局は20世紀の延長線上に毎日代わりのない生活が続き、なかなか「輝く未来」が見えてこない。そんな中で感覚に訴える、音としての「ミライ」だけが使われているのではないか・・・などと考えてしまいました。実際のところはどうなんでしょうかね。

あ、でも「ミライ」とカタカナで書くと、なんか「ミイラ」と間違いませんか?ミライ取りがミイラになっちゃったりして・・・。

2003/8/17

(追記)

スクラップを整理していたら、おそらく去年(何年かは記されていなかったので)の12月8日の産経新聞夕刊の切り抜きが出てきました。「パスワード〜陰翳礼讃(いんえいらいさん)」というコラムで田中紘太郎さんという人が書いています。そのサブタイトルが、

「アカルイ時代の遺失物」

「アカルイ」をカタカナで表記しています。「あかるい」あるいは「明るい」よりも、「アカルイ」とカタカナの方が「軽い(カルイ)」感じがしますね。そのコラムの中で田中さんは、久世光彦さんが、「日本は暗くあるべきだと、つくづく思うね。世の中が明くる区なりすぎてね。湿り気を帯びた影というものがなくなってしまった。」と言っていることを記しています。そして、山折哲雄・日文研所長の「演歌=悲哀の感情の発酵作用」論を持ち出したり、また、

「アカルサハ、ホロビノ姿でアロウカ。」

という太宰治の言葉を引いています。「アカルイ」に通じる「アカルサ」は、太宰も使っていたのですかね。暗いのに、太宰は。
2003/9/17

(追記2)

読売テレビ製作で、あの消費者金融のコマーシャルで一躍人気者になった小野真弓さんが主演の映画のタイトルが、
「モリノキオク」
これも全部カタカナです。漢字とひらがなの「森の記憶」とは違って、
「トテモ カワイタ」
感じがします。
2003/11/28


◆ことばの話1349「『号』って何?」

大リーグ、松井選手、8月に入って頑張っていますね。ホームランもポンポン出てきました。そこで疑問が。

なぜホームランは「第10号」とか「号」って言うのでしょうか?「10本目」ではダメなんでしょうか?

オールスターなんかでの「ホームラン競争」では「5本」とか言ってるし、

「この日は、3本のホームランを打ちました。」

とか言うのも「3本」と単位は「本」ですよね。
「号」を使うのは、台風。「台風10号」とか。あと、女性の服のサイズも「9号」とか「11号」とか言いますよね。

『新明解国語辞典』「号」を引いてみました。

「号」=(1)(学者・文人・画家などが)本名・別名のほかにつける風流な名。(例)「雅号」(2)(雑誌や新聞の)発行の順番。(例)「号を追って充実してきた」「創刊号」(3)(A)活字の大きさの等級。(一辺の長さが鯨尺一分(=3,788ミリ)の物が五号、一辺の長さがその二倍(二分の一)の物が二(七)号というぐあいに、号数が大きいほど活字は小さい)。(B)西洋式絵画の大きさの等級。(カンバスを張る木枠の寸法による。号数が大きいほど寸法も大。(例)「風景型十号は、縦四○、九センチ、横五三センチ」(4)法令の各条文の中の、一定の小独立規定。



うーん、これだと、(2)の「号」ですかね。

『新潮現代国語辞典』では、
「号」=(1)「雅号」のこと。(2)定期刊行物などの順番。(3)号数による活字の大きさ。とあって、その他に「さけぶこと」とか「大声で泣きなげくこと」など、「号」という漢字の意味が記されています。

『岩波国語辞典』
は、
「号」=(1)大声で泣く。さけぶ。(2)大きな声でさしずする。あいずをする。また、あいずのしるし。(3)称する。名づける。大げさにいう。(4)呼び名。名。雅号。(5)車・船・飛行機・犬などの名の下にそえる。(6)数詞の下にそえて順位を示す。(例)「第一号」「三号車」(ア)活字の大きさを示す。(イ)絵画で、絵の大きさを示す。(ウ)雑誌などの発行の順番を示す。



とあります。(6)のところにある「数詞の下にそえて順位を表す」が、ホームランの「号」には一番近いかな。台風も同じですが。でも「順番」は表していますが、「順位」は表してないんだけどな。まあ、いいか。
とにかく、「号」とは、こんなものなんでね。号に入れば号に従え。

2003/8/17


◆ことばの話1348「『噛む』か『刺す』か」

「ニューススクランブル」でセアカゴケグモの特集をやっていました。7年くらい前に大阪の堺市・高石市あたりで発見されて大騒ぎになったのですが、その後はあまり騒がれなくなっているこの毒クモ、密かに自動車にくっついて行って、大阪府下に散らばり繁殖している、という特集でした。その中で、

「クモは、人を『噛む』のか?『刺す』のか?」

ということが気になりました。特集の中では「噛む」を使っていたのですが。ついでによく言われるのが、「蚊は刺すのか?噛むのか?それとも食うのか?」ということも合わせて、スクランブルの坂キャスターに聞いてみました。答えは

「蚊の口器は針状だから刺す、クモは二手に分かれてるから噛むかな。ただ、蚊の場合、蜂などと違って、刺す針が口なので、噛むとか食うとも言うのでは?」

というもの。なるほどね。「噛む」は、口の上顎と下顎で挟む動作を指すと。刺すのは「針」などで、1本で出来ますね。「食う」は、ただ「噛む」のではなく、そこから何かを取られる(血とか)から「食う」という表現も成り立つのですかね。
そう言えば映画「スパイダーマン」の主人公が、スパイダーマンに変身するようになったきっかけは、クモに噛まれたのでしたね。「クモに食われる」というと、相当大きなクモを想像してしまいます。
さて、インターネットGoogle検索では、以下の通りになりました。

クモに噛まれる=34件
クモにかまれる=14件
クモに刺される=17件
クモにさされる= 2件
クモに食われる=11件
クモにくわれる= 0件
蜘蛛に噛まれる=28件
蜘蛛にかまれる= 9件
蜘蛛に刺される= 3件
蜘蛛にさされる= 4件
蜘蛛に食われる=34件
蜘蛛にくわれる= 0件


ということで、「クモ」は「噛まれる」、「蜘蛛」は「食われる」が一番使われています。やはり普通のは「クモ」なので「噛まれる」ですが、「蜘蛛」と漢字で書くと、少し大きな、おぞましい蜘蛛なので、「食われる」と。この場合、「噛まれる」と「食われる」は意味が違いますよね。噛まれるぐらいなら許しても、食われるのは、ちょっと・・・・という感じでしょうか。ついでに「蚊」も調べました。

「カに噛まれる」= 1件
「カにかまれる」= 1件
「カに刺される」= 48件
「カにさされる」= 36件
「カに食われる」= 11件
「カにくわれる」= 2件
「蚊に噛まれる」= 71件
「蚊にかまれる」= 206件
「蚊に刺される」=2290件
「蚊にさされる」= 727件
「蚊に食われる」= 437件
「蚊にくわれる」= 138件


「蚊」「カ」の場合はダントツで「蚊に刺される」。2290件です。ひらがなの「さされる」も入れると、3000件を超えますね。次いで、「食われる」「かまれる」の順。あ、「カ」と「蚊」は圧倒的に「蚊」ですね。「蚊に食われる」は「方言」と聞いたこともありますが。カタカナ1文字の「カ」では、ちょっと、わかりにくいということでしょう。そこは2文字の「クモ」との違いですね。
蚊やクモに、かまれたり刺されたり食われたりした時の参考にして下さいね。あっ、でもそういう事態にならないように、まずはお気をつけを!

2003/8/17


◆ことばの話1347「ときしょなし」

三重県上野市(伊賀上野)出身の両親と話していたときのこと。母が、

「伊賀弁で、あまり大阪では聞かん言葉では『ときしょなし』がある」

と話しました。私は初めて聞く言葉です。意味は?と聞くと、

「のべつ。いつも。どこでも、ひっきりなしにということ。『のべつ幕なし』。」

とのこと。『日本国語大辞典』を引いても載っていませんでした。
インターネットでGOOGLE検索したところ、たったの1件だけ、使用例がひっかかりました。それも漢字交じりで、

「時所なしに」

という形でした。以下に引用します。



「びびんばさん、昨夜はどうもありがとう。いろいろ暴言も吐きましたがお許しください(てへ)。 風邪はめぐりめぐって最後に自分に来たので多分大丈夫です。 大抵家族の看病して弱ったところにくるから重くなるんだよねえ。普通病気になるとやせるもんだが、口当たりのよいものを時所なしに食べるので 太るるのが鬱。とりあえず、今日は洗濯干して〜掃除して〜 寝ようかな。」



という文章でした。この方は伊賀地方出身なのかなあ。「時」は訓読み、「所」は音読みという「湯桶(ゆとう)読み」ですね。最初に漢字(文字)から入って出てきた言い方なのでしょうか?どなたか、この言葉に関してご存知の方、メール下さい。メールは「ときしょなし」で結構です。(この使い方は、合っているのか?間違っているのか?)

2003/8/17


(追記)

インターネットの掲示板「ことば会議室」に「ときしょなし」について何かご存知ありませんか?と書いたところ、Yeemarさんから、書込みをいただきました。それによると、

『日本方言大辞典』(小学館)には、
「ときしゅんなし(時旬無)」

というのが載っていて、「時期、または時刻にかかわらないこと」という意味。奈良県の南大和地域で使われていて、野村伝四『南大和方言語彙』(1936)に載っているんだそうです。関係あるかもしれませんね。伊賀上野と奈良の南大和地区なら、地域的に「近い」と言えるでしょうから。Yeemarさん、ありがとうございました!

2003/8/31


◆ことばの話1346「『ちゃん』と『さん』」

8月12日、兵庫県の加古川で、小学2年生の柏田ひなのちゃん(7歳)がおぼれて死亡、姉の小学5年生あきらちゃん(11歳)が行方不明になり、その後(14日)に遺体で見つかるという水難事故がありました。
この事故を報じた新聞各紙が2人につけた「敬称」が、微妙に違います。
8月13日14日の新聞は、

読売・産経・日経=ひなのちゃん(7)、あきらさん(11)
朝日・毎日=ひなのさん(7)、あきらさん(11)


という具合。読・産・日は、7歳の妹には、「ひなのちゃん」と「ちゃん」を付け、11歳の姉には「あきらさん」と「さん」を付けました。朝・毎は、2人とも「さん」で統一しています。
8月14日に私が見たテレビは

読売テレビ、NHK、朝日放送=ひなのちゃん(7)、あきらちゃん(11)

と、ともに「ちゃん」でした。また、日本テレビ系列でも、「ズームイン!SUPER」は番組で独自の基準を持っているということです。それは、

「小学生以上は『ちゃん』を使わない」

というもので、それに従って2人とも「さん」付けでした。
先日の長崎の事件では、ほとんどのメディアが、被害者の男の子について、
「駿ちゃん」
「ちゃん」付けし、日本テレビ系列だけが「駿君」と「君」付けしました(平成ことば事情1284「『ちゃん』と『くん』」参照)。
あの時とは、性別と年齢が違いますが、「子どもの年齢と敬称」の基準がどの辺りに置かれているのか、メディアによる違いを観察するには都合のよい事例です。
おそらく、

読売新聞、産経新聞、日経新聞
は、
「10歳以下は『ちゃん』、11歳以上は『さん』」

ということになっているのではないでしょうか。でもそうすると、同じ小学5年生でも、10歳か11歳かで「ちゃん」と「さん」に分かれるケースも出て来るということですね。
なかなか微妙なラインです。

朝日新聞と毎日新聞
は、「ズームイン!SUPER」と同じく
「小学生以上は『さん』。『ちゃん』は使わない」

という考えなのではないでしょうか。これはもしかしたら、子どもをどの年齢で一人前に扱うか、「子どもの人権」をどう考えるか、というようなこととも、つながってくるのかもしれませんが、そこまでの背景は、とりあえずはないでしょう。
10歳までは、「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・とう」と、年齢に関して和語の数え方ができますが、11歳以上はそれがしにくい、というような判断基準もあるようです。



いずれにせよ、この夏、冷夏と言われながら、毎日のように悲しい子どもの水の事故のニュースが聞かれます。親御さん達も十分にご注意下さい。

2003/8/17

(追記)

9月11日の日本テレビ「きょうの出来事」を見ていたら、福島県須賀川市で行方不明となった小学6年生のニュースを流していました。
被害者は、金澤明香(はるか)さん(11歳)。その後、明香さんは、無事見つかりましたが、11歳の小学6年生は、やはり「さん」付けでしたね。

2003/9/15


(追記2)

10月8日、三重県桑名市で連れ去られた小学3年生の女の子(8歳)が無事保護されました。この女の子の敬称が、
(日本テレビ)山家由衣(やまが・ゆい)さん
(NHK)山家由衣ちゃん
(TBS)山家由衣ちゃん

でした。

2003/10/9


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