◆ことばの話510「扇と扇子」


12月10日の各紙夕刊に滋賀県信楽町の「MIHO MUSEUM(ミホ・ミュージアム)」という所が所蔵している室町時代の「桧扇(ひおうぎ)」が、実は足利義満が、和歌山県新宮市の「熊野速玉大社」に奉納した12の桧扇のうち、明治時代の火災で流失して所在が分からなくなっている「国宝級の桧扇」の可能性が高くなったというニュースがありました。この「桧扇」を説明するのに、



「これは"扇子"と言ってもよいのか?"扇子"と"扇"はどう違うのか?」



という疑問が出てきました。



いつものように、「日本国語大辞典」を引いてみました。



「おうぎ<扇>手に持って振り、風を送る道具。機能的にはあおいで涼をとるものと、悪気やけがれを祓うための祭事、祝儀用のものに分けられる。形状から、摺りたためない団扇(うちわ)と、摺りたためる扇子(せんす)とに大別され、一般的には後者をさすことが多い。扇子は材質によって檜、杉などの五枚から八枚の薄板を根元の要(まなめ)で綴じ合わせる板扇の類と、竹、鉄などの数本の骨に紙、絹布などを張った紙扇、蝙蝠(かわほり)の類に分けられ、それぞれ、冬扇、夏扇とも呼ばれる・・・・」



とありました。



これによると、「扇」は一般的には扇子を指す、ということですし、「桧扇」も「扇子」と見て差し支えないでしょう。写真を見ても、この桧扇は、扇子のように27枚の桧の板が要で止められていて、見るからに「扇子」です。もちろん、実際にあおいで使ったりはせずに飾ったんでしょうけど。それにしても、団扇(うちわ)も「扇」の一種なんですね。形は「扇形」じゃないのに。確かに漢字を見れば、「団扇」は「扇」という字を使っていますね。「名は体を表す」、か。



それにしても「扇」と「扇子」、漢字の上では「子」がついているかどうかの違いですね。この「す」と読ませる「子」の意味はなんでしょうか?



「新明解国語辞典」を引くと、



「子(す)」=「("す"は"子"の唐音。)一定の物の名に添えて、漢字二字の熟語を作る接尾語。(例)金子、銀子、扇子、様子」



と出ていました。ホラ、しっかり「扇子」も出ていますね。「広辞苑」では、



「子(呉音はジ、唐音はス)」=「物の名などに添える助辞。(例)帽子、扇子、調子」



とこちらは「シ」と読むものと「ス」と読むものをごっちゃに書いてありました。



次に、この「桧扇」を数える場合、序数詞はなんと言えばよいのか?という問題も出てきました。一本でしょうか?それとも一面でしょうか?それとも一(ひと)振り?



こういう時は、「新明解」。ものの数え方が載っていますからね。さっそく引いてみると、



「扇(かぞえ方)=一枚、一本」



とありました。ちなみに「扇子」



「(かぞえ方)=一本」



だけでした。しかし、実を言うと、このニュースを載せた産経新聞と日経新聞の記事には、



「桧扇一面」「奉納した十二面」



というふうに「面」が使われていたのです。 つまり、国宝級の絵が描かれたこの扇は、折りたたんだりはせずに、開いて絵を見せたまま飾られるのが本来のあり方であり、そうであれば、「一本、一枚」とかぞえるのではなく、「一面、二面」というふうに数えるということになるのでしょう。 余談ですが、「扇」はもとは「あふぎ」ですから、現代語表記では「おうぎ」となるのですが、国土交通大臣の扇千景さんの「扇」のふりがなは、なぜか「おおぎ」です。「おおぎ」というと、プロ野球・オリックスの前監督の仰木彬さんを思い出してしまいますが。



もひとつおまけに、このワープロでは「おうぎ」と打っても「おおぎ」と打っても、どちらも一発で「扇」と変換されました。

2001/12/18



◆ことばの話509「多大なる貢献をされ」

表彰状をもらったことがありますか?えっ?小学校の時にもらったって?



そうですね、最近、とんと縁がありませんね。



さらに縁が無いのは、「賞状を贈る立場になること」ではないでしょうか。



そんな立場になった、会社の制作部の後輩から、電話がかかってきました。



「道浦さん、賞状の文章なんですけど、"多大なる貢献され"っていうのは変ですかね?"多大なる"だと"貢献をされ"になりますよね。でも"貢献する"は動詞で、ひとつの言葉でしょ。"貢献をする"というふうに"を"を入れるのはおかしくないですか?」



と畳み掛けるように聞いてきます。



「うーむ、"貢献する"は確かにひとつの動詞だけど、複合動詞だから、"貢献をする"というふうに"貢献(=名詞)十する(=動詞)"でもおかしくはないと思うよ。」



「でも"貢献をされ"はヘンな感じなんで"貢献され"にすると、"多大に貢献され"になるんですが、これってヘンじゃないですか?」



「そうだねえ、おかしくはないけど、賞状としての重みがねえ・・・。ところで一体これは何の賞状なの?」



「上方お笑い大賞の"功労賞"として、落語界の重鎮というか人間国宝に出すんですけどね。誰とは言えませんが。」



「・・・言うとるがな。なるほど、それはしっかり書かな、いかんわな。まあ、口語だと"多大なる"というのは重々しすぎるかもしれないけど、賞状の文章としては"多大なる貢献をし"でいいんじゃないかなあ。」



「わかりました、そうします!」



ということで一件落着。



「それにしても、30代になったばかりの私ごときが、人間国宝に出す賞状の文章を考えなきゃいけないのが、おかしいとおもいませんか?」



と、彼女は口にしていましたが、いえいえ、そんなことはありませんよ。一生懸命、失礼のないように文章を考えていたあなたの仕事振りについては、決して失礼とは思われないと思いますよ。きっと、人間国宝も、



「味なことをしはりますなあ。」



とおっしゃっているのではないでしょうか。

2001/12/13



◆ことばの話508「訓読みとは何か?」

平成ことば事情487「肉汁3」で、「肉」という漢字の訓読みについて考えました。

「"肉"は音読みだけで訓読みがない」と言われていましたが、それは実は「常用訓」がないというだけで、「しし」という立派な訓読みがある、というようなことでしたが、その後「訓読みとは一体何なのか?訓読みの基準とは?」といったことに考えが及びました。



漢字には「音読み」と「訓読み」があるのは、ご承知の通り。小学生でも知っています。



広辞苑によると、「音読み」とは、「音読(おんどく)に同じ」とあり、「音読」の二つ目に意味に、「漢字を字音で読むこと。」とあります。「訓読み」を引くと、「くんどくの【1】を見よ」となっていて、「訓読」には「漢字に日本語をあてて読むこと。秋を"あき"、天地を"あめつち"と読む類」とあります。



上にも書いたように、常用漢字表で認められている「訓」は、「音読みでない漢字の読み」、つまり「訓読み」の、ごく一部です。そうすると、「訓読み」の表す守備範囲は、本来、大変広いものではないだろうか、ということに思い当たります。



たとえば、夏目漱石が「五月蝿い」と書いて「うるさい」と読ませたのや、「生憎」「あいにく」「自惚」「うぬぼれ」「只管」「ひたすら」「悪戯」「いたずら」などというのも、「訓読み」と言って良いのかどうか。



普通、こういったものは「当て字」と呼ばれています。「当て字」も「訓読み」なのでしょうか?



村石利夫著「日本語の当て字うんちく辞典」(自由国民社1994、6、1)という本によると、



「学者はこれらの当て字を熟字訓と格好よく呼んでいるが、実は当て字というのは、かなりいい加減なものなのである。」



と、その序で喝破しています。「当て字」は「熟字訓」と呼ばれているのですね。その上で、「当て字」を6つに分類しています。



(1) 熟字訓



多くの人がすぐ読める当て字ということで、従兄弟(いとこ)、叔父(おじ)などはまだわかるが、五月雨(さみだれ)、私語(ささやき)などは、あまりよいとは思われない。



(2) 借用訓



中国語から借用した当て字のことで、蜻蛉(とんぼ)<せきれい>、筋斗(とんぼがえり)<きんと>などをさすが、そのほとんどは日本語の貧困さを示すものばかりである。これらはカナ書きがよい。



(3)意味訓



ユーモアをもった日本製当て字ともいうべきもので、蛙子(おたまじゃくし)、秋刀魚(さんま)などがあてられる。しかし前者はよいが、後者はわかりにくいというように玉石混淆である。



(4)捕足訓



中国語表記のままではわかりにくいので、上か下に一字補った当て字。梯子(はしご)の「子」、湯湯婆(ゆたんぽ)の「湯」、玉蜀黍(とうもろこし)の「玉」をはじめ多くの例をあげることができる。



(5) 上下同意語



右の補足訓のようなものだが、こちらはわかりづらくなった日本語の古語に一字補った当て字。稲毛「イナ・ゲ」、清水「シ・ミズ」、横手「ヨコ・テ」などがあり、これを追求すれば日本語のルーツがわかるかもしれない。



(6) 国字訓 峠(とうげ)、凪(なぎ)、辷る(すべる)など、日本で作った漢字をいう。近代に入ってからこの国字がすっかり作られなくなってしまったが、もっと多く使うべきだと思っている。



ということを村石さんは書いてらっしゃいます。村石さんは1930年生まれの翻訳家・文筆家の方だそうです。



例えば「太田道灌」と書いて「にはかあめ」と読むのも、「訓読み」ですね。(実はこれは今回初めて知りました。「箕(実の)一つだになきぞ悲しき」だからか。「当世書生気質」に出て来るそうです。)これは(3)の「意味訓」でしょうか。



先月(11月)30日に、兵庫県三木市の小学生の男の子が誘拐され、その後、無事救助されるという事件がありましたが、この男の子の名前は、



「騎士」



と書いて、



「ナイト」



と読むものでした。これも(3)の「意味訓」に当たるのでしょうか?これからはこういった名前の子が増えるかも。えっ?もう増えてるって?



こういったものを「新訓」とでも名付けてはどうでしょうか。



明治時代にも、坪内逍遥の「当世書生気質」の中で「四円だけゲットしたのさ」というセリフの「ゲット」のあとに、漢字で(得領)と書き、そこに「てにいれる」とルビを振ったというのもありますが、外来語に漢字でルビを振るパターンも考えられるということでしょうか。



1986年5月27日の朝日新聞に、言語学者の橋本万太郎さんという方が講演の中で、



「私は提案したい。漢字語根によって新しい言葉を作ったら、カタカナ音訳語をその漢字のルビとして使ったらどうだろうか。(略)たとえば"高技"と書いてハイ・テクと読む。こういう"訓"はすでに始まっている。」



と話しているという情報を、早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんからいただきました。



この橋本万太郎さんは、「漢字民族の決断」(大修館書店)という本の中で、



「超市」と書いて「スパマケ」と読むような「昭訓」というものを認めたらどうか。



といったことを書いているという情報をNHK放送文化研究所の塩田雄大さんからも寄せていただきました。おふたかた、ありがとうございます。まだこの本は読んでいないのですが、面白そうですね。



「昭訓」とは、「昭和の新しい訓」の略なんだそうです。1986年は、昭和61年。そうか、昭和だったんだあ・・・。昭和は遠くなりにけり。タイガースの優勝は更にその一年前・・・星野さん、頼んまっせ!んんん、話がそれました。平成13年の今なら「平訓」ですかね。なんか、「イカクン」(イカの薫製)みたい。



またその一方で、斎賀秀夫さんの「漢字の缶づめ(教養編)」(旺文社・1998、11、10)には、「当て字の追放と復権」という項(P72〜73)があり、昭和21年に「当用漢字表」が公布されたときには「お父さん、お母さん、時計、今日、景色、七夕、土産」といった漢字が、「当て字だから誤り。仮名書きにしなさい」という表記指導が行われていたそうで、その後、



「やっぱり、いくらなんでも、それはおかしい」



ということになって、昭和48年6月の内閣告示・訓令の「当用漢字改定音訓表」「改定送り仮名の付け方」で「慣用の久しいものは取り上げる」として、「お父さん、お母さん」などの当て字、「田舎・為替・五月雨・眼鏡・時計」などの熟字訓を計106語を「付表」として掲げ、20数年ぶりに「復権した」とあります。現在この熟字訓は、さらに「おじ(叔父・伯父)おば(叔母・伯母)・桟敷・凸凹(でこぼこ)」の4語が加わって、110語になっているということです。



この「漢字の缶づめ」の中には、いろいろと面白い話が載っていて、例えば、



「"生"の字の読み方は百何十とおり?」という項には、



「中国語における漢字の読み方は、一字一音が原則だが、日本語では、漢字が千数百年前も昔に中国から伝えられて以来、日本独特の種々の読み方を生み出した。大別して、音と訓という二様の読み方が生じ、また、音、訓それぞれに幾とおりもの読み方を持つ漢字さえできた。



"生"という漢字の読み方などが、その代表と言える。この字は現行の"常用漢字表"の音訓欄でも



"セイ・ショウ・いきる・いかす・いける・うまれる・うむ・おう・はえる・はやす・き・なま"



という十二の音訓(ほかに"別表"で"芝生"も)を認めているが、このほかにも、



弥生(やよい)、千生瓢箪(せんなりびょうたん)、生憎(あいにく)、



生呑(なまのみ)平生(ふだん)、生命(いのち)、宿生木(やどりぎ)



などの読み方があり、これが地名などになると、もっと複雑な様相を呈する。いま、試みに日本交通公社の"時刻表"から"生"を含んだ駅名を拾ってみると、



生駒(いこま)、福生(ふっさ)、壬生川(にゅうがわ)、石生(いそう)、羽生田(はにゅうだ)、能生(のう)、粟生(あお)、生保内(おぼない)、麻生釣(あそづる)、晩生内(おそきない)、筑前垣生(ちくぜんはぶ)、



生見(ぬくみ)、越生(おごせ)、生地(いくじ)



などの例が見られる。"生"の読み方は百何十とおりもあるという伝説(?)があるが、まんざらそれがウソとは思えないほど、さまざまな読み方があるものだ。」



だそうです。すごいね、どうも。



一方、杉本つとむ編「あて字用例辞典」(雄山閣出版1994)「<あて字>概説」いう論文が載っていました。それによると、日本の漢語は、



(A)中国からの借用・転成



(B)創作漢字語



に分けられ、このうち(A)の「中国からの借用・転成」は、



【1】広義のあて字



【2】狭義のあて字



に分けられ、さらに【2】の「狭義のあて字」は、



(a)借義法



(b)借音法



(c)借義・借音混用法



の3つに分けられる。



一方(B)の創作漢字語は、



(イ)新造語



(ロ)翻訳による仮借の音訳語



(ハ)日本語に漢字をあててつくる



の3つと、一部は、



(ニ)【2】狭義のあて字



も含む、という図式が出ていました。



また、「山女」を「アケビ」と読んだ場合、古くは「義訓・義読」の術語を用いたと記していました。広辞苑で「義訓」を引くと、



「漢字の用字法の一。漢字本来の字義に基づく正訓に対し、"寒(ふゆ)""黄変(もみつ)"のように語の意義に合わせて漢字をあてはめるもの」



とありました。ちなみに杉本先生は、飯間さんの恩師だそうです。



ひとことで「訓読み」といってもいろいろなものがあり、その中で、人の間でよく使われるようになったものが、「訓読み」として定着してゆくのでしょう。



その証拠に、前出の飯間さんによると、従来は「音読みしかない(訓読みはない)」とされていた「肉(にく)」を始め、「菊(きく)」「絵(え)」「幕(まく)」「象(ぞう)」も、「大字源」では「読み」として採用、訓とみなしているそうです。



ことばは時代と共に移り変わるものですが、漢字の読みもまた、時代につれて、移り変わっていくものなのですね。



2001/12/20


(おまけ)

「漢字の缶づめ」はなかなかおもしろい本で、「音読みにするか、訓読みにするかで別語になってしまう言葉」(104ページ)をまとめています。例えば、



「目下」もっか、めした



「細目」さいもく、ほそめ



「大事」だいじ、おおごと



「色紙」しきし、いろがみ



「初日」しょにち、はつひ



このほか、「どんな音読みをするかで別語になってしまうもの」も上げてありますが、ここには載せません。日本語ってホントにむずかしいですねえ。
そう言えば今朝の番組で、休暇中のNアナのピンチヒッターを務めた2年目のMアナが、「物事(ものごと)」を「ぶつじ」と読んで、物議(ぶつぎ)を醸していましたね・・・。

2001/12/21


◆ことばの話507「地雷」

今(12月11日)、中谷防衛庁長官がアメリカのワシントンへ行って、地雷の除去に関する話し合いをしています。



今回はその地雷ではなく、比喩としての「地雷」の話。



「週刊SPA!」の2001年12月12日号に「20代OL女同士の<タブー>ルールブック」という特集がありました。そこに出てきたのは、



「たとえ褒めたつもりでも失敗に終る事もある微妙な地雷源



「出てくる出てくる"不可侵領域"。男同士だと簡単に口にできるような内容も、実は心の"地雷"という事実も発見。」



「彼氏やダンナに関する情報開示についても、至るところに"地雷"が埋まっている。




「すべての話題に関してタブーが存在するのでは?と思わせるほど多くの"地雷"が隠れていることがわかった。」



「では、女性の多くが、地雷の位置を察知しながら会話を進める理由はどこにあるのか?」



と、物騒な「地雷」の数々。



ここにおける「地雷」とは「タブー」「不可侵領域」「立ち入り禁止区域」「聖域」というような意味で使われています。つまり、決して話題として立ち入っては行けない領域で、もしその話を相手にふると相手の逆鱗に触れて、その場の雰囲気や自分と相手の関係が、それこそ



"チュドーン"



と木っ端微塵に吹っ飛んでしまうような話題にのことを指しているようです。ちなみに、その領域の話をしてそういった状態に陥ることは「地雷を踏む」と言うます。まさに比喩的表現。「地雷を踏んだらサヨウナラ」というジャーナリストの本や映画もありましたね。これは比喩ではありませんが。



この比喩的な言葉、これまでも耳にしことはありましたが、それほど気にしないでいました。しかし、いまや、ごくごく「フツー」に使われているのではないでしょうか。



図書館で借りてきた、NHKアナウンサー・山根基世さんが書かれた本「ことばで"私"を育てる」(講談社・1999,12,8)の中にもこの「地雷」が出てきました。



「"世間話"のすすめ」(112ページ)という項で、ある高名な画家の取材をしたあとに、「ちょっとお茶でも・・・」と言われてスタッフ一同ついて行くと、高級料亭に連れて行かれ、その座がもたない事から、カメラマンがつい「先生の絵は○○先生の作品とどこか似ているように思います。」と最上の誉め言葉のつもりで言ったところ、先生の息子さんが、「ハ?あの方は、うちの先生とは対極の描き方をなさる方ですが・・・」と心外な様子だったそうです。そこで山根さんは、



「ああ、マズイ、地雷を踏んでしまったナ」と思う焦りから、ひきつづき私までもが息子さんに、某有名人に似ていらっしゃると口走ってしまった。



そうです。「地雷」を踏む、山根さんも使ってらっしゃいます。



この意味での「地雷」は「広辞苑・第五版」にも載っていませんし、「生きのよい現代語辞典」とみずから名乗っている「三省堂国語辞典・第五版」(2001、3、1)にも載っていません。



「日本国語大辞典・第二版」にもその意味は載っていません。ただ、



「地中または地表直下に目立たないように埋設し、人または車両の接触・加圧により爆発するように装置した爆薬。対戦車地雷・対人地雷など。地雷火。」



と載っているだけです。かなり詳しい説明ですが、「地雷そのもの」の記述ですね。。「装置する」というのは、意味から考えると不思議はない言葉ですが、「装置」が名詞として私の頭の中にはインプットされていたので、新鮮な響きがありました。

2001/12/11


(追記)

NHK放送文化研究所の塩田雄大さんから、「地雷を踏む」という言葉の使用と、フジテレビのドラマ「ロングバケーション」(キムタク・山口智子主演)の視聴者の間に相関関係があるという論文を、大阪外国語大学の小矢野哲夫教授が書いてらっしゃる、ということをうかがったので、大胆にもご本人に、「その論文のコピー、下さい!」とお願いしたところ、小矢野先生は快くコピーを送って下さいました。この場を借りて、御礼申し上げます。



さてその論文ですが、「日本語学」の1996年9月号に掲載されたもので、タイトルは「テレビと若者ことば」。その最後の方に載っていました、「地雷を踏む」



それによると、大阪外大などの学生151人にアンケート調査したところ、



「地雷を踏む」という言葉を「知っている」人が70人(=46%、そのうち使う人は8人=5%)、「知らない」人が81人(=54%)。



そして「地雷を踏む」を知っている人の中で「ロンバケ」を見ていた人は80%、見ていなかった人は20%だったということです。また、「地雷を踏む」を知らない人の中で、「ロンバケ」をよく見ていた人は18%、時々見ていた人は19%、見ていなかった人は44%だそうです。



ここで、小矢野先生は「地雷を踏む」の意味は「怒らせる」だと書いています。ちょっと微妙にニュアンスが違うような気もしますけれど。まあいいか・・・なーんて書いて、小矢野先生の「地雷」を踏んじゃったりして・・・。

2002/1/10



◆ことばの話506「ツインカム」

朝の番組での出来事。工藤静香とキムタクが4億円の豪邸を建てたという話題の時に、



「すごいですねー!」



と感心したWアナウンサーに向かって、野球解説のK藤さんが、



「おまえも立派なマンション持っとるやんけ」



と突っ込み、それに追い討ちをかけるように、Nアナウンサーが、



「Wさんはツインカムですもんね。」



と言ったのです。



ん?ついんかむ?それって、車のこと?と、しばらく(0,6秒)考えてわかりました。Nアナが言おうとしたのは、



「ダブルインカム」



だったのです。ほら、10年ぐらい前、バブルの頃に言われた、夫婦共働きで収入が普通の家庭の2倍あるという。ついでに、手間と金のかかる子供がいなければ「ノーキッズ」で、「ダブルインカム・ノーキッズ」。思い出しましたか?そう、
「DINKS(ディンクス)」



と呼ばれた生活形態です。ありましたねー、そういうの。えっ?もう忘れた?そうですか。



御年29歳のNアナは、その言葉が流行った頃にはまだ学生で、そういうことにはあまり興味がなかったのでしょうね。だから、なんとなく聞き覚えた言葉を使ってしまったという訳でしょう。確かに、「ダブル」と「ツイン」は似ていますね。「2」だから。でもベッドだと違うな。それよりも「カム」と「インカム」は違うでしょ。



この出来事で明らかになった事は3つ。



【1】Wアナは、ツインカムではなくダブルインカム(まあ、車にたとえるとツインカムかもしれない。)



【2】Nアナは英語に弱い。



【3】「DINKS」は、いまや死語。



2001/12/10


(追記)



キムタクの4億円の豪邸、実は「誤報」だったそうです。他の人の家だったそうです。なんてぇこった・・・。まったく、もう。

2001/12/18


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