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特 集

2018/06/30

特集01

ル・マンの頂点に日の丸

(実況)
トヨタの2台がいま、フォードシケインを通過。
ゆっくりとゴールに向かいます。
20年以上に渡りル・マンに挑戦し続けたトヨタが
ついに今年、ワン・ツーフィニッシュで、
歴史に残る初優勝をかざりました。


フランス時間17日午後3時。
世界三大レースの一つ、
ル・マン24時間レースで、中嶋一貴が運転するトヨタ8号車が1位、
小林可夢偉が運転する7号車が2位に入り
トヨタ・ガズーレーシンングがワン・ツーフィニッシュ。
表彰台の頂点に、日の丸が舞った。

(山本アナウンサー)
「高々とトロフィーが
 掲げられますと観客たちから大きな歓声があがりました。

1991年のマツダ以来、
日本車がル・マンで優勝したのは27年ぶり2回目。
また、日本人ドライバーでの勝利は史上初の快挙だ。

(中嶋一貴さん)
「ようやくここまで来ることができて最高の気分です。
 最後まで大きなトラブルなく走り切ったトヨタの2台は本当に強かった…」

だが、優勝までの道のりは苦難の連続だった。
レース後の会見ではこんな質問が飛んだ。


(記者)
「最終ラップで2年前のあの時の出来事が脳裏をかすめたのでは?」

(中嶋一貴さん)
「精神的には思ったよりも冷静でしたね。
 でも、2年前のあの時と同じようなことが起こったら、
 みんな心臓が止まってしまったでしょうね」

2年前のあの時とは…

それは2016年のゴール直前。
中嶋一貴のトヨタ5号車は残りあと2周、トップを走っていた。
その時突如トラブルが襲った。
ゴール5分前、チーム無線に飛び込んできた一貴の悲痛な叫び。

(中嶋一貴さん)
「ノーパワー!ノーパワー!」

エンジンが突然故障!
ゴールのわずか3分前、クルマは力尽き、
あと一歩のところで初優勝の夢はついえてしまった。

翌年も結果が残せなかったトヨタ。
壊れないクルマ、強いクルマでなければ勝てないと
痛切に感じていたのは、トヨタの技術者たちだ。

あの屈辱はクルマづくりをどう変えたのか?
今回、開発の現場で話を聞くことができた。


(トヨタ自動車 小島正清部長)
「給料もボーナスもいらないから勝ちたいです、
 なんて言う人もいるくらいモチベーションは高いですね」

レース用ハイブリッドシステムを統括する
小島さんによるとあらゆる部品を短時間に
徹底的に見直す究極の"カイゼン"に一丸となって取り組んだという。


今年の車はスピード同様、壊れないことにこだわった
過去最強のハイブリッドカーに仕上がった。

トヨタTS050は車体中央に
ガソリンエンジンを積み、前後にモーターを加えた
4輪駆動となっている。ブレーキを踏むとモーターが発電機となり
バッテリーに電気を蓄える。
加速では逆にこれをいっきに放電。
エンジンとモーターあわせて1000馬力のパワーを生み出す。

(トヨタ自動車 小島正清部長)
「ハイブリッドというのはモーターに電力をドンと突っ込んでやればバンと
 出せるすごいパワーを出すスピードというのはハイブリッドの方が有利」

こうして臨んだル・マン。
今年もフランス西部の小さな街に
世界中から25万人を超える観衆がつめかけた。

(山本アナウンサー)
「ル・マンの決勝前なんですけどフランスだけでなく
 世界各国からレースファンが集まっていまして、
 決勝がはじまるのを今か今かと待っています」

2012年からル・マンでは、
最上位クラスの車両の動力源はハイブリッドに限定するルールを導入している。
過去、アウディやポルシェが独自のハイブリッドカーで
トヨタの行く手を阻んできたが、相次いでレースから撤退。

今年メーカーとして
参戦するのはトヨタだけになってしまった。
このためレースの主催団体は、
メーカー以外のチームはハイブリッドでなくても参戦できる規定に急きょ変更。
今年はハイブリッド対ノンハイブリッドという図式となった。

ハイブリッドカーのパイオニアとして
絶対負けるわけにはいかないトヨタ。

(トヨタ自動車 小島正清部長)
「ようやく来たっていう感じですね。
 もうあとはやるだけです」

スタート前の混雑をくぐりぬけ
車列の後方へと進んでゆくと日本人の姿が…

レースのインストラクター澤圭太さんは、
アマチュアクラスでシンガポールのチームのドライバーを務め
今年が3回目になる。

(澤さん)
「1年に1回しかこれないところですからね、
 本当に最高の気分です」

一方こちらも
アマチュアクラスに参戦する
元医師、石川資章さん51歳。
私財を投げ打ち、5億円以上を投じて自身のチームを立ち上げル・マンにやってきた。

(石川さん)
「真の道楽とはこれだと…
 真の道楽とは普段どれだけストイックにそれに賭けれるか」

(山本アナウンサー)
「いよいよでございます。
 ル・マン24時間耐久レースが始まります」

フランス時間16日午後3時。
ル・マン24時間レースの戦いの火ぶたが切られた。

(実況)
「フロントローから素晴らしいスタートを決めたのがトヨタの2台、
 そして過去3回ル・マンを制しているロッテラーが乗ったレべリオンが背後から
 ものすごい追い上げでトヨタに迫ります!
 第1コーナーでロッテラーが接触か!ドラゴンスピードがスピン!
 どうやらレべリオンのフロントノーズが壊れたようです。
 開始早々波乱の幕開けとなりました!」

今回トヨタのライバルと目されるレべリオンは
メーカーのチームではない。

トヨタが2.4リッターのターボ付きエンジンなのに対し、
レべリオンは4.5リッターのV8エンジン。
また燃料も1回にトヨタの2倍近く入れることができる。

一見レべリオンに有利なようだが
今年はトヨタの速さが勝っていた。
序盤からトヨタは
ワン・ツー態勢でレースをリードしていった。

トヨタTS050ハイブリッドの強烈な加速。
そのカギを握っているのが専用のバッテリーだ。

市販のハイブリッド車や電気自動車のものとは比較にならないほどの
耐久性が求められると話すのは、
東富士研究所で開発を担当した浜崎さんだ。

(浜崎佑樹さん)
「パワーがとんでもなくあって、
 高熱に耐えうる電池というのはなかなか世の中探してもないのではないかと思う」

浜崎さんも、あの2年前の
悔しさを忘れてはいない。

(浜崎佑樹さん)
「世界三大レースと言われているのでそこで
 ハイブリッドで勝つというのはトヨタとしても絶対逃すことは
 できない勝利なのかなと」

(実況)
「がんばれ トヨタ!」

(山本アナウンサー)
「現在時刻は午後10時半です。
 日もくれまして夜間走行となりました。
 トヨタはトラブルなく順調に周回を重ねています。

ル・マンではサーキットだけでなく
閉鎖した一般道も走る。 
組み合わせると1周およそ13.6キロのコース。

中でも特徴的なのは
"ユノ・ディエール"といわれる長い直線部分。
一番速度が出る区間だ。
トヨタTS050の最高時速は330キロに達する。

(山本アナウンサー)
「目がついて行かない、おーおーおー速い!」

トヨタの初優勝を心待ちにしているモノづくり企業が
ル・マンから遠く離れた東大阪にあった。


ホイールの専門メーカー、レイズは、
2015年からトヨタに
レース用ホイールを供給している。

少しでもタイムを削りたいトヨタがホイールに求めた性能は
軽量・耐久性に加え空気抵抗の軽減にまで及んだ。

ふたに穴をあけたような独特なデザイン、
これで車体の側面との凹凸を少なくし、
空気の流れをスムーズにするという。

この効果をさらに高めるため、
新しいモデルでは、周りの平らな部分の面積を拡大した。

(レイズ 山口浩司営業本部長)
「(17年モデルは)質量がその分増えているんですけど、
 こちら(16年モデル)にはない穴があいてますね。
 これは軽量の穴なんです」

実はこのホイール、
1つのマグネシウムの塊からプレスして作られる。
裏側に目をやると、軽量化のために贅肉を削り落としたような跡が。

新たな工具が必要だったというのだが…

(レイズ 伊藤和則設計開発部長)
「我々でこのホイールを作るためだけに
 刃物もオリジナル、メイドインレイズの刃物を作ってやっているんですね」

(山口さん)
「いったいどれぐらい早くなるんだねと聞くと、
 むこう(トヨタ)はル・マンのラップにすると0.03秒というんですね。
 ただ彼らは400周近く走りますので…」

(山本アナウンサー)
「午前6時、
 空が明るくなってきました。
 スタンドにはトヨタを応援する熱狂的なファンの人たちも集まりはじめました」

その中には東富士研究所で
バッテリーを担当した浜崎さんらの姿が。
休暇を取り、自費で応援にかけつけていた。

(浜崎さん)
「レースって何が起こるかわからないので
 そういう意味では不安な面はありますね」

残り9時間を切ったところで、
依然トップはトヨタの2台。
しかし、この時点で3台がリタイヤ、
5台がガレージで修理中だ。

(実況)
「現在トップは小林可夢偉の7号車、
 そのすぐ後ろに中嶋一貴の8号車
 ここで中嶋一貴がインをつき小林可夢偉の前に出る!
 ミュルサンヌのコーナーで鮮やかに抜き去り
 中嶋一貴の8号車がトップに立ちました!」

ゴールまであとわずか。
最後の給油を終えてピットを
出てゆくトヨタ8号車。
これをスタンドから見守る浜崎さん。

(実況)
「残り3分を切りました。2年前のあの出来事はもう過去のものです。
 トヨタの2台はファイナルラップに入ります!」

2年前、ここにパズルの最後のピースを
置いてきたという中嶋一貴。
ようやくいま、それが完成する。

(山本アナウンサー)
「今トヨタがワン・ツーフィニッシュ。
 トヨタがル・マン初優勝を飾りました!」

(浜崎さん)
「いやぁもう、感無量です!」

ル・マンの表彰台に同時に
2人の日本人ドライバーが上がるのは史上初。
また、アマチュアクラスに参戦した2人の日本人ドライバーも完走を果たした。

20年にわたる挑戦で
ようやくたどり着いたル・マンの頂点。
トヨタの技術者らの一途なカイゼンが
ようやく実を結んだ瞬間だった。
彼らをまとめてきた小島部長に安堵の笑顔が。

(小島部長)
「壊れることはないと思っていましたけど、
 本当にゴールした瞬間ほっとしました。
 今まで届きそうで届かなかったので、
 ようやくたどり着けて若いスタッフにはよい達成感があったのではないか」

次なる目標は日本勢初のル・マン2連覇。
また新たなモノづくりの挑戦が始まる。

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