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特 集

2018/04/07

特集01

「AI」と「BI」は世界を変えるのか?

ことし、国連が
「幸福度ナンバーワンの国」に選んだフィンランド。

(フィンランド人)
「誇れるのは、みんなが平等だということです」

(フィンランド人)
「男女の賃金格差をなくす議論も盛んだわ」

平等を重んじる人口550万人のこの国で、
今、世界が注目する取り組みが始まっている。

6人の子どもを持つ、ユハ・ヤルヴィネンさん。

(ユハさん)
「子供たちにしてあげられる大切なことは愛情を示すことです」

雪深いフィンランドの冬。
外で遊べない子供たちのためにユハさんが室内に遊び場を作った。

この日は働きに出た妻に代わりユハさんが昼食を用意。
子どもたちにとって、頼れる父親だ。

(ディレクター)
Q父親はどんな人?

(ルーカスくん)
「素敵で面白くて、一緒に行動してくれるっていうか手伝ってくれる」

(ルートちゃん)
「いつも応援してくれる」

(アーモスくん)
「僕も同じ」

実は、ユハさん、6年にわたり失業状態だった。
子どもたちの前では、気丈に振る舞っていたが、
内心、うちのめされていたという。

(ユハ・ヤルヴィネンさん)
「7年前に倒産した時、落ち込みんでうつになりました
 失業という状態がまるで社会の外に置かれたような気がしたのです」

そんなユハさんを奮い立たせたのが、
おととし12月、フィンランド政府から届いた通知。
560ユーロ、日本円で7万2千円相当の
ベーシックインカム基本的給付を、
2年間、支給するという内容だった。

(ユハ・ヤルヴィネンさん)
「宝くじに当たったような気持ちでした」

一般的な「ベーシックインカム」の考えは、
赤ちゃんからお年寄りまで、
国が、最低限生活できる一定額のお金を、国民全員に、一生涯、
無条件で毎月支給するというもの。
その代わり、年金や雇用保険、生活保護などの社会保障制度を廃止、
もしくは、縮小する。

フィンランドでは、対象を成人に限定し、

社会保障制度を部分的にベーシックインカムに置き換える制度を検討している。
その実現に向け、去年1月から今年末までの2年間、
失業者の中から無作為に選んだ2000人に無条件でお金を支給する社会実験を始めた。

(社会保険庁 ベーシックインカム担当 オッリ・カンガス博士)
「ベーシックインカムにより失業者は、
 ただでお金をもらって怠けるのか 
 それとも安心して次のステップに踏み出すのか実験の結果が出れば分かります」

ユハさんにとっては、一歩を踏み出す、支えになったようだ。

(ユハさん)
「私の仕事部屋です」

去年6月、自ら会社を立ち上げ、木彫りの太鼓の販売や、映像制作に乗り出したのだ。
現在、稼ぎは月額13万円以上。
ベーシックインカムは、失業手当と違い、
一定の収入を得ても減額されず、課税されない。
失業手当を受給していたときには働くことを躊躇していたという。

(ユハ・ヤルヴィネンさん)
「失業中に、起業してしまうと失業手当を失うことになるのです。
 ベーシックインカムがなければ起業できませんでした」

ユハさんは、家族のためにも、
会社を軌道に乗せたいと意欲を見せる。

“こころの病”を抱えながら、
自分のペースで仕事を探しているミラさん。
ベーシックインカム受給者の1人だが、
生活するには、金額が不十分だと感じている。

(ミラ・ヤスカリさん)
「医療費が かさんできたら、
 ほかに経済的な助けも必要になりますし、
 1000ユーロ(13万円)のお金が受給できればいいのですが」

ミラさんが暮らす首都ヘルシンキ。
物価を知ろうと、レストランに入ってみると―

(ディレクター)
「ミートボールとオレンジジュース、
 2品で23ユーロ、日本円で約3000円です。
 日本人からしたら 割高な感じもします」

外食が割高なのは、日本より高い人件費が影響している。
ちなみにウェイトレスの最低賃金は、
働き出して2年未満で、月額23万円(税込)。

ただ、スーパーでは、外食よりもはるかに安く、
23ユーロあれば、数日分の食材が買える。

フィンランドの消費税率は24%。
法人税率や所得税率も日本より高く、
教育の無償化や手厚い福祉制度を実現してきた。
しかし、それが今、揺らぎ始めている。

(失業者)
「早く仕事に就きたいです」

フィンランドの職業紹介所。
失業者が、続々と訪れていた。

2000年代のはじめ、携帯電話の売り上げで、
世界トップを誇った、フィンランドのノキア。
しかし、スマホ市場に乗り遅れ、衰退。
2014年、アメリカのマイクロソフトに
携帯電話事業を買収され、
これまでに
1万人以上が解雇された。
また、激動する世界情勢の波が、ここにも。
イラクやシリアなどからの移民が急増。

失業率が、8.8%と高い割合で推移しているのだ。

こうした中、
ベーシックインカムの論議が活発になっている。
さらに拍車をかけるのが、AI・人工知能の飛躍的な進化だ。

(社会保険庁 ベーシックインカム担当 オッリ・カンガス博士)
「AIとベーシックインカムは、セットで語られることが多くなってきています。
 フィンランドも日本もかつては終身雇用でした。
 そしてそれに合わせた社会保障を組み立ててきたのです。
 今、社会がAIで変わっていくときに短期の雇用や、一時的な失業などが出てきます。
 その時に失業者を支えるのが、ベーシックインカムではないかと思っています」

ヘルシンキを訪れた、阿部さん。
ヨーロッパから、機械を輸入している。

(サナース 阿部智 専務)
「AIを活用したリサイクルの選別システムを作っている会社がありまして、
 そこにきょうは打ち合わせで行きます」

その会社は、ゼンロボティクス社。
AIを世界で初めて産業廃棄物のリサイクルに用いた企業だ。


これが日本に輸入した製品。
ベルトコンベアを流れてくる産業破棄物を、
AIが画像で認識する。
大きさや形など、膨大な情報から素材の特徴を学び、
木材は黄色に、金属は青色になどと、同類のものを瞬時に判別して選り分けていく。
24時間稼働でき、12人分の働きに匹敵する。

(サナース 阿部智 専務)
「フィンランドは
 技術も含めて常に何かしら新しいものを生み出している」

(ゼンロボティクス社 ティモ・ターラス社長)
「フィンランドでは80年代から、
 AIに関する研究を積み重ねています。
 ヘルシンキだけでも、2つの大学で、
 十数年にわたり専門知識を教えていますので、土台は完璧です」

壁一面に、本物の植物。これも、AIの製品だ。
背後の白い部分にAIが備わっていて、
葉っぱの状態などを常に認識し、
植物が育つのに最適な環境になるよう制御している。
水を与え、空気を送り、光を調整しているのだ。

(ナーヴァ社 アキ・ソウドゥンサーリ社長)
「AIが学習し、あすの湿度がどれくらいかを予測します。
 様々な植物を植えても、それぞれに合わせて、水を調節するのです」

人手はかからない。
コンセントを差し込み、
2週間に一回、水を入れるだけで、半永久的に植物が生い茂る。

(ナーヴァ社 アキ・ソウドゥンサーリ社長)
「森の中にいるように、空気が新鮮になります」

すでに欧米のオフィスや病院などで用いられている。

フィンランドは、去年、
“AIの第一人者になる”と国家目標を掲げ、
財界や学会による作業部会を設置した。


(総理府 政策分析担当官 タイナ・クルマラ氏)
「補助金だけでなく、法律の整備などで、企業を後押ししています」

AIの導入が進めば、
幅広い職種に大きな影響を及ぼすと指摘する専門家も―


(アアルト大学 オスモ・ソイニンヴァーラ氏) 
「AIは、高度に教育された人間の仕事、
 例えば医者や弁護士銀行家などの仕事を 奪うかもしれません」

議論が白熱する、ベーシックインカム。
問題となるのが、財源だ。

フィンランドの社会保険庁の試算では、
支給額を650ユーロ、8万4千円にする場合
所得税率を一律46.5%にすれば可能だとしている。

現在、中間層の所得税率は30%から35%。
その層でいえば、10%以上の増税になることから反対の声も。

(フィンランド人)
「税率はすでに高いので反対です」

(フィンランド人)
「反対です。ただでお金をあげてしまったら 
 仕事に戻らなくなると思うので」

フィンランドの世論調査では、ベーシックインカムについて、
「税率を上げ、それだけで生活できるほど高い水準にすべきである」との問いに対し、
賛成と反対が、拮抗している。


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世論調査(非営利団体EVA2017年1月)
Q:税率上げてもベーシックインカムを高い水準にすべき?
A:非常に・どちらかといえば「そう思う」39%
A:全く・どちらかといえば「そう思わない」39%
A:「どちらとも言えない」22%
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(アイラ・イェスカネンさん)
「こんにちは」

ベーシックインカムを受給するアイラさん、55歳。
観光業で働いていたが、10年前に失業。
毎週、職探しをしているが、 “年齢の壁”が立ちはだかるという。


(アイラ・イェスカネンさん)
「48歳から採用されていません」

アイラさんは、
ドールハウスの制作などで、わずかな収入を得てきた。
ベーシックインカムを受給できたことで、
明るい未来を描けるようになったと話す。


(アイラ・イェスカネンさん)
「私たちはこの年代まで仕事をしてきているので経験があり 
 社会に貢献してきた実績があります
 しかし病気やケガで働けない人もいるんです。 
 ベーシックインカムは、高齢の方こそ、もらうに値すると思います」

(職業訓練)
「今はどんな気分ですか?」
「昨日より良いです」

“AI時代”になっても、なくならないとされる
職業訓練が人気だ。
それは、准看護師。就職率は100%。

(ワーク&エコノミックオフィス マリアンネ・セリン部長)
「人のケアをする業界は フェイストゥーフェイス、
 人と人とのやりとりなので、ロボットに一部の仕事が取られたとしても
 すべてをロボットがやるのは難しいと思います」

(元会社員 訓練生)
「相手の気持ちを汲み取ってあげることは
 ロボットにはできないと思っています」

AIとベーシックインカム。
北欧の国から届いた議論が、これからの日本人の“幸せ”を考える、
ヒントになるかも知れない。

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