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特 集

2017/11/25

特集01

死体にも格差が…死因不明社会の実情

関係者以外、この部屋に生きて入る人はいない。

日々、遺体が運び込まれ解剖により死因が調べられる。

遠いことのように感じられるが、
誰もが当事者となる可能性が高まっている。

(解剖医)
「自宅で1人で亡くなったりとか、
 そういう方のご遺体が増えている」

一方で、なぜ死んだのか、
正しく調べられずに火葬される人も。

死体にも格差が…、その実情を追った。

和歌山県立医科大学。

この日、地元の警察によって、
1人の遺体が解剖室に運びこまれた。

執刀するのは、法医学教室の近藤稔和教授。
死因究明のスペシャリストだ。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授)
Qきょうはどういった解剖? 
「自宅で…独居の人じゃない」

遺体は、60代の1人暮らしの男性。
警察からの依頼で解剖されるが、犯罪との関連が疑われているのか。

2時間後、執刀が終わった。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授) 
「ちょっと傷んでて、古い死体ですが、基本的には病気」

体内を調べた結果、消化器官から多量の出血を確認。
その後、肝臓の病気が出血の原因とわかり、
結局、病死と結論付けられた。

解剖というと、犯罪と関連して取り上げられる事が多い。
今月、被告に死刑判決がでた連続殺人事件でも、
被害者は当初病死とされていたが、
解剖が行われたことで、
青酸化合物を使った毒殺が浮かび上がった。
ただ、そうしたケースは一握りだ。
 
実は、解剖される遺体の多くが、
先ほどの独居男性のような事件性のない孤独死や突然死した遺体で、
その数は、急増しているという。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授)
「我々の解剖の対象となる数は、
 高齢化社会に伴って増えていることは間違いない。
 いわゆる犯罪、第三者によって亡くなる方は、1割はない」

孤独死や突然死、誰もが当事者になりうるが、
外見から死因を決めるのは難しく、
解剖されなければ間違った死因になることが。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授) 
「病気かなと思ったら実は家に帰ってくる前に転んでて、
 脳出血があったとか…。
 外から見た時の死因と解剖した時の死因の不一致は認識している」

正しい死因を特定しなければ、
なぜ死んだのか知りたいという遺族の思いに応えられない。
また、仮に感染症だったとしても周囲に予防を促すことができない。

死因を正しく知るには、解剖が究極の手段とされている。
その裏側にカメラが迫った。
 
ことし8月。
この日も1人暮らしの男性が遺体となって運ばれてきた。
年齢は50代。
発見まで1週間近くが経過し腐敗が進んでいた。
死因の特定が特に難しいケースだ。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授) 
「一人暮らしだと、病院の通院歴だとかわからないし、
 一人になるとなかなか病院にいかなかったり。
 解剖せずに死因がはっきりわかるというのは少ない」

解剖に先立ち行われるのが、CT検査。
骨折や大量出血が無いかなど予め体内の状況を把握しておくのだ。
 
その後、遺体にメスを入れ、解剖医が臓器の状況を確認する。
見ただけではわからなくても臓器の重さや形から
異状を感じ取っていくという。

ただ、体を開いて終わり、というわけではない。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授) 
「ここまでが心臓ですね。解剖時にご遺体から採取した臓器。
 目では見えない病変を顕微鏡でみるために臓器に染色する」

細胞レベルで異変を探し出し隠れた死因に迫っていく。
他に血液など体液の成分を分析し、
薬を多量接種していないかなどを調べる。

通常、鑑定結果を出すまでに、
10人程のスタッフで1か月半以上かかる。
先ほどの独居男性の遺体も、
様々な検査・分析を経て死因を割り出すことができた。
 
(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授) 
「薬物検査はできたので、薬物を服用した中毒死とか、そういうものは違う。
 目立った外傷の痕跡もない。けっこう痩せてたし、栄養状態は悪い。
 時期は8月と考えると、熱中症を考えるかな」

近藤教授はこれまでに3000以上の遺体と向き合ってきた。
解剖は、亡くなった人だけでなく社会全体のためにもなるという。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授) 
「亡くなった人のためにきちっと解剖する、
 その中で得られた情報によっては生きている人にフィードバックできて、
 今後そういう風な突然死や病気をなくすことにつながる可能性が
 少ないながらもある」

ところが、現在日本では十分に解剖が実施されず、
死因不明社会とも言われている。

その実情を描いたのが、ことし出版された『死体格差』。
人間の死を巡る様々な格差が実話をもとに綴られている。

著者は、兵庫医科大学の西尾主任教授。
深刻な格差の一つとして、
遺体が解剖に回される割合に大きな地域差があるという。
 
(兵庫医科大学 西尾元主任教授) 
「警察が異状死体を扱ったうちに、
 どのくらいの解剖するのかは10倍以上割合が違う。
 この県では解剖するが、同じ亡くなり方でも、
 別のこの県では解剖しないで済ましている」

実は自治体によって解剖率に大きな差がある。
30%を超えるところもあれば、2%にとどまるところも…。
地域によっては、解剖されずに誤った死因がつけられる可能性が高まるのだ。

(兵庫医科大学 西尾元主任教授) 
「夜帰って来て朝亡くなっていた場合では、
 解剖しなかったら急性心不全、病死なんですね。それでおしまい」

地域差を生む要因の一つに、
解剖するかどうかの判断を警察に委ねている現状があるという。

(兵庫医科大学 西尾元主任教授) 
「警察が一番知りたいのは、犯罪性があるかないか、死因が何であるかではない。
 現場に行って、犯罪性がないとわかる場合も多数ある、
 そういった場合は死因をどこまではっきり決めようとするのかは、
 警察によって異なる。
 全国の中で死因を決めることは平等なシステムでなされるのが望ましい」

格差の要因は、解剖現場にも。
和歌山県の近藤教授のもとには、ここ数年毎日のように遺体が運ばれてくる。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授)
「身元不明の方が漂流していた」

高齢化とともに依頼が急増。
ここ10年で倍以上になったが、県内に解剖医は近藤教授だけで、
1人で年間300件近い遺体を執刀しなくてはならない。


依頼は時を選ばず休日返上は当然のことで、
長期休暇は、ここ10年程とれていないという。

県内の解剖率は、全国平均を上回っているが、1人では限りがある。
スタッフを増やそうとしても、解剖医は全国的に不足。
予算も限られ、簡単に人を増やすことはできない。

現在、解剖医が1人しかいない自治体は、
地方を中心に全国に15程あり中には一時ゼロになった所も。
地域間のマンパワーの違いが、死後の格差を生んでいるのだ。
 
(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授)
「人を増やすことになると、ある意味で理解得られない。
 死んだ人にお金かけてどうするのんだと。
 しんどいなというのは思っていないというのは嘘になりますよね、
 ただしんどいとやりたくないというのはまったく別で、
 求められるのであればいつでもやりますよ」

近藤教授は今、若手の育成にも力を入れている。

解剖を用いた死因究明の重要性を多くの人に知ってもらうことが、
何より大切だと考えている。

(和歌山県立医科大学 近藤稔和教授)
「解剖という行為が亡くなった方を傷つけたりとか破壊的な意味ではなくて、
 亡くなった人の人権を守るのに必要であると、1人1人が認識すると。
 そうした認識が高まると、人がつき、予算がつく。
 国レベルでの制度が築かれていくのでは」         
              

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