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特 集

2017/09/09

特集01

がんと妊娠 -若年性がん患者への支援

この2年余り、
朝食は決まって健康を気遣う
母の手作りジュースだ。

小林円香さん・28歳。

25歳の秋、血液のがんである
悪性リンパ腫と診断された。
保育園に就職して1年半後、
これからというときだった。

(小林円香さん・28歳)
「ショックで
 電車とかにも乗れなくなって」

幸い、半年間にわたる
抗がん剤治療で回復。
今は定期的に検査を受け完治を目指している。

がんになり、
真っ先に頭に浮かんだもの。
それは、治療により
妊娠できなくなるのではという不安だった。

(小林円香さん・28歳)
「強い治療をする予定だったので
 閉経してしまって生理が止まって
 女性ホルモンが出なくなって
 健康にも害が出たらこわいな。
 子どもを3人ぐらい欲しいと
 勝手に思っていたので
 頭がぐるぐるしちゃって」

抗がん剤治療により
卵巣や精巣の機能が著しく低下し、
女性なら無月経、
男性なら無精子症など
”生殖機能”そのものが失われる恐れがある。

しかし。

(小林円香さん・28歳)
「そこまで詳しい説明はなかったですね
 生きるということが大事だから
 将来の子どものことよりも
 患者さん自身が生きて欲しいって(医師に言われた)」

がん治療の前に
妊娠・出産に関する適切な情報提供がなく
子どもを諦めざるを得ないケースがある。

調査では、ほぼ全ての医師が
患者への情報提供が重要」と答えたが
患者・経験者ともにおよそ60%の人が
妊娠・出産についての説明を
受けていなかった。

(国立がん研究センター中央病院
乳腺・腫瘍内科 清水千佳子医師)
「がんという病気の性質上
 治らないイメージがあって
 まずはがんを治すことに
 医療従事者の関心が一番高い。」

これを受け、日本癌治療学会は7月、
患者への適切な情報提供を行い
妊娠・出産の可能性を残すための
初めての診療ガイドラインを公表した。

近年、がんの治療成績が上がったことに加え、
生殖補助医療が急速に進歩し、
治療後の“人生の質”に
目が向けられるようになったためだ。

小林さんは、闘病中の
同年代の女性のブログで知った
卵巣の凍結保存に踏み切った。

卵巣凍結とは手術で卵巣を片方とって
卵巣組織ごと凍結保存し
がん治療終了後に体内に移植、
卵巣機能を回復させる方法だ。
卵巣内の卵子を数多く
温存できるなどの利点もあるが、
まだ研究段階の方法だ。

費用は100万円。
今は凍結した卵巣の保管料として
年間6万円を支払い続けている。

(小林円香さん・28歳)
「すごい安心材料です。
 もし卵巣機能がなくなっても
 凍結している卵巣があるから
 『私は大丈夫』だっていうお守りみたいな感じ」

ことしに入って彼氏ができた。
病気を伝えることに不安があったが
受け入れてくれた。

15歳から39歳のがん患者は
「思春期・若年成人」の
頭文字をとってAYA世代と呼ばれる。

進学や就職、結婚など
人生の岐路を
治療しながら迎える若者は
全国に2万人、がん患者全体の2%程度だ。

社会での孤立を防ぐことを目指し
患者や経験者が集う座談会が
世代特有の悩みや経験を共有するために開かれた。

(子宮がん経験者・32歳)
「得になることや頼りたいことは
 自分から発信しないと情報が得られない
 情報をもう少しわかりやすく提供していただけたら」

(精巣がん経験者・26歳)
「治療を経験した先輩方が
 どうやって就職活動を乗り越えたのか 
 データや体験談があれば
 参考にできたのかなと」

座談会を開いた静岡がんセンター。
2015年、全国に先駆け、
病棟の一角にAYA世代専門病棟を開設した。
常時、数名の患者が入院している。

医師だけでなく悩み相談に応じる専門職など、
チームで若者に向き合う。
また、彼らの居場所となる
交流できる部屋を提供している。

(チャイルド・ライフ・スペシャリスト
阿部啓子さん)

「横のつながり、縦のつながりの時間を
 患者さんそれぞれに作ることができるように
 お互いに支えあうことが
 必要になってくると思います」

妊娠・出産に関する悩みは
年齢を重ねるとさらに切実になる。

田中めぐみさん(仮名)。
30代後半の彼女は
6月末、職場の健康診断で
右胸に早期の乳がんが見つかった。

(田中めぐみさん・仮名・30代後半)
「主治医の先生に『私、妊活してるんです』と
 告知を受けたときに。
 『治療を受けるよりも私、妊活したいんだけど』って」
 自分の夢は子どもを生み、育てることが
 自分の理想としていることので
 ここで諦めるわけにはいかない」

2年間で10回、不妊治療を続け、
がん告知は”妊活”の最中だった。

(田中めぐみさん・仮名・30代後半)
「タイムリミットが迫っている中、
 妊活が開始できるとしたら
 次、40代になっているので」

ホルモン治療中は、
妊娠は避けるべきだと言われている。
一般的に治療期間は5年から10年。
田中さんの場合、
治療が終わった後は自然妊娠が難しい年齢になる。

田中さんは、主治医から
生殖医療の専門医を紹介された。

妊娠する力を温存する治療が
がん治療に影響を与えないか、
医師から説明を受けて選んだのは、
受精卵の凍結保存という方法だ。

(滋賀医科大学附属病院 木村文則医師)
「ちゃんと1つ凍結できました。
 きれいな卵ですし
 安心していただいたら」

(田中さん)
「ありがとうございます」

卵子・精子・受精精卵を凍結保存するこの方法では
がん治療前に卵子や精子を採取して凍結保存。
配偶者がいる場合は受精卵にして、
出産可能な時期に子宮に移植する。

田中さんの場合
卵子を5個採取し受精卵として
凍結保存できたのは1個。

(田中めぐみさん・仮名・30代後半)
「がんのことを受け入れて
 私にはその先の自分の夢である出産への道を
 考えられるなというところにいます」

この後、田中さんは
乳がんの手術に臨んだ。

しかし、2週間後。
手術の結果、リンパ節への転移が判明。
進行度はステージ2と確定し、
抗がん剤治療が必要になる可能性が出ていた。

(滋賀医科大学附属病院 木村文則医師)
「向こうの先生(がん専門医)と
 よく相談してくださいね。
 いつまで(抗がん剤治療を)待てるかですよね。」

手術後も再び卵子を採取するための相談をしていた。

(滋賀医科大学附属病院 木村文則医師)
「次の治療をどうするのか
 ホルモン療法だけでもいいのか
 化学療法(抗がん剤治療)を一緒にしなきゃいけないのか。
 化学療法(抗がん剤治療)であった場合は
 卵巣への影響も考えないといけないので」

(田中めぐみさん・仮名・30代後半)
「大丈夫かな…」

(田中さん)
「もしかしたら次(の採卵が)
 最後のチャンスになるかもしれないですよね?」
(木村医師)
「そのとおりです」

がん治療開始までの
限られた時間の中で
隙間を縫うように行われる。
命が最優先の原則は変わらない。

(田中めぐみさん・仮名・30代後半)
「(命と妊娠)両天秤ですけどね
 がん大丈夫なんやろうかと。
 もう信じるしかないなって」

田中さんが通院する     
滋賀医科大学附属病院では2年前、
がんに罹患した人が
妊娠・出産について相談できる
「がん・妊孕外来」を開設し
情報を提供している。

卵子や精子・卵巣凍結それぞれ
年間10件程度行われているが、
こうした専門施設や医療機関との連携は
一部の地域に留まっている。

また、保険は適用されず
卵子凍結は最低でも30万円から40万円。
高額な費用がかかるのも事実だ。

がんという現実と子どもを持ちたいという未来。
大切なものは、何なのか。

(滋賀医科大学附属病院 木村文則医師)
「患者さんの命を守りたいというのもあります
 情報を提供して数年後、
 後悔しないような形を作っていきたい」

乳がんと診断された田中さん。
受精卵を凍結保存したあと
今月から抗がん剤治療を始めることを決めた。

(田中めぐみさん・仮名)
「(妊娠の)チャンスを与えられて幸せと思いますね
 自分を受けとめてあげなきゃ
 命は守ってあげられないので。
 その先に自分の未来が続くと信じているから。
 今は本当に前を向いて進むのみですね」

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