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特 集

2018/07/14

特集01

児童養護の転換点 

朝、子どもたちの1日は、
優しく声をかけられて始まる。

眠気を覚ましてくれるのは、
キッチンから漂う朝ごはんの匂い。

パパ・ママと一緒ではないけれど、
その顔には、笑みがあふれる。

ここは、大阪の社会福祉法人が運営する「すみれ乳児院」。

乳児院は、経済的な事情や虐待などにより、
保護者が子育てをできなくなった場合に子どもを預かり育てる施設。

0歳から3歳未満の子が対象で、
全国におよそ140か所あり、3000人の子供が生活している。

(職員)
「耳掃除すきやなー」

すみれ乳児院には32人の子どもがいる。
1か月なのか、1年なのか、
保護者の元に戻れるまで皆ここで昼夜を過ごす。

家庭とは違う集団での生活だが、
職員らは、家に居るようなぬくもりを感じてもらおうと工夫をこらしている。

(職員)
「シールはったん、うわ~」

1歳半を過ぎたケンタ君。
生まれて間もなくこの施設に預けられた。

近頃やんちゃになってきたが、この女性職員の前では甘えん坊。

職員もどうやらケンタ君を特別気にかけている様子だ。
というのも…。

(職員)
「担当なんでね、愛着関係を継続している」

この施設では、職員1人1人に1人か2人担当する子どもをつけ、
特別に目をかけるようにしている。

(辻本さん)
「家ならお父さんお母さんが自分だけに愛情を注ぐことができるが、
 普段は集団の中で生活している中で
 自分だけの人という形で信頼関係と愛着関係を継続する」

職員は担当の子どもの成長を細かく記録。
その子が大きくなった時に大切に育てられたことを感じとってもらうためだ。

(成長記録より)
「0歳5か月。あやすと声を出してよく笑う」
「1歳1か月。公園では滑り台やブランコを楽しそうにする」

そして従来より大きく改善しているのが、集団生活の規模だ。

すみれ乳児院は去年、新築の建物に移転した。

それまでの施設では、
1部屋に最大11人が生活していたが、
現在は1クラス6人にまで減らし小規模化を進めている。

それに伴い部屋の作りも改良。
1部屋ごとに、居間・台所・トイレ・風呂を完備。
一つの“家”のように仕上げた。

(すみれ乳児院 菅野由美子 副施設長) 
「この中ですべてできる。洗濯するから一緒に行こうとか、
 お風呂に入るからこっちきてね。そんな部屋が作り上げられた」

身の回りの物にもこだわりが。
食器や着ている服はほぼ全てが、子ども一人一人個人の持ち物。

(職員)
「服とズボン、とってきて」
(子ども)
「これ!」

棚も個別に割り当てられている。
集団生活の中でも、“自分の物”“自分の場所”を確保し、
家庭に近い環境作りに努めている。

日本では親元で暮らせない子どもの受け皿は主に2つ。
乳児院などの施設と、第三者の大人が自宅で子どもを預かる里親だ。

現状、支援の必要な子どもの8割が、施設で暮らしているが、
児童養護のあり方はいま、大きな転換点を迎えている。

去年、国は親元で暮らせない子どもの養護について新たなビジョンを公表した。

家庭的な環境で生活できるよう施設より里親に預けることを重視。
就学前の子どもは原則、施設への入所をさせず里親に預けるとした。
ただ、里親への委託率は成り手不足から2割にも届かず、
“実効性がない”などの指摘が。

(すみれ乳児院 菅野由美子 副施設長) 
「最初にあのビジョンを見たときは施設を否定されている思いで、
 なんか違うな、間違っているなというところから始まっている。
 ここの中でも、幸せに暮らしている子供たちはたくさんいる。
 (国のビジョンが)間違えているわけではなくて、
 (施設、里親)どれも大切で
 どれもいかしながら子供たちの命を守っていくことを
 協同していけたら」

東京・西日暮里にあるボクシングジム。
ここにも国のビジョンに疑問の声を上げる人がいる。

会長の坂本博之さん。
現役時代、東洋太平洋チャンピオンにまで上りつめ、
平成のKOキングと呼ばれた名選手だ。

(SRSボクシングジム 坂本博之会長)
「僕は100人の団体生活をしたが、それでもすごく嬉しかった」

実は坂本さんは、幼いころ両親の離婚などが原因で施設に預けられ、
幼少期の大半を施設で過ごした。

(SRSボクシングジム 坂本博之会長)
「すごく当たり前のように朝昼晩と食事があるでしょ、
 当たり前のように布団もあるし、
 そこで寝ることに安心がありました」

施設が自分を育んでくれた。
その恩を返すため、坂本さんは10年以上前から全国の施設を訪問して、
子供たちを支援する活動を続けている。

(SRSボクシングジム 坂本博之会長)
「より家庭で育てていった方が理想ではないか、
 あくまで理想であって、その子にとっては理想でない時もある。
 施設もあって、里親があって、いろんな選択肢があっていいと思う」

昼過ぎ、大阪のすみれ乳児院。

(職員)
「お~、上手!」
(子ども)「できない」
(職員)「できないの?」

子どもらしい無邪気な姿に職員も喜びを感じる一方で、
つらい思いをさせてしまうことも。

お昼寝の時間。
1歳半を過ぎたケンタ君は、
担当の職員の抱っこで眠りにつこうとしていた。
ところが…。

(ケンタくん)
(ぎゃ~) 

泣き叫ぶケンタ君。
担当の職員は、勤務の都合上、ケンタ君の部屋から離れることに。
マンパワーに余裕はなく家庭では許される甘えに応えられないことも。

そのため、より家庭的な環境が必要と判断した場合、
子どもは施設から里親へ預けられることもあるのだ。
 
(すみれ乳児院 菅野由美子 副施設長) 
「施設の生活しか知らないでは世間が狭い。(
 (里親の元で)少しでも家庭生活を経験できるほうが、
 これからの将来にとってプラスになる」

ところが里親家庭の数は十分とは言えず、
里親が見つかるケースは決して多くない。

里親になるためには行政が定めた研修を受け、
経済状況などの審査を通らなければならないが、
成り手不足の背景には里親についての誤解がある。

大阪で里親をしている60代の女性。
定年退職後、里親登録をして自宅で子どもを預かってきた。
当初は子どもの人生を預かる負担の大きい事というイメージがあったというが。

(里親の女性)
「小さい子供をあずかると、ハイハイしたりするのを見て
 すごく癒された。
 今までは年寄り夫婦で暮らしているのとは違う、
 明るい生活を送れるようになって生活に張りが」

この家庭ではこの1年あまりで、
10歳から高校生までの子ども15人を預かってきた。
預かりの期間は数日から長くても1か月あまり。


実は、里親といっても、
必ず子どもが大人になるまで面倒を見続けるわけではない。
むしろ、一時的な期間だけ預かるケースの方が多いのだ。
 
(里親の女性)
「うちにお預かりしたお子さんが次の日に帰るという晩に
 「メモちょうだい」というのでメモを渡したら
 帰る時にお手紙を置いて行ってくれた。
 嬉しくて保存してある」

里親の支援体制も整備が進んでいる。
一部の自治体では、里親を支援するNPO法人と提携。
法人のスタッフが相談窓口となることで、
里親の細かな悩みに対応できるようになってきている。

(NPO法人キーアセット 渡邊守代表)
「養育里親制度は地域社会で子どもを育む大切な機会になるので。
 子どもが必要なものを獲得していくプロセスを保障する意味では
 大きなメリットがある」

夕方、すみれ乳児院では…。

(職員)
「もしもしするで…」

職員が電話を入れたのは子どもの母親。
保護者に定期的に連絡を入れ子どもの様子を伝えるほか、
生活で困っていることがないか相談にのっている。

子どもを親元に帰すため保護者を支援するのも
乳児院の役割の一つなのだ。

(子ども)
「あむっ!カエル」

夕食をとりお風呂に入った子供たち。
寝る前に絵本を読んでもらうのがお約束。

そして夜8時、消灯。みな、ゆっくりと寝付いていった。

(職員)
「子どもたちの笑顔が見られるような環境に
 社会全体がなっていってほしい。
 温かく子供を見守れるように…それが大人たちの役目だと思う」

親元を離れた子どもたちをどこでどう育むのか。
 
多様な選択ができる社会が望まれている。

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