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特 集

2017/10/14

特集01

中国・闇ワクチン流通の実態

中国東部、山東省。
古い工場の敷地の中に貸し倉庫があった。

(ディレクター)
「ここかなりぼろぼろで、
 老朽化していますよね。
 これではちょっと品質管理は
 難しいという感じは確かにします。」

この倉庫ではかつて
子どもの予防接種に使うワクチンが保管されていた。
ワクチンは本来、効能を保つため
低温で管理されなければならない。
しかしここのワクチンは
温度管理がなされていなかった。

冷蔵保存されないワクチンが流通していたことが
去年、明らかになった。

その期間は2013年6月から
一昨年4月までのおよそ2年。
ワクチンを扱う資格を持たない女が
製薬会社から非正規で仕入れるなどした
ワクチン12種類を売っていた。
売り上げは12億円近くに上ったという。

女にワクチンを卸していた企業の関係者など
291人が起訴された。
また公務員174人が職務怠慢や汚職などで処分され、
事件は広がりを見せた。
しかし、衛生当局は、
女が販売したワクチンの安全性に問題はなかったと断言した。

(国家食品薬品監督管理総局 
 薬化監管司 李国慶司長) 
「ワクチンは短期間であれば
 冷蔵保存を外れても安全性に問題はない」

この事件をきっかけに取材を進めると、
ワクチンをめぐる中国でのずさんな対応が浮かび上がった。

女の倉庫があった済南市からおよそ80キロ。
山東省泰安市。

(ディレクター)
「ニーハオ。治療終わったの?
 きょうはどんな治療をしたの?」
(母)
「マッサージを受けました」
(ディレクター)
「状態はどうですか?」
(母)
「少し良くなっています。
 以前は治療後に笑う事もできませんでした」

病院から出てきたのは張梓涵さんと、その娘。
倩倩ちゃんはこのとき3歳。
しかし、話すことができず自分で食べることもできない。

倩倩ちゃんは2013年8月、
生後3・4か月の頃、ワクチン接種を受けた。
打ったのは、三種混合ワクチン(百日破)と、
ヒブ(HIB)、ポリオ(脊髄灰質)の3種類。
直後に嘔吐や発熱が始まり、1週間昏睡状態が続いたという。

張さんは娘の症状はワクチンの接種が原因だと考えた。
だが、それに対する地元の衛生部門の診断は、
極めていい加減なものだったという。

(張梓涵さん)
 「専門家たちがレストランに集まり診断しました。
 子供の足を叩いたりして、これはワクチンが原因ではないと。
 診断書に誰も署名せず偶然の反応だと。
 偶然とはどういう意味と聞いたら、
 『たまたま(発病時期が)一致したと』」

(ディレクター)
「じゃあ、ワクチンと関係あるのではないですか?」
(張梓涵さん)
「彼らは偶然だといいました。
 子どもにはもともと身体に悪いところがあって
 注射を射ったからそれを刺激した。
 それで症状が現れたと」

専門家たちはこの診断だけで
ワクチンの副反応ではないと結論づけた。
病気がワクチンの
副反応によるものと認定されなければ、
補償を受けることはできない。

(張梓涵さん)
「どうして、何人かの専門家だけで子どもの将来を決められるの。
 しかもこれから食事をしようという時に、
 子どもをちょっと見て
 慌てて「違う」という結論をでっちあげて
 その後手を洗って食事を始めたのですよ。
 何の保障もないし、将来はどうすればいいの。
 私たち親が死んでしまったら、
 この子は一体どうやって生きていけばいいの…」

張さんはこの結論に納得できずにいた。
そんな中、発覚したのが今回の事件だ。
報じられた事件のワクチンの種類には、
娘の打ったポリオとヒブも含まれていた。

(張梓涵さん)
「私は関係があると思っています。
 出荷日を見ると
 子供がワクチンを打った時期と重なっています」
(張さんの夫)
「疑っていますが証拠が無いです」

しかし、その後も警察などからの接触はない。
結局、娘がなぜ障害者に
なってしまったのかは今も分からないままだ。

同じ山東省で、
息子に問題のワクチンが使われたのではないかと
訴える家族を我々は訪ねた。
郭林さんの4歳の息子・東昇くんが
予防接種を受けたのは去年3月。

その直後、全身まひが続き一時失明したという。

(東昇くんの母)
「自分がいい母親ではなかったと感じました。
 他の子供はワクチンを打って大丈夫なのに、
 なぜ私の子供だけにこんなことが起きたのか」

治療によって視力は回復したが斜視が残った。
右足に力が入らないなどの障害は今もある。
取材中おとなしく遊んでいたかと思えば、
突然、叫び出すなど情緒は不安定だ。

(東昇くん)
「きゃー!」

(東昇くんの父)
「この2種類を打ちました。
 おたふく風邪で、こっちが麻疹です」

郭さんは、息子が接種した
ワクチンの空き箱を保管していた。
そのうちの1つは
事件の報道で撮影された箱と同じ種類だった。
ビンに記された出荷日も犯行期間と重なっていた。

さらに郭さんは、このニュースを知った時
あることに思い当たったという。

(東昇くんの父)
「(接種の際)ワクチンを引き出しから出していました。
 冷蔵庫から出したのではありませんでした。
 本来、冷蔵保管すべきものを引き出しに入れてあって
 子供がやってきたらそれを取り出して打って、
 そんなんで品質に問題がないと
 誰が保証できるのですか。」

郭さんは、問題のワクチンが息子に打たれ、
そのせいで障害が出たと疑っている。
しかし当該のワクチンが誰に使われたのか未だ公表されず、
当局が郭さんのもとに調査に来たこともない。

(東昇くんの父)
「ワクチンは国がやっているものであるから、
 公表するわけはないでしょう。
 私は問題のワクチンが使われたと思っています。
 それで後遺症が出たのでしょう」

東昇君にワクチンを打った人物は
予防接種の資格を持っていなかったことが
その後明らかになった。

病院に電話してみると。

(ディレクター)
「薬は引き出しに入れてあったのですか?」
(病院側)
「薬は冷蔵庫に入れてありました
(山東の事件のあと)警察、衛生局、疾病予防センターなど
 いろんな部門が来て調査していきましたよ。

(ディレクター)
「問題はありましたか?」
(病院側)
「ないです。」

冷蔵保存していなかったワクチンについて
日本の専門家は、
その成分であるタンパク質が
変質する可能性はあるものの、
重大な健康被害は起きないのではないかと指摘する。

(京都大学大学院 医学研究科 薬剤疫学 
 川上浩司教授)
「局所の発赤とかアレルギーはあり得ると思うんですが、
 神経毒になるようなものとか
 全身のショックを引き起こすとかいうことは、
 本当に起こるかというとちょっとは疑わしい。
 そこまで起こすような成分が
 そもそも入っていないからです。
 いくら蛋白が壊れたとしても
 そこまでは起こさないと思うんですけど」

しかし
そのようなワクチンが使われることは
そもそも想定されていない。
だからこそ実際に被害が出たのかどうか
きちんと調査すべきだと指摘する。

(京都大学大学院 医学研究科 薬剤疫学 
 川上浩司教授)
「現場で患者さんが本当に健康被害があったのか、
 医師が判定して
 それが臨床的な症状として現れているかを
 しっかり調査することこそが重要です」

中国内陸部、山西省。
実は7年前の2010年にも
冷蔵保存されていない予防接種用のワクチンが
流通する事件が起きていた。

高温にさらされたワクチンによって、
死者や健康被害が出た疑いを新聞が暴露したのだ。
ワクチンの納入を請け負った業者が、
コストを下げるため冷蔵管理を怠っていたという。
この業者は省の衛生部門と癒着していた。

この問題を新聞に告発したのは
当時、省の衛生部門内部にいた陳安涛氏だ。

(ディレクター)
「資料持ってきてくれたけど、出しますね。すごい。」
(山西省疾病コントロールセンター 陳安涛氏)
「私が受け取ったのは200以上の家庭の資料。
 でも全ては回れませんでした。
 この一袋一袋が悲惨な家庭のストーリーです」

新聞の暴露に対し、
当時、衛生省は『ワクチンの管理には問題があったものの、
安全性に問題はなかった』と結論づけた。
陳氏はこの結論に疑問をなげかける。

(山西省疾病コントロールセンター 陳安涛氏)
「根拠はありません。
 鑑定を行っていないからです。
 官僚が関係ないといっているだけで
 鑑定によって関係はないと言ってはいないのです。
 よく知らない人がやって来て子供を触るだけで
 帰ってしまった。
 それが鑑定といえますか?」

この時も、問題のワクチンが
誰にどのように使われたか追及されることはなかった。

健康を願って打ったはずのワクチンが
我が子を蝕んでしまった。
そう苦悩する親たちは、
それがワクチンの副反応だったのか、
それとも問題のあるワクチンが使われた結果なのか
何も知らされないまま、
中国のどこかで今も救いを求めている。

(張梓涵さん)
「子どもが障害者になっても死んでも
 怖くはありません。
 一番怖いのは
 健康な子がワクチンを打ってこうなったのに何の説明もないことです」

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