Top

『道浦TIME』

新・ことば事情

6996「A380の読み方」

会社の同期のS撮影部長(カメラマン)が、

「けさの『す・またん』で、アナウンサーが『A380』を、

『エアバス・サン・ハチ・マル』

って読んでたけど、それでいいの?」

と聞いてきたので、

「いや、エアバスは『サンビャク・ハチジュー』って読むことになってるはずだよ。新聞協会の用語懇談会放送分科会でまとめた『放送で気になる言葉2011』にもそう載っているよ。ボーイングは『787』を『ナナ・ハチ・ナナ』と読むけど。そのアナウンサーと、原稿にルビを振ったディレクターが知らなかったんじゃないの?」

と答えました。

その後、去年(2017年)6月の新聞用語懇談会放送分科会で、フジテレビの委員から、「A380」の読み方についての質問が出て討議していた記録を見つけたので、ここに載せておきます。

******************************

(フジテレビ)弊社では、エアバス社の航空機について「エアバスA380」は「エアバス・エー・サンビャク・ハチジュー」、「エアバスA340」は「エアバス・エー・サンビャク・ヨンジュー」と読んでいます。これについて、国土交通省の担当記者が、JALとANAに聞いたところ、

「社内や業界内では、『エアバス・エー・サン・ハチ・マル』などと読む。『サンビャク・ハチジュー』と読んでも別に間違いではないが」

との答えが返ってきたとのことです。各社どのように読んでいらっしゃるのでしょうか。

(テレビ東京)放送分科会で検討したものをまとめた『放送で気になる言葉2011』の100ページに載っている通り、「サンビャク・ハチジュー」と読む。

(日本テレビ)ルールマスターに聞いたら「サンビャク・ハチジュー」。『緊急取材ハンドブック2011』も「サンビャク・ハチジュー」。ただ「ボーイング」は「ナナ・××・ナナ」と読む。

(テレビ朝日)「A380」は「サンビャク・ハチジュー」。「ボーイング777」は、元々は「ナナヒャク・ナナジュー・ナナ」だったが、数年前「ボーイング787」が就航した際に「ボーイング」に関しては「ナナ・××・ナナ」に変更した。ただし、原則は「業界の慣習」と「放送での呼び方」は別と考えるべきだ。「FA18」「F35」などの数字も、そのまま「ジュー・ハチ」「サンジュー・ゴ」と読む。「P3C」も、アメリカや業界は「ピー・スリー・シー」だが、放送では「ピー・サン・シー」、「B2爆撃機」も、業界は「ビー・ツー」だが、放送では「ビー・ニ」。「ボーイング777」は、業界では「トリプルセブン」だが、放送では「ナナ・ナナ・ナナ」。「飛行機の便名」も「123便」は「ヒャク・ニジュー・サンビン」。「イチ・ニー・サンビン」とは言わない。

(MBS)全く賛成!電車でJR西日本の新型車両「225系」の読み方(呼び方)も、JR西日本の広報に取材したところ、

「業界では『ニー・ニー・ゴ』と呼んでいるが、放送で『ニヒャク・ニジュー・ゴケイ』と呼ぶのなら、それは放送の決まりでやってください。」

とのことだった。業界の呼び方を、放送に持ち込むのはダメだ。

(TBS)弊社前任の用語委員が、「ボーイング787」を以前の「ナナンヒャク・ハチジュー・ナナ」から「ナナ・ハチ・ナナ」にしたことについて、すごく怒っていた。たしか「ボーイング787」の日本就航の際に、通訳の人が「ナナ・ハチ・ナナ」と訳したのがきっかけだと、以前の放送分科会で聞いた覚えがある。ちなみに「トリプルセブン」は「全日空(ANA)の登録商標」なので、他の航空会社の「ボーイング777」を「トリプルセブン」とは呼べない。業界独特、ということで言うと「アクセント」にも、そういうものがある。宮内庁の人は「宮殿」を「頭高アクセント」で「キュ\ーデン」と言う。普通は「キュ/ーデン」と「平板アクセント」だろう。また、三菱のジェット機「MJ5」の「5」は、業界では「ファイブ」と読むが、ニュースでは「ゴ」。「H2A」も、業界では「ツー」だが、放送では「ニ」。ただし「PAC3」は「スリー」が定着してしまった。

(日本テレビ)病原性大腸菌「O―157」も、本当は「ヒャク・ゴジュー・ナナ」と呼ぶべきところだったが、最初に出て来たときに「イチ・ゴー・ナナ」に引きずられて広まり定着してしまった。「フェイズ1」「フェイズ2」なども「ワン」「ツー」の傾向が強い。

(ABC)しかし、読み方がわからないときには「専門の人=業界の人」に聞いて「専門家は、そう読むから」と、その読み方を取ることがある。「業界用語」と「放送用語」、どちらを優先すべきか?

(読売テレビ)原則は「放送用語」が主導だが、部分的には専門家に聞いて、それを採用することもあるのが現状。

(フジテレビ)「専門家のインタビュー」の言葉と「原稿の言葉」が違う場合もある。特に「新しい言葉」に関しては難しい・・・。

平成ことば事情3013「航空機の読み方」も、ちょっと古い情報ですが併せてお読みください。

とここまで書いて、

「これはもしかしたら、去年のフジテレビからの質問も、現場の記者が『サンハチマル』というケースが増えてきたので、各局の現状を聞きたかったのではないか?」

という事に思い至りました。その波が、ついに読売テレビにも押し寄せてきていると。現場の専門家の読み方が、放送業界に押し寄せてきているということかもしれませんね。

(2018、10、31)

2018年10月31日 20:17 | コメント (0)