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『道浦TIME』

新・ことば事情

6066「不適切」

舛添東京都知事。豪華すぎる海外出張に始まって、公用車の私的利用と思われる湯河原通い、お正月の家族旅行が政治的な打ち合わせなどなど、出るわ出るわ、

「1か月ぐらい風呂に入らなかった人の垢」

のように出て来ます。

「第三者」の元検事の弁護士による調査では、

「違法ではないが不適切」

「不適切だが違法ではない」

というものが、たーくさん出て来ました。

これって、順番を逆にしただけだけど、ちょっとニュアンスが違いますね。

ところで、

「不適切」

というと思いだされるのは、やはり、元アメリカ大統領の、

「ビル・クリントン氏」

ですね。そう、あの研修生のルインスキー嬢と、

「不適切な関係」

を結んでいたという大統領です。その奥さんが今、

「女性としては初の大統領候補」

になっているのはご存じのとおり。月日が経つのは早いものです・・・・。

ちょっとその「不適切な関係」を、以前書いたもので振り返って見ましょう。

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「不適切な関係」は、いわゆる、

「オフィスでの不倫関係」

を指して使われることがある。一番有名な、そしておそらく「オフィスでの不倫」を意味する言葉として最初に使われた「不適切な関係」は、1998年、元ホワイトハウス実習生のモニカ・ルウィンスキーさんとの不倫疑惑での、ビル・クリントン米大統領(当時)の言葉である。英語では「Relationship that was not appropriate」という。この"事件"をめぐっての報道では、かなりきわどい言葉が、真面目な一般新聞紙上をにぎわした。

当時の一般紙を紐解いてみると、

「二十四日付のロサンゼルス・タイムズ紙は、消息筋から得た情報として、ルウィンスキさんは別の告白テープの中で、大統領との性的関係については、口を使う『オーラルセックス』や電話で性的な話をする『テレホンセックス』しか行っていなかったと話している、と報じた。さらにルウィンスキさんはテープの中で、大統領からこれらの行為は『性行為』ではないと言われた、とも語っているという。」(1998=平成10126日読売新聞朝刊:ワシントン発・大塚隆一記者)

とかなりあからさまに、もっと言えば"露骨"に、家庭に配達される一般紙にはふだんは決して載らないような内容まで書かれていたのを強烈に覚えている。この記事のスクラップの上に私は、

「大スポ(=大阪スポーツ。東京だと「東スポ」)ではありません!」

と書き加えているぐらいだ。

クリントン大統領も、ここまで直接的な言葉で話すことがためらわれたので「不適切な関係」というボカシ表現を使ったのではあるまいか。

この「不適切」とよく似た使われ方をする言葉には「不具合」がある。メーカー側など責任がある側は、

「当社の○○という商品に『不具合』が生じ・・・」

のように「不具合」と呼んで釈明・お詫び会見をする。特に2000年は、企業の製品に「不具合」がよく出た年だった。

しかしこの「不具合」という言葉は、妥当な表現ではない。一切の虚飾を取り去って言うと、これは「欠陥」「故障」「設計ミス」である。欠陥を認めたくないというメーカー側の気持ちが、このような言葉となって表れたのだろう。『広辞苑』には、

「不具合」=(製品などの)具合がよくないこと。また、その個所。多く、製造者側から「欠陥」の語を避けていう。

と、まさに「ズバリ」のことが記されている。「責任者側の、責任回避のための婉曲表現」である。「欠陥」と言うより「不具合」と言った方が、「もともとこちらの責任ではないのですが、なにか調子が悪くてうまくいかないんですよねー」というような、ぼんやりとした、責任の所在の分からなさを感じる。

一方、「欠陥」と言うと「その責任はどこにあるんだあ!」と「最後まで追及するぞ!!」という気持ちが、ふつふつと湧きあがって来そうである。

2001年1月19日付の産経新聞・夕刊には、

「トンネルの不具合 監視員置き徐行」

という見出しのベタ記事が載っていた。いくらなんでも"トンネル"に"不具合"という言葉を使うのは、具合が悪い。「欠陥」は「欠陥」と言うべきである。「不具合」が使える商品は、せいぜい「自動車」の大きさまで、という気がする。

また、事故などによって列車が線路を通れない状態なのに、

「運転を見合わせています」

というのも、よく考えるとおかしい。「運転を見合わせる」のは、「行こうと思えば行けないことはないが、念のため安全を期して、運転をしない状態」であって、「どんなに努力をしても、行くことは不可能」な場合に使うのは誤用である。これは「不適切な表現」だ。

余談であるが、クリントン政権で副大統領を務めたアル・ゴア氏が、地球環境を考える『AN

INCONVENIENT TRUTH(不都合な真実)』という著書を出版、映画化もされて話題を呼んだが、「不適切な関係」を結んだ大統領の、副大統領が出版した本の邦訳タイトルが「不都合な真実」というのは、訳者も役者だなあと思った。

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これ、10年程ほどに書いたものです。

久々に「不適切」を連発して聞いたので、ついつい、こんなものを引っ張り出して来てしまいました。

(2016、6、8)

2016年6月13日 22:57 | コメント (0)