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『道浦TIME』

新・ことば事情

5800「匂いと香り」

(2年前に書きかけてそのままになっていました。当時の番号は「平成ことば事情5155」でした)

 

(2013年7月に)早稲田大学非常勤講師で『三省堂国語辞典』の編纂者の飯間浩明さんと、フリーアナウンサーの梶原しげるさんと一緒に飲んだ際に、梶原さんが、

「最近、アナウンサーやリポーターがすぐに『香り』という言葉を使うが、何でもかんでも使うのは、違うのではないでしょうか?」

という話をされました。たしかに「におい」には「良いにおい」と「悪いにおい」があり、漢字で書く時は、

*「良いにおい」=「匂い」

*「悪いにおい」=「臭い」

と書き分けますね。以前は「臭い」は「くさい」しか、常用漢字表に「訓読み」がなかったのですが、で2010年11月に「におい」も加えられましたから使い分けできるようになりましたね。そして、

「良い匂い」=「香り」

ということなんですが、何でもかんでも褒めると、

「価値が逓減する」

ということでしょうか。

私も、

「たしかに。似たようなことで言うと、グルメリポートで、何でもかんでも『香ばしい』というのも気になります」

と話したところ、飯間さんが、専門分野である「古典」(アバウトな紹介)から、

 

「『源氏物語』には『匂宮』と『薫君』という登場人物が出てきます。」

 

という話をされました。『源氏始物語』をちゃんと読んだことのない私にとっては、

「フムフム、ちょっと名前は聞いたことがあるな」

という感じでしたが、飯間さんによると、

「『におい』という言葉は、雅びな『歌の世界』では、しばしば効果的に使われてきました。有名な本居宣長『敷島の 大和心を 人問はば 朝日ににほふ 山桜花』という歌も、『におい』といっても『嗅覚』ではなく、『照り映える』という『視覚』に訴えた表現です。これは伝統的にあるんですね。『においたつ霊峰富士』という上品な言葉も、別に『におい』がしているわけではありませんね。そうそう、それに、古(いにしえ)の京の都では、『におい』が『かおり』を打ち負かしたという話もあるんです。『源氏物語』に登場する『浮舟』の物語で、彼女を巡って『匂宮(においのみや)』と『薫(かおる≒かおり)』が恋のさや当てをし、浮舟の心を奪ったのは、『かおり(薫)』ではなく『におい(匂宮)』。つまり、勝ったのは『におい』だったということなんです。」

 

なーるほど!と言ったものの、これはちょっと、強引な感じもしましたが。

しかし、「におい」は「嗅覚だけではない」「視覚的なものにも使えた」ということは、参考になりました。

それと、後で思ったのですが、「悪いもの」もある「におい」という言葉を嫌って、

「香り」

を好む傾向は、もしかしたら「プリッグ・清潔志向」の現代の傾向を表しているのかもしれませんね。

(2015、7、8)

2015年7月 9日 10:05 | コメント (0)