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『道浦TIME』

新・ことば事情

5636「生絹」

 

クレジットカードの会員誌『AGORA』の201512月号を読んでいたら、吉岡幸雄さんという人のコラム「男たちの色彩」で「生糸」のことについて書かれていました。

そこに、

「生絹」

という言葉が出て来たのですが、この言葉には、

「すずし」

とルビを振られていました。初めて見た言葉です。

「なまぎぬ」

ではないのですね!『広辞苑』を引いてみたら、載っていました。

「すずし【生絹】」=生糸(きいと)の織物で、練っていないもの。軽く薄くて紗(しゃ)に似る。⇔「練絹(ねりぎぬ)

とありました。1603年に編まれた『日葡辞書』には、

「ススシ」

と濁らずに載っているようです。反対語として記されている「練絹」も引いてみましょう。

「ねりぎぬ【練絹】」=(古くは「ねりきぬ」か)生織物を精錬して柔軟性と光沢を持たせた絹布。

 

「生絹」は、『三省堂国語辞典』には載っていませんでしたが、『新明解国語辞典』には載っていました。

思うに、軽工業である「繊維関連」の言葉は、明治から戦前までは日本を代表する産業であったために、それに伴う言葉は漢字もよく使われ、目にする機会も多かったのでしょう。しかし、戦後の重工業中心の高度経済成長下では、次第に接する機会が減って来たということが、辞書の採用語からもうかがえます。生きの良い言葉を採用することで知られる『三省堂国語辞典』は、限られた紙面でそれを達成するために、古い言葉は落としている(不採用にする)面があるのでしょう。

ちなみに、2010年の常用漢字の改定で、それまでの常用漢字から外れた「5つ」の漢字は、

「勺」「銑」「錘」「脹」「匁」

です。このうち「錘」は、

「紡錘」

で使われる漢字ですが、意味は、

「紡錘」=糸を紡ぐ機械の部品。

ですから「繊維関連」の言葉ですね。

また、「銑」「銑鉄」、つまり「製鉄関連」の言葉ですね。「脹」「膨脹」ですから、「製鉄」に関係あると言ってもいいでしょう。

残りの「勺」と「匁」「尺貫法」の「基準単位」ですね。

かつては生活に密着していた言葉が、静かに表舞台から引退して行っているような気がしました。

(2015、1、14)

2015年1月15日 16:25 | コメント (0)