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『道浦TIME』

新・読書日記 2013_205

『国家と音楽家』(中川右介、七つ森館:2013,10、26)

 

大変勉強になった一冊。そもそも中川右介さんの本は、これまでに何冊か読んでいるが、これも読み甲斐があった。資料も含めて370ページ。

特に印象に残ったのは、トスカニーニが行ったオペラ劇場の改革。

(1) オペラ上演中に、客席の照明を暗くした

(2) 客席で飾り帽子の着用禁止

(3) 上演中のオペラ・アリアのアンコール禁止

とくに1番目の「オペラ上演中に、客席の照明を暗くした」のが、トスカニーニだったとは知らなかった。今では当たり前だが、こういった照明による演出ということも、音楽を楽しむためには重要なことである。合唱の場合、団員が100人ぐらいいると、全員が登壇するのに時間がかかるが、その間、照明を明るくするかどうかの問題。客席から拍手が起こったら、照明を上げてもいいと思うのだが。あまりステージ上を暗くし過ぎると、こけるヤツが出てくるが・・・。

また2番目の「飾り帽子」は、当時はコンサート会場は「社交の場」だったので、音楽を聴く時も、背の高い飾り帽子をかぶったままでというご婦人が多かったとか。そんな帽子の後ろの席の人は、邪魔だよねえ。帽子、防止!

そして3番目は、アリアが終わるとオペラの劇の途中でもアンコールを求めて、劇の進行が妨げられることが往々にしてあったと。うーん、元々はオペラも歌舞伎(演劇)も似たような、そういった面もあったのだろうね。それを「純粋芸術」としての音楽を求める姿勢が、トスカニーニにはあったということでしょうか。

そのほか、冒頭のフルトベングラーとヒットラーの関係。ナチスを完全に拒絶するのではないが、ヒットラーの誕生日の4月20日に国内にいてコンサートをやると「誕生日祝賀演奏会」の名目を付けられて指揮させられる。それを避けるために、国外での演奏会をスケジュールに入れるとか、ヒットラーと握手しないために「右手に指揮棒を持ったまま」だったとか、そういった細かいエピソードの丁々発止が、実に興味深かったです。

独裁者は音楽や芸術を好み、それらをも(それらをこそ)支配下に治めようとする傾向があるのかなあと。そうでなく「芸術を理解しない独裁者」もいるとは思いますが。どっちも困ったものです。


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(2013、12、5読了)

2013年12月10日 09:20 | コメント (0)