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『道浦TIME』

新・ことば事情

4721「もくろんでいた」

 

強制起訴後の裁判で無罪となった民主党の小沢元代表に対して、5月9日、検察役の指定弁護士側が控訴しました。

それを伝えた5月9日のフジテレビの夕方のニュースのナレーションで、

「復権をもくろんでいた小沢氏側は」

というナレーションが。この、

「もくろんでいた」

ですが、イメージが良くないですよね。「もくろむ」というと、

「悪いことを計画している」

というイメージがあります。「復権」の計画は「悪いこと」なのでしょうか?そもそも「もくろむ」は悪いことを計画するという意味なのでしょうか?辞書を引いてみました。(『精選版日本国語大辞典』)

「もくろむ(目論)」=「物事を行う方法について、あれこれと計画をめぐらす。たくらむ。企てる。」

「もくろむ」自体は「悪いことを」というフレーズがありませんが、説明文の中に、

「たくらむ」

とあります。これらの言葉はどうでしょうか?

「たくらむ(企)」=「くわだてる。思い立つ。計画する。多く、良くないことを計画する場合にいう。たくろむ。」

ほら~、やっぱり「良くないこと」だあ。

『新明解国語辞典』も引いて見ましょう。

「もくろむ」=「(「目論」の動詞化というのは、非)企てる。たくらむ。」

「たくらむ」=「(「巧む」と同源)①よくない計画を考える。(例)「荒稼ぎ(大もうけ・陰謀・襲撃・世界征服)をたくらむ」②自分の属する陣営に有利な計画を考える。(例)「早急な消費税導入実施をたくらむ」「騒ぎを起こそうと(廃止を阻止しようと・危険からの脱出を)たくらむ」「大増税(改憲)をたくらむ」

やはり「もくろむ」には「悪い意味」はなさそうですが、「たくらむ」は悪そう。でも「たくらむ」にも2種類の意味があるんですね!2番目の意味の、

「自分の属する陣営に有利な計画を考える。」

は、まさに小沢さんに使っても良いのではないでしょうか?

それにしても、ここでの用例の、

「早急な消費税導入実施をたくらむ」

は、明らかな野田政権批判の用例とみましたが・・・。

こんなところにしっかり批判的なコメントを忍ばせておく新解さん、野田政権の転覆を「たくらんで」いるのではないでしょうか?(もちろん冗談です。)

そのあたり、家に帰って自宅にある『新明解』の3~6版も調べてみました。

その結果、「早急な消費税導入実施をたくらむ」は第5版、第6版にもありました。ということは第5版の2000年、森喜郎総理、あるいはその前の小渕総理、いやいや編集段階を考えると消費税率を3%から5%に上げた時期の橋本総理あたりに書かれたよう例ではないかと思われます。

また7版(2012年)にある「大増税(改憲)をたくらむ」は62006年にはありませんでした。しかしその前の5版(2000年)と・4版(1992年)にはありました。ただ4版は「大増税(改憲)をたくらむ」ではなく、

「大増税(軍拡)をたくらむ」

になっていました。「改憲」が出てきたのは第5版からです。また「たくらむ」の意味の説明で、第3版は、

「①相手の歓迎(予想)していない事を計画して、はめようとする。②まともでない事を計画する。「一もうけをたくらむ」

となっていて、「②自分の属する陣営に有利な計画を考える」は「第4版」から出てきています。3版と4版の間に何が起こったのか?それは「編纂(へんさん)者」の名前を見ると分かります。第3版までは見坊豪紀・金田一春彦が入って柴田武、山田忠雄、金田一京助の5の名前がありましたが、見坊豪紀、金田一春彦は第4版で消え、この版から山田忠雄が「主幹」になりました。そして、弟の山田明雄が加わり編纂者は4人。山田忠雄が編纂途中に亡くなってから出た第5版からは、倉持保男・酒井憲二が加わりメンバーは6人。第6版では、それまで入っていた金田一京助の名前が消え5人。そして第7版では、lこれまでのメンバーにアクセントが専門の上野善道、井島正博、笹原宏之の3人が加わって編纂者の名前は8になりました。

当初の「金田一京助」もまあ「オマージュ」と言いますか、もう亡くなっていたのに名前が載っていたのですが、7版でも、もう亡くなっているのに山田忠雄・柴田武の名前は残っています。つまり、実際にこの版の作業をやった人たちの名前ではなく、これまでこの辞書を築いてきた人たちの名前が刻まれています。

その意味では、3版までは山田忠雄の辞書ではなかったものが、4版で見坊・金田一春彦をはずし、山田忠雄体制に移ったことを「宣言」した。(その時期に例の赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』が出たわけですが)しかし第5版の途中で忠雄さんが亡くなったことで、運営権は柴田武さんに委ねられた。柴田さんは「これは忠雄さんの辞書だから」と第5版は「微修正」にとどめ、第6版では少し手を入れたがその後亡くなられた。今回、第7版にあたっては若い(40代の)笹原さんが入ったということで、「世代交代」ということではないでしょうか。

そういうようなことが、読み取れますね。

 

(2012、5、10)

2012年5月17日 18:17 | コメント (0)