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2016 10.04

神戸市がスタートアップ支援を行う理由と、500 Startupsとのプログラム実現に至るまで

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最先端テクノロジーとオープンイノベーションをテーマとした読売テレビの番組『ハッカテン』出演者・関係者へのインタビュー。

今回は9月30日放送の「ハッカテン」で特集した神戸市の取り組みをピックアップ。

神戸市は、米シリコンバレーに拠点を置く世界トップレベルのベンチャーキャピタル(VC)「500 Startups」による起業家育成プログラムを日本で初めて誘致。世界各国で活躍するメンターによるメンタリングや講義を日本国内と海外から参加したスタートアップ21組を対象に実施した。また、アフリカ・ルワンダ共和国(以下「ルワンダ」)とのICT(情報通信技術)分野における経済連携機能の強化も進めている。

このようなプロジェクトが実現した舞台裏や、神戸市がスタートアップ支援に乗り出した背景、これからの”神戸”という街の将来像などを、神戸市の新産業グループ 新産業創造担当課長の多名部重則氏に聞いた。

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海外都市でのオープンデータの取り組みを視察

ーまず、神戸市がスタートアップ支援の取り組みを始めることになった経緯を教えて頂けますか?

多名部: 元々は、久元喜造市長が副市長時代にITの活用を構想したことがスタートです。 2014年の秋に、ロンドン・ニューヨーク・サンフランシスコ各都市での行政によるオープンデータの取り組みを視察しました。

当時、日本で行政×オープンデータというと、行政が保有している情報を加工して開示しても、そこから先の活用方法がなかなかありませんでした。その方法を探るべく海外の都市を視察し、ヒアリングしてみると、オープンデータの取り組みはオープンガバナンスに繋がるということが見えてきました。つまり、データやITを使って行政を変えていくというところまで、ということですね。そして、それを一緒に取り組んでいる事業者はスタートアップが多い。これは面白いなと、神戸市でもスタートアップ支援をやっていこうということになりました。

2015年の春から、神戸市が最初にスタートアップ支援として始めたのは三つの取り組みです。ひとつはキャリア教育として、小・中・高・大の教育の中で起業家という選択肢があると伝えていくことです。もう一つは大学生を対象に、シリコンバレーへの派遣プログラムの実施です。さらにもう一つは、三宮にある「神戸スタートアップオフィス」でのアクセラレーションプログラムです。どうやって支援に取り組んでいくかも手探りでしたが、まずは始めてみようと。

500 Startupsは、包括的な神戸市の取り組みに魅力を感じた

ーこれら神戸市独自のスタートアップ支援がスタートしたのち、今年はシリコンバレーを拠点に世界50カ国1,500社以上を支援する投資ファンド・500 Startupsのアクセラレーションプログラムの誘致を実現。この動きはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?

多名部: 2015年6月に、市長とともにサンフランシスコやシリコンバレーに視察した際に、アポイントメントを取ることが出来ました。現地で会ってみるとちょうど彼らも日本で何か出来ないかと考えていたタイミングと分かり、その数か月間かけて準備し、実現に至りました。

撮影:Masahiro Honda

ー500 Startupsは、神戸市のどのような点を魅力と感じていましたか?

多名部: 先ほどお伝えした神戸市の三つの取り組みです。これらは彼らの言葉を借りると”Comprehensive”(包括的)だと。単発もののイベントやハッカソンだけではなく、本気でやるならこれくらい包括的な取り組みが必要で、それを実際にやっているという点を褒めて頂きました。

また最初から最後まで我々の熱心さが続いていたことで、信頼関係を構築出来たのではと思っています。視察の後は二週間に一回程度Skypeで打合せをしていきました。ただ、オンラインなので通信状況が悪いことももちろんありますから、「何も話が進まんかったな」という時もあるんですよ。そういう時も、心は折れなかったですから。

ー2016年8月から9月まで実施された、メンタリングや講義などの6週間の500 Startupsによる短期集中プログラムは、どのようなものだったのでしょうか?

多名部: 最大の特徴は、世界各地で活躍している500 Startupsのメンターが日本にやってきたことです。最終的に25人のメンターが揃いました。彼らのメンタリングが桁違いに濃い内容なんです。

「とにかくスピーディーに進めていかないといけない。7〜8割固めた段階で、次のアクションを進めていけ」と。言い方も「ここがダメ」「こうしてほしい」「こう進めれば良い」とシンプルで的確でした。そこまでハッキリ言われると、そう進むしかないなと思わされるほどです。もちろん、メンターの皆さんは普段はとても温厚ですが(笑)。

ー成果についてはどのようにお考えですか?

多名部: 成果としては、「何故神戸が500 Startupsと?」という意外性で話題になったことです。これは一番狙っていたところでもあります。神戸がスタートアップに関する取り組みを行っていると知ってもらうためには、どこかでバズらせないといけないと思っていたので。どれくらい本気でスタートアップ支援をしようとしているかを知ってもらうため、また、いわゆる「役所がやってるんでしょ」というイメージを覆すためには、この位の取り組みが必要だと思っていました。

また、一方で神戸市独自のアクセラレーションプログラムでも引き続き5チームを3か月かけて育成しようとしています。片やこういった地道な活動も大事ですから、500 Startupsとのプログラムのような大きな活動と両輪でやっていきたいと思っています。

今後はこれらのプログラムを通して、神戸にスタートアップのエコシステムを作りたいですね。プログラムに参加したスタートアップが大成功して、彼ら・彼女らが再び教える立場として戻ってきてくれることを期待しています。

撮影:Masahiro Honda

新しいものをどんどん取り入れて発展してきたのが、神戸という街

ー海外との取り組みについて、ルワンダとも交流があるそうですね。こちらはどのようなきっかけなのですか?

多名部: 神戸情報大学院大学に、アフリカからの留学生が49人(2016年9月現在)在籍していて、全員が国費留学生なのですが、その中でルワンダ人が12人と最も多いんです。

神戸情報大学院大学にはITを活用し社会的課題を解決するICTイノベーターコースというコースがあり、ルワンダ人からとても人気なんです。ルワンダはITで経済成長を目指し、東アフリカのハブになろうとしている国なので。実際にルワンダにいくと、神戸という街の名前が有名になっていて驚きました。神戸市としても、今後ICT分野でコラボレーション出来るのではと考えています。

行政はすぐに成果が出なくても民間ほどすぐに事業を閉じなくてもよく、リスクが取れますよね。ルワンダとの取り組みもすぐに成果は出ないかもしれませんが、これをやっていくことで将来的に我々にとってもプラスだと考えています。500 Startupsを通した、西海岸における取り組みも今後色々考えていますし、同じくこれからチャンスだと思っています。

ー多名部さんのお話からはとても情熱的に神戸の将来を考えていらっしゃることが伝わってきますが、元々神戸市とはどのような関わりがスタートだったのでしょうか?

多名部: 国か民間から入ったのでは?とよく聞かれるのですが(笑)、実は元々新卒で入りました。1997年採用です。交通局の経理、企画調整局、内閣府の防災担当で霞ヶ関に派遣を経て、産業振興局へ。産業振興局にいた最後の方にこの新しい事業を始めて、その事業を持って今の部署に移りました。危機管理の仕事をしていたときも他の都市が実施していないような訓練も実現させましたし、元々新しいことをするのが好きなんですよ。

ー神戸という街への想いについても聞かせてください。

多名部: 元々1868年の開港以来、新しいものをどんどん取り入れて発展してきたのが神戸という街です。ところが今はちょっと閉じた状態で、それは市役所も同じです。もちろん市役所の場合は阪神・淡路大震災により財政が厳しくなり、新しい取り組みがしづらくなったという面もあるのですが。

ー今後、神戸をこういう街にしたい、こんな取り組みをしたいという構想がありましたら、教えて頂けますか?

多名部: 元々、神戸の学生はスマートで、高い能力を持った人が多いです。しかし、起業という選択肢だとほぼ東京に行ってしまう。そういう人達が「神戸でもスタートアップという選択肢がある」と思ってもらえるようにしたいです。また、神戸にゆかりのない人でも、神戸のスタートアップエコシステムに惹かれて、全国から人が集まって、コミュニティが生まれる街にしたいですね。

一方で、神戸に拠点を置く大企業も、全国の大企業同様にいわゆる”大企業病”に苦しんでいる。日本でスタートアップが成長しない理由はVCがリスクマネーを取らないということと、大企業がスタートアップとの付き合い方をまだ理解し切っていないことだと思うので、500 Startupsと来年も一緒にやるなら、地場の大企業は強化していきたいテーマになってくると思います。

500 Startupsも神戸市のことは、「行政でここまで寄り添ってくれるパートナーはいない」と言ってくれています。それは神戸市のみならず、運営をサポートしてくださっている民間の方々や、会場となった神戸情報大学院大学も含めてトータルで、です。我々も楽しんで取り組んでいるので、その姿勢が500 Startups側にも伝わっている手応えは感じます。

ーちなみに、ベンチマークしている世界の都市はありますか?

多名部: サンフランシスコですね。役所もオープンなので、その姿勢は見習うべきだと思っています。

今夏の500 startupとのプログラムは終了だが、次年度以降も500 startup との関係を維持しながらスタートアップ支援のレベルアップを予定している。

またルワンダだけでなくエチオピアやケニアなど東アフリカ各国との交流も構想中とのこと。さらには、地元企業らと神戸に集まった起業家を結びつける新たなプログラムや医療産業都市で活動するベンチャー企業への追加支援が計画されている。神戸市のスタートアップ支援の動きにはこれからも注目だ。

撮影:
Masahiro Honda

多名部重則(たなべ しげのり)

1997年神戸市採用。欧米の先進事例調査を踏まえ、2015年に新規政策であるスタートアップ育成事業を立ち上げる。同年に久元市長とともにサンフランシスコを訪問し、世界的に著名なシード投資ファンド「500 Startups」を訪問したことをきっかけに、同団体によるプログラムの日本発展開の神戸誘致に成功。ルワンダ共和国との経済連携事業も担当。博士(情報学)。

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