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2016 09.05

ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」・自社クラウドファンディング「First Flight」はどのように生まれたのか

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最先端テクノロジーとオープンイノベーションをテーマとした読売テレビのスペシャル番組『ハッカテン』出演者・関係者へのインタビュー。

今回は、8月の放送で紹介したアナログ腕時計のバンド部に電子マネーや通知などの機能を入れた「wena wrist」や、電子ペーパーを使った学習型リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」など斬新なプロダクトを生み出し続け、クラウドファンディングとEコマースのサイト「First Flight」も運営する、ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(以下SAP)」を手がけるソニー株式会社 新規事業創出部 統括部長 小田島伸至さんに話を聞いた。

新規事業創出のプロ集団となり、チャレンジャーと有識者を掛け合わせ、大企業ならではの手法でイノベーションを生み出していくことをビジョンに掲げる新規事業創出部。

運営している「SAP」は新規事業のアイデアを事業化につなげる為のプログラムで、年齢や職歴を問わずエントリーが可能。三ヶ月に一回の社内での「オーディション」を通過していくと、実際に、事業化に向けての動きがスタート出来る。

また本社内に設けた社内外で共創するためのスペース「Creative Lounge」やSNSの開設、「どうやってNGにするかではなく、どうやったら実現できるかをアドバイス」していく加速支援者と呼ぶ品質や法務など社内の各専門家の伴走など、サポート体制も充実させている。


社内を巻き込んでいく上で重要視していたコミュニケーションの取り方から、大企業がこのような社内制度を作る意義まで、幅広いお話が飛び出した。


「SAP」から生まれたスマートウォッチ「wena wrist」開発者・對馬哲平さんへのインタビューも。8月5日放映回の見逃し配信はこちらから!

「SAP」立ち上げに活きたデンマークでの事業立ち上げの経験

ーまずは「SAP」や「First Flight」誕生のきっかけについてお聞かせ下さい。

小田島:大きい企業の中では小さいものは埋もれやすい。ピックアップできる仕組みが必要だよねというのが発想の元です。私自身の経験からも大きな影響を受けています。元々「SAP」を立ち上げる前はデンマークでゼロからの事業立ち上げを牽引していました。

ーデンマークでのご経験について、お話し頂けますか?

小田島:向こうに行った時、現地に拠点も売上も人脈も最初はなかったので、いい人に会ったらいい人を紹介してもらって、でも人と会ってもらう為には相手が興味を持つようなネタが必要だからネタを作る、そういったことを合わせ込んで泥臭くやっていくとビジネスになっていく。この流れを体感したことが、「SAP」立ち上げにも活きました。

また、「SAP」は新規事業創出のプログラムなので、事業を知っている人じゃないと社内での説得や交渉も難しいですよね。実際にデンマークで事業を立ち上げた経験がその点でも活きましたし、自分の頭の中にそのときの熱も残っていたんですよね。なんとかこのプログラムを立ち上げるぞ、と。

ー日本に戻られてからも、常に「何が出来るのか」と考えていらっしゃったのでしょうか?

小田島:現場で実績を挙げたのちの本社の事業戦略部門。やはり大きな仕事が出来るとも、したいとも思っていました。ただ本社の戦略部門は優秀な人も多いですし、私も若かったので、その中で何が出来るかは悩みましたね。事業をやっていたので、自分が利益をあげていない状態というのはコストだと感じ、苦しいわけです。ただその時に武器になることが二つありました。一つはトップが集まる会議体を運営していたことです。会社の中をあまねく見ることが出来ていました。もう一つはグループ全体の戦略部門なので、誰かにお伺いを立てなくてもグループの誰にでも会いに行けることです。つまり会社の全体を俯瞰出来ることと、会いに行って話が出来る、ということですね。

ーそこから、「SAP」を立ち上げるに至ったきっかけは何でしょうか?

小田島:運営する会議の中で、新規事業の話が少ないなと思ったことが一つです。その理由を社内でたどっていくと、出来ない理由が100くらい見つかったんです。さらに色んな本を読んだりOBをたどったりして理由を探ったんです。まず本を読んでいくうちに「仕組み化する時代」だなと感じ、OBの話からはソニーはこれまで愚直に新しいものを生み出そうとやってきたと分かったので「愚直になれる環境を作りたいな」と、これらの気づきを形にしたのが「SAP」です。

ビジョンをつぶさない仕組みを担保する+”加速支援者”を伴走させる

ー「SAP」や「First Flight」の特徴について聞かせて頂けますか。

小田島:「SAP」では、事業部では出来ない新規事業を扱います。事業部でできるものは事業部に返して、利益上やミッション上でできないものだけをやっています。それも、それぞれのプロジェクトにいきなりではなく徐々にお金と権限を与えていきます。

オーディションに入ってくるアイデアはピンキリです。でも「まずはエントリーしてみてほしい」と思っています。最初は三ヶ月チャンスを与えて、もし結果が出なければ終了、三ヶ月で結果を残したチームには次のチャンスが与えられていきます。

交流の為の工夫も考えています。一つは「Creative Lounge」の開設です。社内外の色んな人と交われるように、そしてプロトタイピング等ものを作る場所として、わざとゴミゴミさせています。本社ビルの中に作ることで社員もそれぞれの業務の合間に来てくれるんですね。二つ目はSNS。人と人が部署の垣根を超えて結びつけられる仕組みをバーチャルでも作りました。三つ目はワークショップの実施です。

クラウドファンディングとEコマースを兼ねそなえたサイト「First Flight」の意義はお客さんとの直接のタッチポイントですね。本当にお客さんに求められているかをまずは見てみようと。それをダイレクトに知る為のタッチポイントがまだソニーにはなかったので。例えばクローズドのアンケートを取っても数も限られるし、身銭を切ったうえで頂く声と違って本当に求めていることより「ご意見番」的な意見になったりするんですよね。

社内外の人が交流・意見交換できる「Creative lounge」

ーこれらのプロジェクトは、ロゴなどのクリエイティブさにもこだわりを感じます。

小田島:これも「SAP」内の動きと同様に、従来のソニーのイメージとは違う価値観を表現すべくデザインセンターのアートディレクターが若いデザイナーに向けてコンペを開きました。「First Flight」つまり初めてのフライト—飛行機をコンセプトに、ロゴもその点を表現しています。見習い訓練生のパイロットがだんだんと自分の飛行機を持たせてもらって、お客さんを乗せるようになって、一緒にデスティネーションを探していくというイメージです。「Creative Lounge」の「ラウンジ」も空港をイメージしています。

「SAP」(画像上)「First Flight」(画像下)のロゴ

ー「wena wrist」を開発した對馬哲平さんにも取材を行いましたが、「wena wrist」チームが上手く行った要因はどのようにお考えですか?

小田島:彼らはまだ小さなスタートアップなので、このステージに留まらずいずれ大きな事業になってほしいですし、まだ「成功」だと彼らも私も思っていないですが、今のところ順調にいっているのはいくつか理由があります。一つは對馬さんのビジョンが明確で、SAPではそのビジョンをつぶさないような仕組みを担保していること。もう一つは、そうはいっても若いメンバーだけでは足りない知見だらけなので、加速支援者というプロフェッショナル集団を伴走させていることです。ソニーには定年間近の方から、若い方までいろんな専門家人材がいます。そして、意見を出すだけではなく課題を一緒に解決していきます。例えば「wena wrist」は小型であれだけの品質を追求しつつお客さんに提供し続ける為にちゃんとした原価におさめなければいけません。その品質を担保することと原価をおさめるために色んなプロが入っています。事業部なら既存の事業を運営するために既にその体制は整えられているのですが、SAPのプロジェクトは全てゼロから生まれる新規事業なので最初はバーチャルで持つしかないと考え、社内でその仕組みを作りました。

とはいえ、社内で協力を依頼するのは大変です。その中で、社長の平井(一夫)が直々にやろうと言っていることは一つの求心力になっています。また一方で個別に忍耐強く話していくということも大事です。現場の事情を理解した上で、協力してもらえるとこういうベネフィットがあると毎回決めていくんですね。

コミュニケーションのクオリティと効率化が大事

ーお話を伺っていると、コミュニケーションをとても大事にされているという印象を受けます。

小田島:コミュニケーションには非常に注力しています。そのクオリティと効率化がとても大事です。世の中にないものを生み出すにあたり、いかに信じてもらえるかはやはりコミュニケーションが必要になります。また、コミュニケーションを効率化していかないと考える時間が取れないですよね。考える時間がとれないとクリエイティビティも活かせないので、だらだら話すのではなく合理的にやることも必要です。それが「Creative Lounge」やSNSを社内に作るということに繋がっています。

ー「SAP」立ち上げによるソニー社内での変化も感じますか?

小田島:そうですね、具体的なところで言うとエアロセンスというドローンを使った産業用ソリューションの会社を「SAP」で預かって、立ち上げから一年位手伝ったことによる変化があります。今年6月にソニーがAIとロボティクスをやっていくと社外に説明した中の具体例としてもこのエアロセンスが登場しています。もしこうした事例がなければ「AIやロボティクスをやりますと言っても、事業としてのイメージが伝わりづらかったかもしれないですし、こういった事例を作ってきたことでこうした新規事業に取り組んでいくというメッセージもよりリアルになったなと感じています。

またこのエアロセンスがあることで社内に眠る色々なアセットの提案を受けるようになってきました。例えばカメラの部隊が「カメラ技術を一緒にディスカッションしたい」など、色んなところから連絡が来ます。社外からも、ソニーがドローンをやるなら何かやりたい、などと目に見えて反響があります。

ー大企業でこのような制度を立ち上げたいけれどどうしたらいいか?という企業・担当者も多いと思います。大事にすべき点はどのような点でしょうか?

小田島:私どもも道半ばではありますが、この「SAP」で第二回日本ベンチャー大賞のイントラプレナー賞を頂きました。まずこういう賞が出来たことに国の課題意識も感じますし、大きい企業が率先して小さいものにアプローチして育成していくことが必要とされているのではと思っています。机の下に眠っている技術・価値をもっと世の中に出していくのが、大企業がやれることだと思います。眠っている人材をどんどんマウンドに立たせて、投げられる人はメジャーリーグに行かせる、そういった姿勢が大事なのではと思います。

ーそういった社会的な潮流もありながら、ソニーとしての今後の展開もお聞かせ下さい。

小田島:まずはこの今のプログラムを磨いていくことです。また新しい動きは三つ。一つはコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund」の設立ですね。インキュベーターとしての役割をとって、社外のベンチャーも助けていきたい。二つめは、ソニー外のスタートアップを対象としたビジネスコンテスト「Sony - Startup Switch」。我々のプログラムを社外に提供していく試みとして、VCとは別の形でやっています。「SAP」とオーディションのやり方は全く一緒です。例えばバーチャルな触覚デバイスを開発しているスタートアップがいて、彼らはいい発想もあり力もあるんですが、開発以外、例えば細かい梱包の仕方などまで一から勉強するんです。ただそういう知見はすでにソニーにあるのでそれを使ってもらって、もっと彼らの情熱を開発に注いでほしいのです。三つ目は、ヨーロッパでも「SAP」のようなプログラムを走らせることです。スタートアップが多い土地柄で、自社の研究開発の拠点がある北欧から始めてみたいと思っています。

ー今後も「SAP」をはじめ、御社の新たな取り組みや、そこから生まれるプロダクトを楽しみにしています!ありがとうございました。

小田島 伸至(おだしま しんじ)

1978年3月生まれ、埼玉県出身。2001年東京大学工学部卒業後、同年よりソニー(株)入社、デバイス営業へ配属。2007年-2011年デバイス営業としてデンマークへ海外赴任。液晶ディスプレイ販売を担当し、ゼロから事業を立ち上げ、売上数百億円まで拡大させる。2012年に帰国後、本社の事業戦略部門に配属。本社戦略スタッフとして中期計画の立案や経営会議の運営に携わる。その際、ソニーのイノベーション力向上に向け、若手や中堅社員を巻き込みボトムアップで新規事業創出を促す社長直轄のプラットフォームの構築とプログラム(Seed Acceleration Program)を立案。2016年現在、新規事業創出部の統括部長として、イノベーションを創発するエコシステムの企画推進や、新規案件の事業化支援を先導する。Qrio株式会社※1とエアロセンス株式会社※2の取締役として事業経営に携わる。

※1:スマートロック事業を行うWiLとソニーの合弁会社

※2:自立型無人航空機とクラウドサービスを組み合わせた産業用ソリューションを提供するソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社と株式会社ZMPの合弁会社

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