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2016 08.31

クラウドファンディングで1億円超の支援!スマートウォッチ「wena wrist」ソニー入社3年目の開発者が語る秘話

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最先端テクノロジーとオープンイノベーションをテーマとした読売テレビのスペシャル番組『ハッカテン』。8月の放送では、今やスタートアップにとっては不可欠の存在となったクラウドファンディングを特集した。8月5日放送分の見逃し配信はこちらから!

スタートアップだけでなく、大企業も積極的に活用するクラウドファンディング。中でも注目を集めているのが、ソニーが2015年7月に開設したクラウドファンディングとEコマースを兼ねそなえたサイト「First Flight」だ。

今回は、この「First Flight」上で、クラウドファンディングとしては国内最高額(2016年8月現在)となる1億円以上の支援を集めたスマートウォッチ「wena wrist」の開発者、ソニー株式会社 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬哲平さんに話を聞いた。

スマートウォッチでありながらまさに「腕時計」といえる見た目が特徴的な「wena wrist」。對馬氏は、ソニー入社1年目に、社内の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(以下SAP)」のオーディションに合格し、学生時代から温め続けた構想を製品化することに成功した。

その見た目・機能へのこだわりや、社内制度をどのように活用していったかなど、「wena wrist」開発のストーリーに迫った。

見た目は「腕時計そのもの」

ーまず「wena wrist」へのこだわりについて聞かせてください。やはり一見「腕時計」でありながら、スマートウォッチとしての機能をバンド部に集約したことが特徴的ですよね。バンド部はどのような仕組みになっているのでしょうか?

對馬:バンドの中は電池が2つ、その間を配線が通っています。部品を分散させて配置することで薄さを実現しています。こだわった点は見た目として「腕時計そのもの」にすることです。ステンレスSUS316Lという高級腕時計でも使われている素材を使ったり、腕時計の慣習に合わせてマイナスのねじを使ったりしています。

ー実際の腕時計も参考にしたのでしょうか?

對馬: いろんな腕時計の専門家の方に聞いたり、みんなでいろんな時計のバックルの構造を分解したりしましたね。

ー機能は、電子マネー、通知、ログと厳選されていますね。

對馬: ディスプレイ付きのスマートウォッチのように様々な機能を全て入れたり、また、アンドロイドソフトウェアを付けたりしてしまうと、良いCPUが必要で消費電力が大きく、大きいバッテリーをつけないといけないので、どこかで厳選しないと成り立たないなと。 電子マネー機能があることでわざわざ財布をポケットから出さなくていいとか、通知機能があることでスマホをカバンに入れたままでもこのウォッチで通知に気づけるとか、生活から「引き算」出来るイメージで機能を決めました。

ーヘッド部もまさに「腕時計」と言える見た目ですよね。

對馬: デザインはこちらで、設計・製造はシチズンさんにお願いしています。モノトーンで出来るだけシンプルに、でもよく見ると遊び心もあるということをデザインコンセプトにしました。また、いろんなブランドさんや時計メーカーさんなどとコラボした際にブランド名や個性的なデザインを全面に出せるようにと思い、今回のモデルをレファレンスモデルにしようと。そのためにできるだけシンプルなデザインで色もモノトーンにしています。

スタートアップか大企業か--「量産」を学ぶためにソニーへ

ーこの「wena wrist」のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

對馬: 大学入試の時、デジタル時計は腕に付けられないこともありますよね。以来それをきっかけに私はアナログ時計をつけることが習慣になったんです。一方でウェアラブルのデバイスも好きで、腕時計に、スマートウォッチ、スマートデバイス…色々身につけたかったんですが、沢山つけていると周りからは「何あいつ?」となりますよね(笑)。ならばと、アナログの腕時計として格好良さを残しながら、便利な機能を入れ込むアイデアを思いつきました。(思い浮かんだのは)大学院生の頃ですね。

ーソニーに入社して実現させようと思った理由は何でしょうか?

對馬: スタートアップか大企業か、という面はもちろん悩みました。スタートアップについては、大学院生の時に学内ベンチャーでバイトしていたのでその雰囲気や意思決定の速さは学んでいました。ただ、ハードウェアのスタートアップを扱うとなると「量産」のところを学びたい。そしてウェアラブルで生きたい—このように考えていくと当時からウェアラブルを手がけていて何百万台と量産する力がある、ソニー一択でした。

ー入社後、商品開発を実現するまでに100人の社員にヒアリングして、200枚の資料を作ったとのことですが、そうしようと思ったのは何故ですか?

對馬: まずは入社後三ヶ月で好きなものを作る研修があり、その発表会があったのですが、この時は10枚程度の資料で発表しました。しかしそれが事業計画として成り立つかと言ったら抜け穴もたくさんありますし実現性も不確実。もう少しブラッシュアップしようと思った時に、先輩社員に「こういうことを考えているんです」と相談したことがあり、そのアドバイスをメモしてスライドに追加したことがきっかけです。「あ、こうやって聞いていくのはいいな」と思ったんです。

ー200枚の資料の内訳はどのようなものだったのでしょうか?

對馬: 特許、コスト、物流商流、販路など一枚一枚つくっていくと、大まかに「What」「Why」「How」と「Appendix」に分かれるんです。そこから、プレゼンの機会に応じて枚数を抜き出して使うイメージですね。

ー資料を作った後のプレゼンの反応はいかがでしたか?

對馬: 資料を作る前は、自分の頭の中で完璧な想像があっても言葉だけでは上手く伝わらず「ふーん、頑張ってね」となることが多かったんですが、ちゃんと資料を見せたり、その後実際のモノが出来ると反応が変わって「手伝いたい」という声が増えましたね。

ー資料が出来上がった後はどのようにプロジェクトが進んでいったのでしょうか?

對馬: まず冒頭でお話しした研修が4~7月、資料を作っていたのが7〜9月。その間はもちろん、通常の業務も行っていました。9月に新規事業創出プログラム「SAP」第2回のオーディションがあったので持っていきました。12月に合格して、翌年3月からプロジェクトとしてスタートしました。

新規事業創出ブログラムの「小さく早く回す」というコンセプトに共感

ーソニーの新規事業創出プログラム「SAP」から生まれたという点も、このプロダクトの特徴の一つですよね。

對馬: 通常の商品化のプロセスだと、早くても次年度からしか進められず、しかも百万台レベルの生産に特化したプロセスなので、どうしても過剰になりがちになってしまうんですね。この商品は何百万台と売れるものではないので、適した組織体制でやらないといけないと思っていて、そういう時に出て来たのが「SAP」(ソニーの新規事業創出プログラム。年齢や職歴を問わずエントリーが可能。三ヶ月に一回の社内での「オーディション」を通過していくと、実際に、事業化に向けての動きがスタート出来る)でした。小さく早く回すというコンセプトにとても共感しましたし、かつ自分が一緒に仕事したい人を、その人の上長の方も含めて説得して引っ張ってくることも出来るので、一人一人必要だと思う人を集めてコアメンバー10人ほどのチームを作りました。

最初は同期との3人のチームだったのですが、それぞれの専門領域からチームバランスを踏まえつつ、この商品を本当に好きでいてくれるかを見ながらオファーを出していきました。

ーソニーが自社で運営するクラウドファンディングとEコマースを兼ねそなえたサイト「First Flight」で支援を募った訳ですが、クラウドファンディング活用の意義については、どのように感じましたか?

對馬: この商品は売れるの?何億円のビジネスになるの?とか、まったく新規の事業なのでやはり社内でも色々な声が出ますよね。でもクラウドファンディングで結果が出ると、自分と同じように欲しいと思っている人が世の中にいると証明されるわけじゃないですか。社内の説得がしやすくなりました。

ー2016年6月末には店頭やオンラインストアでの正式販売もスタートしました。反応はいかがですか?

對馬: 良好ですね。30〜40代の、アナログ時計としての価値を感じながらデジタルも好きという方が買われることが多いです。また、販路先との交渉の際にもクラウドファンディングの成果は大きかったです。

ー関西発の番組「ハッカテン」ということでお聞きしたいのですが、学生時代の對馬さんのように、関西で大学生・大学院生でモノづくりが好きという方がもしいたら、どんなことを伝えたいですか?

對馬: 好きなものを好きでいてほしいですね。やっぱり「オタク」じゃないと新しいものは作れないんじゃないかと思います。 僕は毎日2時間、様々なWebメディアの記事を読んで気に入った記事があればブックマークしていました。フォルダも「ガジェット」「サービス」などと分けて。それぞれのフォルダに500ずつ位記事があって、それを見ながら「さっきはこういうものがあったけど、こっちのこういうところもいいな」などと考えるのが好きでした。

ー對馬さんの今後の展望についても聞かせてください。

wenaの由来は「wear electronics naturally」。もっと自然な形で電子デバイスを、という意です。wena wrist以外にも、wena XXなどと、身につけるデバイスを気軽に捉えて作っていけたらと思います。

また個人的には、情熱を傾けて、時間をかけて身を削ってやれる期間って人生の中でもそんなに長くないと思っているので、焦っています。例えばノーベル賞を取った人も、ある時期の研究の成果が評価されて受賞されているわけじゃないですか。

まず5年くらいのロードマップは敷いているんですが、そのロードマップを何回か繰り返した時に、どこかでプレーヤーから離れないといけない時が来る、そのときは僕も先輩にお世話になっていたので、後輩に還元出来ればと思います。

對馬さんへのインタビューや、ソニーから生まれた様々な新規事業についてもリポートした『ハッカテン』8月5日放送分の見逃し配信はこちらから!

對馬 哲平
wena projectリーダー

1989年11月生まれ、大阪府出身。学生時代は学内ベンチャー企業で働き、雰囲気とスピード感を体験する。2014年大阪大学大学院工学研究科卒業後、同年ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)入社、機構設計部へ配属。入社直後の研修にて、腕時計のバンド部分に機能が集約されたwena wristの構想と試作機を披露した。その後、“人々にもっと違和感なく、自然に電子デバイスを身に付けてもらいたい”というビジョンを掲げ、有志を集めて業務外での活動を開始。入社1年目でソニーの社内スタートアップ・オーディションを勝ち抜き、2015年3月よりソニー(株)新規事業創出部の統括課長としてwena projectを立ち上げた。第一弾の製品であるwena wristのクラウドファンディングでは日本記録を樹立し、2016年6月末より正式販売を開始。

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