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#71710月15日(日) 10:25~放送
台湾

 今回の配達先は、台湾。ここで金魚の研究に取り組む生物学者の太田欽也さん(50)へ、和歌山県で暮らす娘の悠の奈さん(14)、息子の燕蔵さん(12)、母・はやみさん(73)の想いを届ける。
 台湾東北部の地方都市・宜蘭(イーラン)。漁業で栄える港町であり、温泉地としても有名な人気の観光地だ。その中心部から少し外れた田園地帯にあるのが、欽也さんが働く「台湾中央研究院・臨海研究所」。台湾最大級の魚介類の研究施設で、世界中から集まった生物学者が20種類近くの水生動物を研究している。中でも欽也さんが研究対象としているのは、特別な金魚たち。実は金魚は生物学的にとても不思議な存在で、尾びれにあたる背骨の先が左右二股に分かれた、他にはない特徴を持った種類がいるという。欽也さんの研究分野である「進化発生学」は、生物の進化の原因となる遺伝子を特定し、それが体に与える影響を検証するというもの。実際の研究では、魚類でも特に珍しい進化を遂げたランチュウという金魚と、背骨がまっすぐで尾びれが分かれていない和金の遺伝子を比較。尾びれが2つに分かれたランチュウのひれだけに見られた遺伝子をさらに解析し、しっぽが割れた金魚が生まれるメカニズムを世界で初めて解明した。今では研究所に1000匹以上いる金魚の遺伝子パターンをすべて把握。人工授精で様々な種類を掛け合わせ、産まれてきた次の世代にどんな変化が起こるのかも観察している。観察は数世代にも及ぶため、1つの論文が完成するまでに数年かかることも。そんな進化発生学は今、医療業界からも注目される分野であり、欽也さんはその第一人者。発表する論文は常に高い評価を受けている。
 子どもの頃から近所の野山で生き物を観察するのが大好きだった欽也さん。きっかけは、母が買ってくれた加古里子(かこさとし)著「地球 その中をさぐろう」という絵本だった。日本の原風景とともにそこに暮らす生き物の名前や特徴が詳細に描かれた1冊が今でも強く印象に残っているという。近畿大学では水生動物の研究を専攻。卒業後、進化発生学に出会い、日本でも数少ない専門の研究者として数々の論文を発表した。さらに、国内最高峰の研究機関である「理化学研究所」にも在籍。しかし不景気で日本の研究業界は縮小され、思うような研究ができなくなってしまう。しかも予算交渉が苦手な欣也さんは、研究の継続すら難しい状況に。そんな時、研究者にとって理想的な環境が整う台湾から声が掛かったのだった。現在は朝から晩まで、ひたすら実験と観察を繰り返す日々を送っている。
 妻のラーナさんと出会ったのは、日本で研究員をしていた頃。結婚後、悠の奈さんと燕蔵さんが生まれ、2011年に家族4人で台湾へ移住した。しかし8年前、子どもたちを日本の小学校へ通わせることを夫婦で決断。欽也さんは1人で台湾に残ることになった。寂しくなることもあるというが、自分が研究に集中できているのは家族のおかげであり、海外出身の妻と年頃の子どもたちを支えてくれている母・はやみさんには感謝してもしきれないと語る。一方で、日本の家族に何かあればすぐに仕事をやめる覚悟もあるという。そんな欽也さんについて、「いい意味で父親らしくない」と評する悠の奈さん。「軽いというか、友達っぽい」と言うが、「でも、そっちの方がいい」と本心を明かす。
 家族と離れて8年。生命の神秘を解き明かすため今日も研究に明け暮れる父へ、子どもたちからの届け物は悠の奈さんが描いた欽也さんの似顔絵と、燕蔵さんからの金魚のメッセージカード。子どもたちから初めてもらう贈り物に、欽也さんは大喜びする。そして「彼らとは良い仲間でありたい。同じ時代を生きて、彼らがやりたいことに対して役に立つ“おっさん”というか…お父さんというよりは、年上の役に立つ人みたいな立場で、一緒に何かをやりたいなという感覚はあります」と夢を明かすのだった。