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#6964月30日(日) 10:25~放送
ラオス

 今回の配達先は、ラオス人民民主共和国。ここで昆虫採集のプロフェッショナルとして活躍する「ラオスの蝶人」こと若原弘之さん(63)へ、友人で医学博士の二村正之さん(64)、愛媛大学准教授の吉富博之さん(50)、昆虫研究者の秋山勝己さん(64)の想いを届ける。
 中学の頃から「若原に採れない蝶はない」とマニアの間では有名で、高校時代には昆虫採集のプロとして活動していた若原さん。高校卒業後はアジア各地を転々と巡り、37年前に昆虫大国であるラオスに根をおろした。番組ではそんな若原さんを2013年に取材。あれから10年経った現在も変わらず、ラオスで世界の昆虫研究者のサポートと生態調査を行なっている。
 今回、若原さんが調査のために向かったのは首都・ビエンチャンから約160キロ北にあるバンビエン。現地に到着すると、車を走らせ鋭く切り立った山の谷間に直行する。このあたりは土壌が非常に蝶に適しているため、広域分布種を含めて約500種類もの蝶が生息しているエリア。しかも若原さんは長年の経験で蝶の生息場所は完全に把握している。だがこの日、今回のお目当てであるキアニパルダスという蝶はおろか、蝶そのものになかなか巡り会うことができない。その中でも発見できた数種類を大きな虫取り網を操って捕獲し、狙った蝶は必ず採る「ラオスの蝶人」の健在ぶりを見せた若原さんだが、最も有力なポイントにもキアニパルダスの姿はなく、蝶の激減という現実を目の当たりにする。続いては町に出て、ラオスでは盛んな昆虫食の状況を市場で調査。夜には光に集まる昆虫の習性を利用する灯火採集を行う。10年前には無数の昆虫が集まった灯火採集だが、今回は信じられないほどの少なさ。このように昆虫をはじめ様々な生物が減少しているのは世界的な現象だといい、研究者たちは今、小さな昆虫の世界をヒントにその原因を紐解こうとしている。
 実は、コロナ禍よるロックダウンで外国からの研究者が来られず仕事がなくなったとき、心労から原因不明の病を患った若原さん。一時は死も覚悟したほどで体調はまだ万全ではないが、再び研究者が訪れるようになった今、新たな気持ちで活動を再開したという。「1人で開拓してきた中でいろんな自分なりの採り方がある。ここからは集大成として、それらを全部オープンにして教えていけることがあるなら教えていこうと」。そう語る若原さんは、果物を使ったトラップなど蝶を誘き寄せるための様々なテクニックを惜しげもなく公開する。結局、今回の調査でキアニパルダスを確認することはできなかったが、いないというのも重要なデータなのだ。
 そんな若原さんの今の姿を見た友人の3人。元気そうな様子に、秋田さんは「安心しました」と胸をなでおろす。一方で、吉富さんは「本当に虫が少なそうなのは心配ではありますね」、二村さんも「やはり、現地に行ってみたいですね」と同じ研究者として環境の変化にも反応する。
 若原さんが調査をするにあたり、大切にしているのが「現地人の生活の保護」。経済が発展し、インフラ整備が進む中で環境がどう変わるのか、共に歩んだラオスの成長と大自然の両立を目指してがむしゃらに生態調査を行っている。「僕がやっていることの答えなんて一生出ることはない。結局はたたき台なので、これらのデータを残しておいて、これからの方に引き継いでいければ」。ラオスに渡り37年。未来のために、この地で人生の全てを蝶に捧げる若原さんへ、日本の昆虫仲間からの届け物は、現地ではなかなか手に入らない昆虫採集に必要な日本製の乾電池と蝶を包む三角紙。「昆虫採集を通じて世間を攪拌(かくはん)してください。私たちも手伝います」というメッセージに、若原さんは「まだまだこれからです。バリバリとひっかきまわします」と力強く宣言するのだった。