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#6913月26日(日) 10:25~放送
モロッコ

 今回の配達先は、モロッコ。ホテル経営者として奮闘する岩間ひかるさん(42)へ、青森県で暮らす父・昇さん(70)の想いを届ける。
 モロッコの中央に位置するかつての首都・マラケシュ。そのメディナと呼ばれる旧市街の、まるで迷路のように入り組んだ路地の一角に、ひかるさんと夫のアリさん(41)が切り盛りする宿「ダール ミライ」がある。現地では多く見られる、中庭がある古い邸宅を改装した「リヤド」と呼ばれる形式の宿泊施設で、ひかるさんがモロッコに移住した2014年にオープンした。
 青森県の津軽平野で生まれ育ったひかるさんは22歳の時、「砂漠を見たい」と一人旅でモロッコへ。降り立った瞬間からこの地に魅了されたという。そして偶然出会ったのが、ラクダを引きながらツアーガイドをしていたアリさん。4年間の遠距離恋愛を経て、2006年に結婚した。宿の仕事は24時間体制のため、アリさんは毎日泊まり込み。ひかるさんは2人の子どもと宿から車で30分ほどの所にあるアパートで暮らしている。週末、子ども達の学校が休みになると一家で向かうのが、砂漠にあるもうひとつの宿。3000メートル級の山々が連なるアトラス山脈を越え、約600キロを10時間以上かけて家族でドライブする。モロッコとアルジェリアの国境付近にあるメルズーガは、サハラ砂漠の壮大な景色を一目見たいと世界中から大勢の観光客がやって来る町。2019年、ひかるさん夫妻は貯金をはたいて土地を購入し、この砂漠の中の町にグランピング施設「ジャルダン コトリ ラグジュアリー キャンプ」をオープンした。運営は近くに暮らすアリさんの兄姉ら家族が担っている。現在は日常が戻っているというが、コロナ禍の頃は宿泊客が途絶え収入もゼロになったという。貯金を切り崩して生活する中「このままでは食べられなくなる」と危機感を持ったひかるさんは、砂漠に農園を作ることを決意し、クラウドファンディングで資金を集めると東京ドーム約6個分の土地を購入。デーツという栄養豊富なナツメヤシの実があれば生きていけると考え、200本のナツメヤシを植えたのだった。それぞれの木には協力してくれた人の名前が記されており、その中の1本には今は亡き最愛の母・千鳥さんの名前が。母は56歳の時にステージ4のガンが見つかり、その後3年に渡って病魔と闘った。当時の会話で感じた母の死への覚悟を思い出すと、今もひかるさんは涙が止まらないのだった。
 そんな娘に、父・昇さんは「よく頑張れたなと思って。コロナ禍でお客さんや収入がなくなった時に、クラウドファンディングで農園を作ろうってその発想がすごいと思った」と感心する。また死を覚悟した母の言葉がひかるさんの原動力になっていることにも触れ、「母ちゃん、良いこと言ったなあ」と笑顔を見せる。
 砂漠に憧れ、運命の出会いから今はモロッコに根を下ろし家族とともに生きる娘へ、父からの届け物は故郷・青森の津軽びいどろの花瓶。父の手紙には、ひかるさんが知らないことが綴られていた。「お母さんは、家で病気と闘っていた9月のある日、『もう決めた!』と言ってベッドから降りたんだ。そう、自分の人生の終幕を決めたんだ。それから終末医療をしてくれる病院に移ったのさ。その時に持って行ったのが、この花瓶だよ。お母さんはモロッコに行けなかったから、そばにいつもいると思って、飾って思い出してほしいな」。手紙を涙ながらに読んだひかるさんは、「こんな大切なものを…」と届け物に感激する。そして父へ、「はた目から見たら危なっかしい人生を歩んでいると思いますが、自分では心配ないかなと思います。父も心配することなく、自分の人生というくくりで自由に幸せに過ごしてほしいなと思います」と自身の想いを伝えるのだった。