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#6658月21日(日) 10:25~放送
ニュージーランド

 今回の配達先は、ニュージーランド。壁画アーティストとして奮闘する青島江龍さん(34)へ、静岡県で暮らす母・承紅さん(59)の想いを届ける。江龍さんは中国生まれ。2歳の時に両親が離婚し、4歳で承紅さんと日本に移住した。承紅さんは最初、息子がニュージーランドに行く理由がわからなかったというが、「私も中国から日本に来ましたので、海外に行って視野を広げて世界を見るのはいいと思います」と理解する。とはいえ、「日本を出るときはカバン1個だった。生活はちゃんとできていますかね…」と今の様子を気に掛けている。
 世界遺産のマウントクックをはじめとした人気観光地の玄関口となっている街・トワイゼル。江龍さんはトワイゼルの観光課からの依頼で、街の中心にあるショッピングセンターの横で壁画を制作していた。今回は横幅33メートルもある壁に、いくつもの電球がトワイゼルを照らしているイメージを描くという。使用するのは、アート用のスプレー塗料。100色以上ある中から色を選び、塗料の出方が違うスプレーのノズルを使い分け、さらに手首の動きや噴射の向き、強弱をコントロールして、マウントクックのダイナミックな山肌や稜線を描き上げる。さらに女性の顔などのモチーフや電球のガラスの質感もすべてスプレーで表現。実は江龍さんは絵を専門的に学んだことはなく、全て独学だという。
 学生時代は苦しい家計を助けるためアルバイトに明け暮れ、大学卒業後も、子どもの頃から好きだった絵の道には進まず就職。しかし、自分の生き方に疑問を感じ、仕事を辞め旅に出る。そんな中でオーストラリアを訪れると、「メルボルンにストリートアートの環境が完璧に揃っていた。自由に描ける壁もあるし、画材もすぐ手に入る。その時にずっと募っていた気持ちが弾けた」。こうして壁画と運命的な出会いを果たし、アーティストとして活動を始めたのだった。人生が大きく変わったのは2年前。コロナ禍の中、アーティストがステイホームで描いた作品を発表するオンラインイベントが開催された。江龍さんは卓球台をキャンバスに、女神をイメージした女性や動物などを描いた作品を出品。すると新聞やSNSで話題となり、個人や企業、さらには町議会から次々と仕事のオファーが舞い込むようになった。江龍さんの鮮やかな絵は児童公園など公共施設を彩るほか、クライストチャーチで行われた壁画イベントでは巨大な金剛力士像を描き、一般の人気投票で1位に。そんな壁画の魅力について、「キャンバスは持ち運べるし、自分の好きな所に飾れるけど、壁はそこに行かないと見られない。その街に溶け込んで、長く残ることで景色の一部になっていく…そこが面白いと思うんですよね」と江龍さんは語る。
 壁画に出会い、描き始めてからわずか3年。ニュージーランドで才能を解き放ち、大好きな絵で生きる道を見つけた息子へ、母からの届け物は江龍さんが中学生の時に使っていたスケッチブック。20年前に夢中で描いていた絵の中には、今のスタイルに通じる女性をモチーフにした作品もあった。それらを懐かしそうに眺めながら、「やってることが変わってないように思うけど、これが今の仕事につながっていると思うと感慨深いですね」と江龍さん。そして、「これが僕の原点であり、道しるべなのかもしれない。恩返しじゃないけど、僕はちゃんと自分の道を進んでいるということを、言葉ではなく絵で伝えて行こうと思います」と、何も言わず見守ってくれている母に誓うのだった。