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#6617月24日(日) 10:25~放送
アメリカ・ニューヨーク

 今回の配達先はアメリカ・ニューヨーク。世界に「殺陣」を広めようと奮闘する殺陣師の香純恭さん(本名:恭子さん 51)へ、埼玉県で暮らす兄・秀治さん(54)の想いを届ける。実は、「いつどういう風にニューヨークで殺陣を始めたのかはっきりとは聞いていない」という秀治さん。殺陣も生では見たことがないそうで、「今回は違う恭子が見られるんじゃないかと思って、楽しみです」と期待する。
 時代劇やアクション映画に欠かせない「殺陣」とは、樫の木で作られた刀を使った格闘シーンの振り付けのことで、いかに美しく迫力ある戦いを演じられるかが重要とされる。恭さんはマンハッタンから車で1時間ほどの郊外にある自宅に道場を構え、約100人の門下生に殺陣を指導している。コロナ禍で減ったものの、本来の仕事は映画の現場でのアクション指導。そのため、道場にはプロの俳優が来ることも珍しくない。
 幼い頃から活発で、アクション女優に憧れていた恭さん。アクション映画に携わりたいと思い続けて道を模索していた27歳の時、初めて殺陣に出会い、「これだ!」と雷が落ちたような衝撃を受けた。師匠に弟子入りし稽古に励んだ恭さんは、いつしか数々の映画現場に呼ばれるように。そして殺陣師としてキャリアを積むほど、殺陣を世界に広めたいという思いが強まった。そんな中、日本での結婚、出産を経て、夫の仕事の都合で渡米。2014年にニューヨークで道場を開いた。だが、当初はなかなか殺陣を理解してもらえなかったと振り返る。またアメリカ映画界では長年、フェンシングの動きが武器を使ったアクションの基本だった。そんな環境で日本の伝統芸である殺陣を広めたいという思いもある。「殺陣を通して相手を知る、リスペクトする。特に、いろんな人種や宗教や文化が混じっているニューヨークで殺陣をやる意味はすごくあるんじゃないかと思います」と恭さんは語る。道場では、朝9時から夜9時まで、90分の稽古を5本行い、2週間に1回はマンハッタンで出張稽古も。一方で3人の子を持つ母親でもあり、家事は稽古の合間を縫ってこなすため休む暇はない。
 こうしてアメリカで殺陣師として独立して8年、恭さんに大きなオファーが舞い込んできた。日本文化を伝える大イベント「ジャパン・パレード」でニューヨークの街をパレードしながら演舞を披露することになったのだ。3人の弟子を招集し、綿密に稽古を重ねて迎えた当日。舞台となるパレード用のフロートが予定よりもかなり狭かったため、急きょ演舞を修正することに。想定外のトラブルがあったものの、パレードには恭さんの子どもも含めた門下生30人も参加。沿道には2万人を超える観客が集まった。フロートの上から観衆や弟子たちを眺め、ようやくここまでたどり着いたことに恭さんは感極まる。
 アメリカでは知られていなかった殺陣の文化を広めるために戦い続ける妹へ、兄からの届け物は1枚の古い写真。両親と兄妹の家族4人が一緒に写った唯一のものだった。昨年亡くなった父はあまりしゃべる人ではなかったが「相当心配していたと思う」と恭さん。「話ができなくなる前に無理矢理にでもそういう時間を作っておけば良かった」と悔やんでいたが、兄の手紙には、父が生前、周囲に殺陣師である娘を自慢していたことが綴られていた。恭さんは「父がこんなに自慢してくれていたなんて思ってもみなかった…」と感激し、号泣。そして「この国で頑張ってもいいのかなって。背中を押してくれた気がします」と、父や兄の想いに感謝するのだった。