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#6556月5日(日) 10:25~放送
スペイン・グラナダ

 2013年に取材したスペイン・グラナダの空撮カメラマン、諸田恵美子さん(当時47)。母親として2人の子どもを育てながら、世界中を飛び回り、空から迫力ある映像を撮影していた。撮影飛行で使うモーターパラグライダーはプロペラとエンジンを搭載し、パラシュートやカメラなどを含めると総重量は40キロ近くにもなる。重い機材を背負ってのフライトは体力勝負でもあり、恵美子さんは入念なウォーミングアップをいつも欠かさない。
 ある時は市役所からの依頼で、グラナダ南部の人気リゾート地・サロブレーニャのPR用映像の空撮を行うことに。モーターパラグライダーは思うように飛ぶだけでも神経を使うが、撮影の際には片手を離さなければならず、より高度な操縦技術が必要になる。さらに予期せぬ乱気流が発生することもあるため、常に危険とは隣り合わせだ。そんな恵美子さんと並走し、サポートするのはモーターパラグライダーの世界チャンピオンである夫のラモンさん。こうして切り立った崖にもギリギリまで近づき、普段は目にすることができない鳥の目線のような映像が撮影される。
 幼い頃から海外への憧れが強かった恵美子さんは、スペインでパラグライダーを体験した時に見た大空からの眺めに魅了され、猛特訓を開始。2年後の1997年にはスペイン選手権で優勝し、ナショナルチームのメンバーとなった。そこで出会ったのがラモンさん。2人は当時まだ珍しかったモーターパラグライダーを使った空撮を始め、今ではそのパイオニアとして世界中から撮影の依頼が寄せられる。
 空撮カメラマンとして確固たる地位を築いた恵美子さんだが、この姿を一番見て欲しかったというのが、今は亡き母。そして自身も母として子育てや家事に追われながらも飛び続けているのは、「こんな素敵な景色があることを他の人にも見せてあげたいし、みんなで分かち合いたい」との思いがあるからだと語る。「おばあちゃんになっても続けたい」と笑う恵美子さんへ、届け物は母が残した日記。辛い時でも「いつもスマイル」と綴った母らしい前向きな言葉の数々に触れ、恵美子さんは笑顔を絶やさなかった母の姿を思い出すのだった。
 あれから8年半。山口智充がスペインの恵美子さん(55)と中継をつなぐ。現在も世界中を飛び回る恵美子さんは、最近ではヨルダンで撮影を行ったといい、熱気球の大会や映画「スターウォーズ」の舞台となった砂漠のダイナミックな映像を公開する。近年、特に印象的だったのがケニアだそうで、大地を駆けるキリンや水辺から飛び立つフラミンゴなどの姿を空からとらえた。野生動物を空撮するのは非常に難しいことだが、「ドローンにはできない撮影ができるという、モーターパラグライダーならではの醍醐味が味わえた」と語る。さらにエジプトのルクソールでは、ピラミッドや遺跡の上空を飛行。許可が下りるまでに20年近くかかったという念願の撮影であり、女性でこのエリアを飛んだのは世界初のことだったそう。また空撮のほかにも、「WORLD AIR GAMES 2015」にスペイン代表として出場し、モーターパラグライダー部門で女性として4位に入賞した。
 子どもの手も離れたことからますます精力的に活動する恵美子さんだが、最近行っているのが、お客さんを乗せたタンデムフライト。「小さい子どもや経済的な事情で飛行機に乗れない人、世界の他の景色を見れない人に私がタンデムフライトで空を見せてあげたいし、そういうプロジェクトもしたいと思っています」とこれからの夢を明かす。