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#58211月8日(日) 10:25~放送
熊本県・戸馳島

 今回の配達先は、熊本県。八代海に浮かぶ戸馳島(とばせじま)で獣害対策に奮闘する井上拓哉さん(24)へ、千葉県で暮らす父・靖弘さん(54)、母・美奈さん(53)の想いを届ける。動物が大好きだった息子があえて選んだ道。美奈さんは「元々は大学で猟師が減っているという話を聞いて、じゃあ自分が免許を取ろうというところから始まった」と経緯を明かす。靖弘さんも島での様子は見たことがないといい、「一般の人がやるような仕事ではないので、実際どういったことをしているのか…」と話す。
 数々の島が点在する天草諸島の玄関口、本州に近い場所に位置する戸馳島。人口1200人の小さな島は日本有数の蘭の出荷数を誇ることから「蘭の島」とも呼ばれ、蘭の栽培など農業に携わる人が多く住む。だがここ数年、イノシシの被害が急増し、この地域だけで昨年は約800頭を捕獲。畑の作物を食い荒らされ廃業に追い込まれる農家もあるほど深刻化している。
 子どもの頃から絵が好きで、正義感が強かったという拓哉さん。常々、誰かのために何かしてあげたいという気持ちを持っていたが、東京農業大学に進学し獣害について学んだことで生き方が大きく変わったという。何とか農家を獣害から守らなければと考えていたときに知ったのが、熊本の農家の若手たちが結成した「農家ハンター」の活動。日本では数少ない、農家自らが獣害対策をするという集団で、感銘を受けた拓哉さんは当時の全財産10万円をすべて農家ハンターに投資。そして大学卒業後、すぐに島へ移住したのだった。
 罠の設置には狩猟免許と専門知識が必要なため、農家からの依頼を受けた拓哉さんが行う。イノシシの生態を理解しないと捕獲は難しく、技術のほとんどは師匠的存在である猟友会の山本さんに教えてもらった。あるとき、罠に掛かっていたのは3頭の幼いイノシシ。子どもでも数カ月もすれば畑を食い荒らすようになるため、電気止めさし機という装置で息の根を止めなければならない。電気が流れる槍を手に、「自分が“止めている”のを感じる。慣れることはこの先もないんじゃないかな」と拓哉さんはいう。ただ、これまでの獣害対策では捕獲されたイノシシは埋められているだけだったが、昨年から拓哉さんの会社「ジビエファーム」でジビエとして出荷することを始めた。加工技術を一から勉強して覚え、イノシシ肉をインターネットで販売。その収益で会社を運営しているが、まだ順調とはいえないという。日々の活動が地元で感謝され期待される反面、葛藤も。「ジビエファームでイノシシが解体されなくなり、自分の仕事がなくなるのが一番の理想」。誰かがしなければいけない仕事だが、それが自分なのか…その答えはまだ見つかっていない。
 拓哉さんの会社では、ジビエを販売するだけでなくイノシシの命を無駄にしないさらなる取り組みを続けている。その1つが食肉加工の際に出る骨の利用。さらにイノシシの革を使った商品を試作中で、いずれ販売する予定だ。野生動物との共存を理想としながらも、今は獣害対策の仕事に打ち込む拓哉さん。自らの道を模索し続ける息子へ、両親が届ける想いとは。