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#40112月4日(日)10:25~放送
オランダ・アムステルダム

 今回の配達先はオランダ・アムステルダム。パティシエとして奮闘する加藤麻里さん(32)と、愛知県に住む父・利宏さん(65)、母・みきさん(60)をつなぐ。実は、パティシエにとっては致命的な重度の卵アレルギーを持つ麻里さん。両親は「命を失う危険もあるので、独りで暮らしているのが心配。早く帰って来てほしい」と願っているが…。
 麻里さんはインターネットを通じてケーキを受注生産している。製作するのは自宅アパートのキッチン兼工房。ケーキ作りに欠かせない卵を素手で触ると真っ赤に腫れ上がってしまうため、手袋を二重にして細心の注意を払う。口にするとアナフィラキシーショックを起こし、最悪の場合、血圧低下や意識障害を起こして命を落とすこともあるという。そのため、試食の際は味と食感だけ確かめると、すぐに吐き出してしまう。それでも口の中がかゆくなってしまうという。
 子供のころから家族のためにケーキを作ることが大好きだった麻里さんは、22歳の時、夢を叶えてケーキ職人として働き始めた。だが、そのわずか2年後、卵アレルギーを発症。麻里さんは「やりたかったことができなくなってしまって…。何より、大好きなケーキを一生食べることができなくなったことが一番つらかった」と涙する。ドクターストップも出たためケーキ作りの夢は諦め、調理の専門学校で教員として働き始めた。そんな中、卵を使わない「シュガークラフト(粉砂糖を粘土状にしたペーストで造形する技術)」と出会ったのだ。「これなら私でも勝負できる」。麻里さんはその技術を学ぶため、本場イギリスへ。めきめきと腕を上げ、権威あるコンテストで6つの賞を受賞。華やかな装飾の技術を武器に、大好きなケーキの世界へと戻って来たのだ。
 麻里さんが作るケーキはフルオーダーメイド。スポンジケーキの本体を作ってからが本番で、まるで本物のように繊細なシュガークラフトの薔薇などで美しく飾っていくのだ。お菓子に対して保守的なオランダには、デコレーションされたケーキはほとんどないという。だからこそ、華やかな装飾の独創的なケーキ作りをしていけば、パティシエとしての未来はおのずと拓ける…そんな思いで今年2月、この国にやってきたのだ。だが、シュガークラフトは時間と手間がかかるため大量生産ができない。そのため今の経済状態はギリギリだという。
 それでもアムステルダムでひとり夢を追い続ける麻里さん。「両親に心配をかけちゃいけないと思ったら、日本に帰らなくてはいけなくなる。心配をかけていると分かっていても、気づかないふりをしているところはある」。両親の心配は痛いほど分かっているのだ。
 将来はこの街に自分の店を開きたいという麻里さんに、日本の両親から届けられたのはクッキーの型。一度は夢破れながらもシュガークラフトに出会い、もう一度パティシエの夢へと踏み出す決心をした時、最初に手元に集めた忘れがたい道具たちだ。「私の原点ですね。これを送ってくれたということは、“帰って来い”じゃなくて、“やってこい”ということですね。やりたいと思って戻ってきた世界。最後までやり切りたい。頑張ります」と、両親に誓うのだった。