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#2711月19日(日)10:25~放送
アメリカ/ラスベガス

今回の配達先はアメリカ・ラスベガス。高級フレンチレストラン「ジョエル・ロブション」で働く川崎久愛さん(34)と、兵庫県に住む父・裕治さん(62)、母・淑子さん(64)、兄・英生さん(36)をつなぐ。シングルマザーとして5歳の息子を一人で育てる久愛さん。母は「昔から逞しい子で、泣き言は一切言わなかった」といい、母子家庭となった娘と孫がどんな生活を送っているのかと心配している。

 「ジョエル・ロブション」は世界11か国に出店し、ミシュランガイドで獲得した星の数は合計28個にのぼる名店中の名店だ。久愛さんは20人以上いるこの店の調理スタッフの一人として働いている。担当は魚料理部門で、その日出される魚料理の下ごしらえはすべて彼女に任されている。だが久愛さんが働くのは、レストランの営業が始まるまでの朝9時から午後5時まで。その後は、一人息子の光くん(5)を託児所に迎えにいき、自宅で母と子の大切な時間を過ごす。

 お好み焼き屋を営む母の影響で、子供のころから料理に興味をもっていた久愛さん。高校卒業後、アメリカに住んでいた祖母を頼って渡米し、ラスベガスの別のフレンチレストランで働き始めた。やがて「もっと料理を極めたい」という思いがどんどん膨らんだ。

 ラスベガスでトップクラスのフレンチレストランといえばロブションだった。ロブションには“スタージ”(実習)という、タダで働いて実力を見てもらう場がある。実は久愛さんは、料理学校に通った経験も、特別なツテもなかったが、憧れの店で働きたいとの思いから、思いもよらない行動に出た。なんのコネもなく、予約もしてないにもかかわらず、持ち前の度胸で「(スタージの)予約はしている。料理長の紹介だ」と乗り込み、店に潜り込むような形で働き始めたのだ。その後は誰よりも長く働き、誰よりも多く仕事をこなすことで、次第に周囲に認められるようになっていったという。

 そんな久愛さんの人生の岐路になったのは光くんの妊娠だった。パートナーと生きる道を選ばず、シングルマザーとして生きることを選択した彼女は、ロブションを退職。実家で光くんを育てる決意をし、日本に帰国した。しかし、シングルマザーの彼女を正社員として雇ってくれるところはなかった。失意の中、連絡を取り合っていたロブションの料理長に「戻ってもいいか?」と尋ねたところ、スタッフの全員一致で、もう一度雇ってもらえることになったという。店側は久愛さんの育児を考慮し、特別シフトを組んで彼女を迎え入れた。久愛さんの実力と人柄、真面目な仕事ぶりを知る厨房の仲間たちが、シングルマザーとしての生き方を応援してくれたのだ。

 そしてもう一つ、彼女がアメリカに戻った理由がある。実は光くんは自閉症で、そのサポートシステムがアメリカの方が進んでいることも決め手だった。4歳になってもまったく話をしなかった光くんだが、アメリカで専門家によるセラピーを受けるようになって、少しずつ人とコミュニケーションが取れるようになってきたという。「光が生まれて私はすごく幸せ。それまでは幸せというものが何なのかわからなかった」という久愛さん。いまは自分のすべてを愛する光くんに注ぐ。

 料理人として、母として、自ら選んだ人生を懸命に生きる久愛さんに、日本の母から届けられたのは、手作りのキムチと粕汁。子供のころから慣れ親しんだ母の味だ。異国の地で、ひとり子育てに奮闘する娘を応援する母の思いが込められていた。久愛さんは「光が生まれてから、お父さんとお母さんに産んでもらってよかったと感じるようになった。ありがとうと言いたい」と感謝の気持ちを伝えるのだった。