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#2559月8日(日)10:25~放送
シンガポール

今回の配達先はシンガポール北部の街ウッドランド。9年前にこの国に渡り、競走馬の調教ライダーとして奮闘する飯塚千裕さん(34)と、父・義雄さん(65)、母・陽子さん(60)、祖母・玲子さん(85)をつなぐ。現在体調を崩している祖父の市郎さんは、小さい頃からおじいちゃん子だった千裕さんの帰りを待ちわびているが、「しょうがない。千裕は言っても聞かないからな」と諦め顔だ。

 千裕さんが働いているのは、シンガポール唯一の競馬場「シンガポールターフクラブ」の敷地内にある厩舎で、30近い厩舎がある中でも、最大級といわれるローリー・ラクソン厩舎だ。オーナーのラクソン調教師は、過去10年で7回も年間最優秀調教師に輝いている、シンガポール競馬界を牽引する存在。千裕さんはラクソン氏にスカウトされ、この厩舎に迎えられた。ここに所属する調教ライダーのうち、女性は千裕さんただ1人で、最年長ライダーでもある。現在は調教だけではなく、ラクソン氏の右腕として厩舎の仕事全般を任されている。

 調教ライダーの役割は、調教師の指示通りに馬を走らせ、レースに勝つための効果的なトレーニングを行うこと。彼女がもっとも手腕を発揮するのは、男性でも手を焼く、気性の荒い暴れる馬の調教だという。体力も精神力も必要で、見た目以上に危険でハードな仕事。体力的にかなわない男性の中で実績を残すのは並大抵のことではないのだ。

 子供の頃から馬が大好きだった千裕さん。「馬に乗れる場所を必死に探したけど、乗馬にかかる費用は高く、お小遣いを貯めては体験乗馬に通った」という。一度は騎手を目指したものの、競馬学校の身長制限に引っかかり断念。それでも“馬に携われる仕事がしたい”と、高校卒業後オーストラリアへ。そこで調教ライダーという仕事に巡り合い、その後スカウトされてシンガポールへ渡った。

 そんな彼女の人生に大きな影響を与えたのは大好きな祖父。馬好きな千裕さんために、北海道へ2人旅をしたこともあるという。祖父は、遠く離れた千裕さんのことが心配でたまらないようで、千裕さんは「電話をするたびに“いつ帰ってくるんだ”といわれる。申し訳ない」という。

 シンガポールに渡って9年。「今は馬に乗ることしか考えていない。“乗り”がなくなったら自分はどうなるのだろう…そう考えただけで落ち込んでしまう」と、千裕さんにとって馬に乗ることがすべて。将来の目標を聞くと「自分が乗っている馬で海外遠征をし、できれば日本に行って、家族に見せたい。自分が“ここまで道を極めた”という証拠・結果になると思うから」との答えが帰ってきた。

 そんな千裕さんに日本の家族から届けられたのは、小さい頃から祖父が作ってくれた大好物のワイン寒天。体調の悪い祖父に代わって、母と祖母が「大好きなこの味が元気の源になるように」と願って作ってくれたものだ。「おじいちゃんが作る料理の中でこれが一番好きだった」と大喜びで味わう千裕さん。「いつか馬を連れて日本に行き、今度は私がおじいちゃんにワイン寒天を作って届けたい」と、祖父への思いを語るのだった。