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#1781月8日(日)10:25~放送
アメリカ/ノースカロライナ州シャーロット

 今回のお届け先はアメリカ・ノースカロライナ州シャーロット。この町の名物、全米最大のモーターレース「NASCAR(ナスカー)」に参戦するただ一人の日本人レーサー、尾形明紀さん(38)と、神奈川県に住む父・紀さん(69)、母・秀子さん(65)をつなぐ。東日本大震災を機に妻子をアメリカに呼び寄せた明紀さん。両親は「嫁と孫が慣れない場所でどう暮らしているのか…」と案じている。

 ナスカーは、楕円形のサーキットを周回して競うカーレースで、20世紀前半にアマチュアレースから始まり、今ではアメリカンフットボールに次ぐ人気を誇る。全米の注目を浴びるだけに、車体には数々のスポンサーのステッカーが貼られ、まさに走る広告塔。明紀さんはチームに所属せず、たった一人でナスカーに挑戦している。1回のレースにかかる費用はおよそ100万円で、そのすべてをステッカーのスポンサー料でまかなっており、このスポンサー探しも明紀さんの重要な仕事だ。これまで営業に回った企業は50社以上。「レースカーを運転するより大変。現状は車に乗っているより営業している時間のほうが長いです」と、明紀さんは語る。

 明紀さんがモータースポーツを好きになったのは、子供のころ祖父の外車に乗せてもらったのがきっかけ。中学生でモトクロスレースに参加。その後、新婚旅行でナスカーレースを観戦してその虜に。10年前から単身アメリカに渡ってナスカーレースに参戦するようになった。妻と2人の息子は、生活が安定してから呼び寄せるつもりだったが、東日本大震災の直後、「家族が離れ離れでいてはダメだと思った」と、明紀さんは家族をアメリカに呼び寄せた。だがレースではまだ結果を出せず、生活は厳しい状態だ。妻・恵美子さん(42)は、英語がまだよく理解できない15歳と12歳の2人の息子の学校生活を心配し、「生活が安定していないのが一番不安」というが、「でも夫がどうにかしてくれるだろうと思っている。だからついてきた」と前向きだ。

 今シーズンはマシントラブルがあったり、クラッシュに巻き込まれたり、まだ一度も完走できていない明紀さんは、自分の夢と家族への責任を背負い、今期最後のレースに挑む。予選レースではスタートから順調な滑り出しを見せた明紀さんだったが、前方で起きた事故を避けようと急ブレーキをかけたため、マシンがスピンしてクラッシュ。ボンネットは壊れ、エンジンはむき出しになるが、それでも明紀さんは諦めずに走り続ける。「このレースは絶対に完走したい!」。執念で満身創痍の車を走らせ、なんとか完走を果たした。だが結果は59台中56位。決勝には進出できず、明紀さんは「悔しい」と無念さを隠せないが、見守る妻や息子たちは「完走できて良かった」とホッと胸をなで下ろす。

 そんな厳しい状況の中、家族を巻き込みながらも夢を追い続ける明紀さんに両親から届けられたのは、内装業を営む父が手作りした実家の店のステッカー。そこには現金3万円が添えられ、手紙には「スポンサー料にはほど遠い金額ですが、寸志として気持ちを同封しました」と綴られていた。かつては衝突が絶えなかったという父と子。父のステッカーに、明紀さんは照れたように「ダサいですねぇ(笑)」といいながら、本当に嬉しそうな笑顔を見せるのだった。