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#163「スリランカ/コロンボ」 9月4(日)午前10:25〜


 今回の配達先はスリランカのコロンボ。この国でただ一人の日本人ジュエリー職人・大槻隆行さん(47)と、茨城県に住む父・宏さん(75)、母・恵美子さん(68)をつなぐ。隆行さんが日本を離れて19年。両親は「無口な子で、あまり喋らない。仕事は順調にやっているだろうか…」と、遠く離れた息子を心配する。

 古来より世界有数の宝石産出国として知られるスリランカだが、長く加工の技術が遅れ、昔ながらの手作業では正確なカットを施すことが難しかった。だが最近は機械が普及し、その技術も世界レベルになってきた。19年前、勤めていた日本のジュエリー会社がそんなスリランカに会社を設立することになり、隆行さんはその責任者としてこの国へ。だが会社は2年で撤退。隆行さんはこの地にとどまることを決意し、宝石の目利きであるビジネスパートナーのダッキーさんと2人で2000年、自分たちの会社を立ち上げた。その美しいデザインと確かな技術で、スリランカ国内だけでなく海外からも高い評価を得ている隆行さんは、「スリランカはいろんな種類の宝石が採れる。でも石だけが良くてもダメ。石をどう活かすのかが重要」という。美しい宝石を、より美しく輝かせて価値を上げるのがジュエリー職人の腕の見せどころなのだ。

 スリランカを代表する原産地であり、宝石業者や問屋が集まるラトナプラの町にやってきた隆行さんとダッキーさん。通りを歩いていると、路上で原石を商う男たちが隆行さんらにしきりに声をかけてくる。そんな中、ダッキーさんはある問屋で“これは”と思う宝石を見つけ、見事な交渉の末、それを安く手に入れることに成功する。また、この町にはいたるところに採掘場があり、泥まみれの男たちが昔ながらの手作業で石を掘り出している。「ここは“売ってやろう”“見つけてやろう”という躍動感にあふれている。生きているという感じがする」と隆行さん。そんな人々のエネルギーが彼を惹きつけてやまないようだ。

 今は現地で知り合い結婚した妻・知子さん(39)と娘(6)の3人暮らし。仕事も家庭も安定した隆行さんのエネルギーの源は、若いときに味わった挫折にあった。隆行さんはかつて、東京オリンピックのマラソン銅メダリスト・円谷幸吉選手のライバルとして鳴らした父の影響で、マラソンを始め、高校時代は陸上の名門校で活躍した。だが大学進学と同時に陸上を辞めてしまい、その喪失感を埋めてくれるものを求めていたときに出会ったのが、宝石加工のアルバイトだったのだ。その面白さにのめりこみ、大学卒業後はジュエリー会社に就職。以来、職人として腕を磨き、自らの道を切り開いてきた。現在は7人の弟子を抱える隆行さん。「自分には腕しかない。それを受け継いでほしい。彼らは裕福じゃないので、最終的には独立してやっていける技術を身につけて欲しい」と、弟子たちに夢を託す。そんな息子の姿に、父は「私としては陸上をやらせたかったが…でも長距離をやっていたときの頑張りが今、役に立っているのかなと思う」とうれしそうだ。

 そして父から隆行さんに届けられたのが2本のトロフィー。小学生のとき、父と一緒に出場したマラソン大会で、2人で勝ち取ったものだ。かつて同じ道を歩いていた息子へ、今も現役で走り続けている父からの応援の気持ちが込められていた。隆行さんはトロフィーを見つめながら「陸上じゃなくても、別のことでも“自分を抜け”ということなのかな。また気合を入れ直そうという気持ちになりますね」と、父の想いを感じて、しみじみと語る。