南京大虐殺にまつわる映画の話
大泉 純子
読売テレビ放送 報道局 報道部記者
外国メディア担当部署がナーバスに
12月13日は、「旧日本軍が中国の南京に攻め入った日」。
この日から6週間にわたって、「日本軍は略奪や婦女暴行、罪のない
人々を次々に殺害した」とされるのが、いわゆる『南京大虐殺』です。
犠牲者は中国政府の見解では、30万人以上とされています。
そもそも「これらの行為があったのか、なかったのか」という議論も
続いていますが、ここでは私が体験した取材の裏話をお伝えします。
2002年のこと……『南京大虐殺』を描いた「香港映画」が『中国
大陸』でも公開されることになったのですが、この内容をめぐってあ
る論争が起こりました。
映画のタイトルは、『五月&八月(May & August)』。
「南京大虐殺で両親を殺害され2人きりになってしまった五月ちゃん
と八月ちゃんという幼い姉妹の物語」です。
南京大虐殺そのものを描くというよりは、幼い姉妹の生き様を描いた
映画なのですが、映画の「ポスター」に書かれた宣伝文句に待ったが
かかりました。「南京大虐殺で女性のレイプシーンを描いた初の作品」
というセンセーショナルな文言です。
観客の興味をそそるこの手の宣伝は、きわど過ぎるという理由……
まぁ、これは理解できます。
『南京市』を管轄する『江蘇省』の「外国メディア担当部署」に取材
を申し込んだところ、許可がなかなか降りませんでした。
かなりナーバスになっていることがうかがえます。
とりあえず「口頭で取材OK」といわれたので、「初日のプレミア上映」
取材のため、一路『南京』へ向かいました。
『上海』から『南京』までは、車で4時間くらいです。
さっそく映画館へ赴くと、結局「問題の部分を黒く塗りつぶしたポス
ター」が貼られていました。
その後、映画会社の担当者と会うことになっていたのですが、約束の
時間になっても、誰も現れません。
ようやく電話が通じ、事務所まで押しかけたものの、「取材は受けられ
ない」との回答。
役所の許可は下りていることを伝えても、「聞いていない」の一点張り。
このときあらためて、許可は口頭ではなくファックスをもらっておく
べきだったと反省しました。
本来ならば、ここで主演した香港の女優も参加した初日の舞台挨拶を
取材するはずだったのに、会場にカメラを持ち込むことはできませんでした。
仕方ないのでチケットを買って会場へ。
しかし我々が外国のメディアであることがすでにバレてしまっていて、
チケットを持っているにもかかわらず、もぎりのおばちゃんに阻止さ
れ会場へも入れません。入り口でもめている間に舞台挨拶も終わって
しまい、「あーあ……」でした。
泣かせるいい映画だったのだが
その後に行われた一般上映を見ました。
映画は、幸せな4人家族が日本軍の侵略によって、まず父親が殺され
ます。その後、熱を出した妹の八月ちゃんのために決死の覚悟で薬を
買いに出た母親が日本兵に捕われてレイプされた上、殺されてしまい
ます。
2人きりになった五月ちゃんと八月ちゃんは、生きるために町をさま
よい、さまざまなアクシデントを乗り越えながら、同じように孤児に
なった少年とサバイバル生活を送る、というストーリー。
この2人の子役の演技が結構泣かせます。
「南京大虐殺の描写の評価は分かれる」と思いますが、映画には余り
詳しくない私としては、「泣かせるいい映画だ」と思いました。
なぜ、この映画をめぐって論争が起きたのでしょうか。
ラストシーンで、『日本軍の侵略行為は、1937年12月13日から翌年
の4月まで続いた』『犠牲者は30万人』という字幕が出ます。
ここが問題だったのです。ネット上で湧き上がった議論は、「大虐殺は
実際は6週間だったが、4月まで、と期間が実際より長い」「犠牲者の
数を30万人と言い切っている」……つまり、「史実が歪曲されている」
というものでした。
誤解を恐れずに言えば、「いちゃもんレベルの論争」です。
「こんな低次元の論争のために思うような取材ができなかったのか」
と思うと、腹立たしいのを通り越して、もうばからしい。
会場から出てきた観客に感想を聞いてみると、「芸術作品としてみれば、
少々事実と異なっていてもいいのでは」という意見もあれば、「史実を
歪曲するなどもってのほかだ!」という怒りの声もありました。
怒りの声については、本当にその人が自分の考えから思っていればい
いのですが、ネット上での議論を鵜呑みにして根拠なく発言している
としたら、「怖いなぁ」と思いました。
製作者サイドは、「この映画はドキュメンタリーではなく芸術作品であ
る」とのコメントを出しました。それでいいと思うわ……。
ちなみにこの映画、残念ながら日本ではまだ公開されておらず
DVDも発売されていないようです。






