メディア論コーヒーブレイク7
辛坊 治郎
読売テレビ・報道局局次長兼解説委員
さあいよいよ佳境です。って言っても、よほど熱心な読者でない限り、何が佳境なんだかさっぱりわからないでしょうが、とにかく佳境です。
足の秘密
フジテレビの役員面接で落っこちた話から続けましょう。もうすで
に大学四年の十一月です。今では就職協定は「なし崩し」状態で、大
学三年の終わりごろには就職戦線も収束に向かうようですが、当時は
大学四年の十月一日就職試験解禁という固い制度が機能していました。
大学三年で就職を考えなくちゃいけない今の学生さんは気の毒だなと
いう気もしますが、その一方で就職が決まればあとはのびのび暮らせ
るわけで、当時のように卒業の土壇場まで進路が決まらないのと比べ
て、さてどっちがいいんでしょうか。
ところで、フジテレビの最終試験については後日談があります。公
務員試験の最終配属待ちをしながら相変わらずマージャンの面子集め
だけのために大学に通っていたある日、クラスの友人との間でこんな
会話がありました。
「おれさあ、天才じゃないかなあ。フジのリポーター試験で最終面接
まで残っちゃったぜ」と、得意満面の私が鼻の穴を膨らましながら、
なぜか東京弁で吉田君に話しかけとところ、彼がこう言うのです。
「フジ、ってフジテレビか?」
「そう」
「で、結果は?」!
「当然落ちた」
「ありゃ、一言言ってくれりゃ良かったのに」
「なんで?」
「いやなに、俺のおじさんフジテレビの社長だから」
「えー!!!」
「面接のときに、靴脱いで足掻いてたおっさん居なかったか?」
「いたいた、真ん中にいた」
「あれが俺のおじさんよ。おふくろの兄貴。何でも戦争中に南方でも
らった水虫がどうやっても治らないらしいんだよねえ。」
「ぬわんだとー!?俺はあの足掻いてるのが気になって気になって、
それで気もそぞろで面接落ちたんだよ!」
「ふーん、聞いといてやるわ。」
そして後日彼がこういいました。
「いやあ、お前惜しかったらしいぞ。最終三人の一人に入っていたん
だけど、どうも最終面接で元気がなかった上に、やりたい番組を聴い
たら、リビング11だって言うんで、こりゃダメだってなったらしい。
一言事前に言っといてくれたら入れてやったのにっ、てさ。」
そんなこといまさら言われてもどうにもなりません。
正直な電話
まあ、縁がなかったんだろうと考えていたところに電話が鳴りまし
た。電話の主はなぜか、大阪の読売テレビのアナウンサー部次長でし
た。
「君、フジテレビ落ちたそうだけど、よかったらウチにこないか?」
「入れていただけるんですか?」
「いや、試験を受けに来ないか、ということだ。実は十月に正規の採
用試験をしたんだが、最終試験で残した男に逃げられてなあ。ははは。」
逃げられて、「ははは」じゃねえだろ、と思ったものの、とりあえず
話を聞いてみることにしました。聞けば、どうしても男性のアナウン
サーが採りたいと試験をしたところ、ほとんど応募者がなく、それで
もわずかな応募者から採用を決めたのに、その一人にも逃げられて、
このまま採用無しということになったら、自分の立場が危うくなる、
というのです。
いやに正直な人です。ちょっと好感を持ちました。
「で、どのくらいの人数が受験するんですか?」
「いやもうこの時期になったら、公募をかけても誰もこんから、各局
のコネを使って、採用試験に落ちた人と、アナウンサーの養成学校の
推薦だね」
「はあ。で、交通費は出ますか?」
「出す出す!どうせ俺の金じゃないしな。ガッツーんと飛行機代出す
から、飛んできて頂戴。」
「はあ、行かしていただきます。」
就職試験の秘密
これは今なら、完全に個人情報保護法違反です。でもある意味当時
はいい時代でした。もちろん、各局のアナウンス部の上同士が筒抜け
になっているのですから、A社を受験した人が、仮にB社を受験しな
がら「いや、御社しか受けてません」なんて言っても嘘がすぐばれる
という、受験者にとっての不都合があったのも事実です。でも今は絶
対こんなやり取りは出来ません。誰がどこの会社を受験しているかな
んていう情報は絶対に洩らさないし、また洩れることはありません。
どうぞ、受験生の皆さん、安心して嘘をついて下さい。なんて話はと
もかく、いよいよ、読売テレビの採用試験が始まりました。
集まったのは、各局のアナウンサー試験を落ちまくったり、アナウ
ンサーの養成所に通いながら、どこにも就職を決められずにいる、選
りすぐりのオチこぼればかり八人です。
さあ、これから、という話はまた次回に。






