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2006年08月17日

メディア論コーヒーブレーク3

辛坊 治郎辛坊 治郎
読売テレビ・報道局局次長兼解説委員


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看板読みで見えてきたこと
看板読みをはじめてしばらくすると、今まで気が付かなかったいろんなことに気が付くようになりました。

大体、普段人が歩くときにそんなにきょろきょろあたりを見回しているわけではありません。せいぜい十メートルくらい前方から足元までくらいが視野の範囲でしょう。昔は今ほど、道路事情が良くなかったですから、下を見ていないと穴ぼこに落っこちたり、大きな石にけつまづいたりしたものです。特に昭和三十年代までは、かなりの都会でも道端のどぶ(今では側溝と言うらしいですが)にふたがないのは当たり前で、私はよく小学校の帰りに落っこちて泣きべそをかいたものです。不思議なことに、そこにどぶがあるとわかっているのに、いつでも同じコーナーを曲がるときに、同じ場所でどぶにはまるのです。どぶにはまるとたいてい、向こう脛をどぶのヘリにぶつけることになるのですが、これが痛いの何のって、まあ、そんなことはどうでもいいですね。とにかく、昔は足元に気をつけないと危険でしたから、われわれ以上の世代の人間はどうしても下を向いて歩く癖が付いているようです。


時代が変われば視線も変わる
ちなみに、もう少し時代が下ると、足元の側溝にはたいていふたが付き、道の真ん中に大きな石が落ちていることも無くなりましたので、危険はいくぶん視線の高いところに集中します。それは交通事故です。ですから、今の若い人は、われわれの世代よりも、歩くときの視線が高いように思います。そのうち、自動車が空を飛ぶようになれば、危険は上から降ってくることになるでしょうから、未来人の視線はもっと上がって、皆、上を向いて歩くことになると思います。上を向いて歩こう!懐かしいですね、坂本九さん。

地域が変われば視線も変わる
ただ、世代が同じでも、地域によって、視線の高さや、周囲に対する目の焦点の合い方は違うような気がします。なんといっても、視野が広く、実に周囲をよく観察しているのが大阪のおばちゃんです。私が出演している「ズームイン!!SUPER」は東京のほうがずっと視聴率は高いのに、町でおばちゃんに声をかけられる比率は大阪のほうが高いのです。もちろん、声をかけるかどうかは、その人の性格にもよるのですが、道行く人、私に気が付いているかいないかは、なんとなく感覚でわかります。その点で大阪のおばちゃんが、よく気がついてくれているのは肌で感じるのです。東京では、おばちゃんより、よく女子高生に声をかけられます。もしかすると、東京の女子高生の、「大阪のおばちゃん化」が進んでいるのかもしれません。


なぜ大阪のおばちゃんの視野は広いのか?
大阪のおばちゃんの視野が広いのは、単に好奇心が大せいというだけではなく、地域の事情も影響しています。それは圧倒的な引ったくりの多さです。日ごろから周囲に目を配り、防御体制を敷かないと、とても大阪の町は歩けません。ところで、ウサギのように常に猛獣の襲撃におびえていなくてはならない動物は左右の目が離れていて、360度、周囲を観察することが出来るようになっています。これに対して、襲う側の猛獣のほうは、獲物までの距離を正確につかむため、前方をしっかり立体視できるように顔の前面に目が付いています。となると、大阪にずっと住んでいると、周囲がよく見えるように、目の間が少しずつ広がって行くかもしれません。そうならないように、太田知事、大阪の引ったくり件数、何とか減らしてくださいねって、どんどん話がそれてしまって申し訳ありません。ちょっと休み明けで疲れているので、勘弁してください。

看板読みを始めてみると
話を元に戻します。看板を読み始めると、視線が自然に上を向くようになり、同じ通学路なのに、今までと違った景色に気が付くようになりました。見慣れた退屈な道に、なんだか新しい色が加わったようなそんな感覚です。うちの近所に仏壇屋があったのですが、その看板を読んでいてびっくり!「仏壇仏具は○○商店で。ただいま、クリスマスセール実施中!」ちょっと待ってよ、仏壇屋でクリスマスセールはないだろう、というところから、日本人と宗教観について思いを馳せたり、「どうも看板にはラ行と、カ行が含まれる単語が多いな。そう言えば、トヨタの車はカローラ、コロナ、カリーナ、みんなカ行とラ行だな」なんてことに気が付いたり、それはそれは楽しい日常が始まりました。皆さんも、毎日の生活に疲れたら、ほんの少し視線を変えてみてください。何も、アナウンサーになろうって訳じゃないでしょうから、看板を音読しなくても大丈夫です。首の角度をちょっとだけ変えるだけで、新しい発見があるはずです。ただ、あまり視線を上げすぎると、車が目に入らなくなりますから、その点は十分お気をつけくださいね。
なんて書いているうちに、話を前に進めるスペースがなくなってきました。看板読みをはじめてからの話はまた次回続けます。

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