メディア論コーヒーブレーク4
辛坊 治郎
読売テレビ・報道局局次長兼解説委員
さて「看板読み」と並んで、茂木さんの本には、次なるアドバイスが記されていました。
その話の前にちょっと、コミュニケーションについて考えて見ましょう。
基本は五感
人間は五感で情報を受け取ります。五感とはすなわち、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚です。世の中
で優れている人の多くは、この五感以外の感覚、すなわち第六感に秀でた人が多いようですが、ま
あ、この話はちょっと置いておきましょう。
人は情報を受け取るときに、この五感をフルに働かせます。そして、この五感を通じて「世の中」とい
うものを認識するのです。それでは、逆に情報を伝えるときに人は何を使うでしょうか?目は口ほど
に物を言い、というくらいですから、目で情報を伝えるケースは、少なくはありません。しかし、目で論
理的な情報を伝えることは不可能ですし、逆に考えれば、わざわざそんな格言があるくらい、目でも
のを伝えるのは例外的ということでしょう。耳は情報を受け取るのが専業で、情報を発信することに
は不向きです。鼻も同じく、なかなか、情報を発信する地位にはつけません。私の友人に、鼻で笛を
吹くのを特技にしている者がおりますが、まあ、あまり人前でやらないほうが身のためです。触覚は
立場が微妙です。肌は、確かに情報を受け取る感覚器ではありますが、時として実に雄弁にモノを
語るコミュニケーションツールでもあります。また味覚をつかさどる舌にも、同じような側面があって、
こちらも、絶妙なテクニックを駆使することで、十分意思伝達の手段に使えます。
ただ、そのいずれも、それをコミュニケーションツールとして使うためには、それを使う個々人の間に
十分な関係が出来ていなくてはならないという大きな弱点があります。なんと言っても、初対面の相
手にいきなり舌を絡ませるわけにはいきませんから。っていったい何の話をしているのでしょう。そう
です。情報の伝達です。
情報発信の要
こうして考えてみると、人が文字やカメラなどの道具を使わず、リアルタイムで情報を伝える方法は、
実はとても限られているということがわかります。その最大の手段は、のど、口、舌、肺のコンビネー
ションから生まれる言葉です。ただ、口が勝手に動いて言葉を紡ぎだすことはありません。口を動か
すためには、この器官に命令を出さなくてはなりません。この命令を出すのは脳です。もし、脳に蓄
積された情報を発するだけなら、これで発信装置としては完結します。しかし、日常の生活で求めら
れている能力は、自分の考えを口から出すだけではなく、五感で感じたものを、口から音にして発信
するという能力です。テレビ局のアナウンサー、リポーター、記者にとっては、必須の能力といってい
いでしょう。生まれつきその能力に優れた人は存在します。そういう人を天才と呼びます。しかし、私
のような凡才は、この能力を鍛えなくてはなりません。そして、確実に言えるのは、この能力は鍛えら
れるということです。
さて、話は、この稿の冒頭に戻ります。茂木さんの本にはこんなアドバイスが載っていました。
「目に見えるもの全てを実況せよ。」
この日から、私の口から出る言葉の量は飛躍的に増え始めました。
実況の効用
目の前で起きていることを、言葉に置き換えて、それを見ていない人に的確に伝える。離れ小島で
生涯ひとりで暮らすのでない限り、この能力は、社会生活全てに役立ちます。これを鍛える方法はた
だ一つ、「場数を踏む」、これしかありません。特に、変化するものを描写すると、脳の反応速度は目
に見えて向上して行きます。目の前で動くものがないときには、自分のほうが動けば、見えるものは
変化します。そうです。電車に乗るのです。
「おおっと、見えてきましたのは、わが母校、埼玉県立豊岡中学校の赤い屋根。校庭では色とりど
りの帽子をかぶった子供たちが、今、まさに運動会の予行練習の真っ最中であります~!!」
一週間で確実に効果が出ます。嘘だと思ったら、明日から通勤電車の中でやってみてください。コ
ツは、たとえどんなに小さな音でもいいから、実際に口を動かすことです。頭の中での思考の速度と、
それを表現する器官の反応速度は違います。それは自分で体験しなくてはわからないことなのです。
筋力トレーニングと同じです。また、口や舌を動かすためには、実際に筋肉を使いますので、頭の中
だけで言葉を紡いでいるのでは効果がないのです。だまされたと思って一週間チャレンジしてみてく
ださい。必ず効果が出るはずです。ただ、あまり大きな声は出さないほうがいいでしょう。それは、は
た迷惑というものです。しかし、周りに少し聞こえるくらい声を出すと、私の経験では、どんなに満員
電車でも、すっと回りに空間が出来、運がよければ、目の前で座っている人が不気味さのあまり席を
譲ってくれるという効果があります。ただ、これは、あまりお勧めしません。
さあ、そんな一ヶ月間があっという間に過ぎて、いよいよフジテレビの二次選考試験が始まりました。
以下次回です。










