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小澤昭博(ytvアナウンサー)『小澤昭博のゴルフナビ』

「PGAツアーデビュー6 (完)」

PGAツアーデビュー戦にして27位タイで迎える最終日のペアリングは、2010年PGAツアーの賞金王で、先週のRBCヘリテージでも優勝し現在世界ランキング5位(4月20日付)の、アメリカのマット・クーチャ−35歳と、同じくRBCで3位タイに入ったアメリカのベン・マーティン26歳。


世界屈指のトップランカー、クーチャーとのラウンドに、ヒョンソンは前夜から興奮していました。身長193センチの大きな体で貫禄十分にティーインググラウンドに登場したクーチャー。ヒョンソンとスタート前の挨拶を交わしがっちり握手を。勿論、私とも握手を交わしてくれました。ヒョンソンと私のテンションも更に上がります。


最終日はヒョンソンが一つの目標としていた“アウトスタート”、1番ホールからのスタートです。「何とかベスト10フィニッシュしてPGAツアーの出場権を掴みたい」というヒョンソンの闘志が、キャディの私にもひしひしと伝わってきます。


この日のピンポジションは極端に端に振ってありました。


1番ホール・パー4のピンポジションも左のエッジから6ヤード、手前のエッジから4ヤードという難しい位置でしたが、難なくパーでスタート。その後もタイトなピンポジションの中、ヒョンソンンは安定したショットで、4番ホールまでは危な気ないパーが続きます。


ところが、迎えた5番ホール・パー4でヒョンソンの闘志が動きました。


このホールのピンポジションもグリーン右端から4ヤード、奥に5ヤード、手前に5ヤードというとんでもない狭いスペースで、グリーン手前にはアゴが切り立つバンカーが待ち構えています。


ティーショットはフェアウェイセンターに飛び、ピンまでの残りは168ヤード。ヒョンソンは8番アイアンを手にしました。


「先輩、8番アイアンでちょうど良い距離ですから、ピンを狙います!!」


フルスイングでもなく、コントロールでもない、ヒョンソンが8番アイアンでぴったり気持ち良く振り切れる距離。難しいピンの位置ですが、好調なショットを武器に真っすぐピン狙い、攻めの姿勢です。


いつものリズムでラインを決め、ヒョンソンは気持ち良く8番アイアンを振り切りました。フィニッシュも綺麗に決まり、その姿勢のままボールの行方を追っています。本人も納得の会心の感触です。少し打ち上げていたのでグリーン上でのボールのバウンドは確認出来ませんでしたが、ピンの根本に落ちたように見えました。


ところが近づいてみるとグリーン上にボールはありません。何と、グリーン手前の切り立ったバンカーのアゴにすっぽりとボールが潜っているではないですか・・・。あと少しでもキャリーが出ていれば確実にバーディーチャンスだったのですが、最悪の状況です。


ヒョンソンも「ショットは完璧だったのに・・・。」と落胆の表情。ただリスクは覚悟してのチャレンジだったので、気持ちはすぐに切り替えました。何とか1打でバンカーから出し、2パットでこのホールはボギー。


実はマット・クーチャーも、このホールのティーショットはヒョンソンと同じような位置に飛んでいましたが、クーチャーはピンをデッドに狙わずに、グリーンセンター狙いで簡単にパーを拾いました。


この一つのボギーからヒョンソンはアンラッキーが続き、最終ラウンドのスコアが4オーバーまで崩れました。


一方のクーチャーは何度かボギーのピンチもありましたが、スーパーアプローチでパーセーブ。リスクの少ないホールではバーディーを重ね、最終ホールはイーグル、最終ラウンドを4アンダーでフィニッシュしました。


クーチャーは優勝争いから脱落した状況の中でも確実に上位に入る様、リスクの少ないプレーに徹していました。同じ状況でのスタートでありながら、ヒョンソンは自らスコアを動かしに行くリスクの高いプレーを選択しました。


最終結果は、クーチャーがトータル10アンダーの8位タイ。ヒョンソンはトータル2アンダー65位タイ。


結果が全てですが、ヒョンソンの選択も間違いではありません。まだPGAツアーにスポット参戦のヒョンソンは、様々な挑戦をして、失敗することで経験していくしかないですから。いずれPGAツアーで優勝争いに絡んだ時には、仕掛けどころで勝負に打って出ることも必要でしょう。


思う様な結果は残せませんでしたが、大会を終えたヒョンソンの表情には何の後悔もありません。


ヒョンソンは、ホールアウト後に自分に掛けられたレイを外して(通常ソニーオープンでは最終日のホールアウト後に選手だけにレイが掛けられます。)、それを私に「先輩、本当に有難うございました。」と掛けてくれました。





まるでオリンピックのメダリスト達が貰ったメダルを自分の家族やそれまで支えてくれた方達に掛ける様に。浅田真央選手が先日の世界選手権で自分に掛けられた金メダルを外して佐藤信夫コーチに掛けた様に。私にはそのヒョンソンの気持ちが金メダル以上に嬉しかったです。


引き上げたクラブハウスで、現在タイガーウッズに次いで世界ランキング2位のアダム・スコットに遭遇!!すかさず記念撮影をお願いすると、快く応じてくれました。





これが世界のPGAツアーです!!!


最終日はヒョンソンファミリーとサムギョプサルで打ち上げです。ヒョンソンと乾杯し、お互いの1週間の労をねぎらいました。


初めてのPGAツアー挑戦は、私自身これまで30年間のゴルフ人生では味わったことのない興奮と、世界のレベルの高さを肌で感じることが出来ました。


この得難い経験、素晴らしい財産をまた一つ与えてくれたヒョンソンに感謝し、これからのゴルフ実況においても必ず活かしていきたいと思います。


今シーズンの目標は「日本ツアーで賞金王」というヒョンソン。この攻めの姿勢がある限り、ヒョンソンは更に成長していくでしょう。今後もまた一人のゴルフファンに戻ってヒョンソンの活躍を見届けます。 
(完)

日時: 2014年04月26日(土) |

アナウンサー