Top

尾山憲一(ytvアナウンサー)『スポ根劇場尾山の大将』

最後の聖戦(2) ( スポーツ ) > ( ボクシング ) 

(1)からの続き・・・


今回の世界戦をボクシング人生の集大成と位置付けていた長谷川
事前の取材でもその覚悟とこれまでとの違いを発信していた


10回防衛したバンタム級はファンや周りで応援してくれた方のため
フェザー級で頂点を極めた時は今は亡き母のため
そして今回のスーパーバンタム級は自分自身のため


母のためにフェザー級のタイトルを奪取し、
それを失った時にすでに燃え尽きていたとも聞くが、
今回は【自分が本当に強いのか?】【本当にボクシングが好きなのか?】
【本当に満足できるのか?】【相手は王者でなく過去の自分】


3年間、待ちに待った世界戦は究極の自己満足な戦(いくさ)と考えていた



疲れが取れにくい、体重が落ちにくい、ケガをする…
世界戦ができなかった3年間、長谷川は寄る年波とも戦っていた


09年からタッグを組んでいる管理栄養士と綿密な計画を立て、
食事内容、単なるミネラル補給だけでなくナトリウム入りの水分補給、
ケガ防止のためコラーゲンの摂取、いつもより早めの減量など、
やれることは全部やった


「ケガなくリングに上がれることがすべて」
山下会長のこのひと言が物語っていた


しかし、すべて順調に進んでいたリズムが唯一狂わされたことがあった


今回はいつもの慣れ親しんだWBCではなく、
新しく日本でも認められたIBFという団体での世界戦
IBFのルールとして、前日計量だけでなく翌朝の当日計量も義務付けられていた


定められた時間まで、
スーパーバンタム級リミットの55.3kgから
+10ポンド(4.5kg)以上増やしてはいけない


これまでも過酷な減量を強いられてきた長谷川
今回は順調に体重は落ちたが、その後の安堵感がまったく違った
「慣れないっすね・・・勘弁して欲しいわ」この第一声は本音だろう
本来ならゆっくりと体重を戻し、心と身体を休めつつ翌日の決戦への準備をするはずが
食事後、半身浴を2回もするなど若干ペースを乱された



***********************************


山下) 「どうや?マルチネスのパンチどうや?」
長谷川)『硬いっすね』


これが大観衆に見守られて始まった決戦の第1R終了後の最初のやり取りだ


2Rダウンを奪われた後のインターバル
山下) 「これで緊張とれたんちゃうか?」
長谷川)『うんうん』とうなづく


6R終了後、運命の7Rへ向かう直前
山下)「俺達これまでもこんな場面何回も経験してきたやんか!諦めるなよ」
長谷川『あきらめません…』



残念ながらレフェリーに止められたが、
直前の言葉通り、長谷川は最後の最後まであきらめなかった


事前取材のインタビューで長谷川はこんな発言をしていた
『ボクシングを見に来る人が何を見たいか?というと
人間味あふれるボクシングだと思うんです。
(12R)36分に自分の人生を戦っているような…
36分に自分の人間性が出ていると思っている』


鳴り止まなかった大きな拍手
永遠に続きそうだった長谷川コール
涙を流したファン


結果は22分20秒…(7R 1:20 TKO負け)
36分とはいかなかったが、長谷川穂積の生き様は万人に伝わったのだ


日本のエースとしてバンタム級で君臨していた頃、長谷川はいつも強い相手と戦っていた


ただ、強い相手だからこそ最初の頃は判定も多かった
それは長谷川が距離を取るタイプ(アウトボクサー)だったのもある


このリアルなボクシングは玄人受けしたが、万人受けにはやや遠かった
そこで長谷川はKO(倒すこと)を追及した
バンタム級6度目の防衛からは5試合連続KO防衛を果たした
フェザー級へ転向後はパワーをつけた


その後、バンタム10回防衛・2階級制覇と栄華を極めたが、
逆にこのことで、長谷川は原点を忘れることになった
本来はスピードを生かし、打たせないで打つスタイル
それは頭ではわかっていても身体と本能が許さなかった


ただ、本能のままに打ち合い敗れた姿を誰も非難しなかった
もちろん、ただ勝つためだけならばアウトボクシングを徹底していたはずだ



【ボクシングが好きだって再確認できた』
前日計量をリミットでパスした直後の囲み取材で話したこの言葉
この時点ですべてを超越したように思った


まだ何も発表されていないがおそらく引退する方向だろう


勝って、静かに、グローブを置いて欲しかった…


敬称略

投稿者: 尾山憲一 日時: 2014年04月25日(金) |

アナウンサー