◆ことばの話3690「『とき』『こと』のアクセント」

先日の「ミヤネ屋」で、ナレーション担当のHアナウンサー(静岡出身)の読みで、2か所ほど、アクセントが「おや?」と気になりました。
(1)「困ったときは連絡来るだろうな」の「ときは」
×「コ/マッ\タ・ト\キハ」→○「コ/マッ\タ・ト/キ\ハ」
(2)「覚せい剤のことも」の「ことも」
×「カ/クセ\イザイノ・コ\トモ」→○「カ/クセ\イザイノ・コ/ト\モ」
「事(こと)」「時(とき)」のアクセントは、後輩のYアナウンサー(千葉出身)も同じような「頭高アクセント」を使うので、注意したことがありますが、直りません・・・。これって「方言アクセント」じゃないんでしょうか?すごく「関西弁ぽく」聞こえるんですが・・・。
先日の新聞用語懇談会放送分科会で各局の状況を聞いてみたところ、全体的に、
『単独では「ト/キ\」「コ/ト\」だが、「〜するとき」「〜すること」となると「〜ス/ルト\キ」「〜ス/ルコ\ト」となることがある。』
といった意見が多く、
「そういったアクセントは、基本、認めていない」(静岡放送)
「認めていないが、そういうふうに言う人は多い」(毎日放送)
という意見もありました。
ところが!
十代目・金原亭馬生40歳の時(昭和43年9月27日)に演じた録音の『首ったけ』のCDを聴いていたら、その中で、「通ったときに」のアクセントが、
「ト\オーッタ・ト\キニ」
「賑やかなときは」のアクセントが、
「ニ/ギ\ヤカナ・ト\キハ」
となっているのに気付きました。
ということは、(「江戸弁」を「方言」と考えればまた別の噺・・・いや話ですが)東京でも、上に書いたのと同じようなアクセントは以前から使われていた可能性があるということですね。お、この「ということ」はどう読めばいいのか、分からなくなってきました・・・・
2009/9/17


◆ことばの話3689「同等期」

9月9日、日本テレビの「スッキリ!!」を見ていたら、字幕スーパーの訂正を、ちゃんと文字を出してやっていました。どういうものかと言うと、
×「同等期」→○「道東沖」
というものでした。つまり、
「北海道の東の沖」
という意味で、
「どうとう・おき」(DOUTOU OKI)
とローマ字入力で打つつもりが、「O」が一つ抜けたために、
「どうとう・き(DOUTOU KI)」
となってしまって、なんだか意味の分からない文字が出たのでしょう。手書きでは考えられない「変換ミス」です。打ち出した後によく確認をすることが必要だなあと、改めて思いました。
でも、最近「ズームイン!!」や「スッキリ!!」で、よくこういった「丁寧な訂正」が出ているのを見かける気がします。もちろん間違いを出さないのが一番ですが、出てしまったものはちゃんとフォローをするという姿勢は、好感が持てますね。
2009/9/10


◆ことばの話3688「オークは樫か?」

かつてマイケル・ジャクソンが住んでいた「ネバーランド」に生えている大きな木の種類は、「オーク」だそうですが、「情報ライブミヤネ屋」で、これを説明する字幕に、
「オーク(樫)」
というスーパーが発注されていたので、放送前に、
「オーク」
に変えました。というのも、実は、
「『オ−ク』を『樫(カシ)の木』と訳したのは誤訳である」
という指摘があるのです。『歴史をかえた誤訳』(鳥飼玖美子著、新潮OH文庫)によると・・・

『つまり英語の「オーク」は日本の「楢(なら)」なのだった。最初に誰かが「樫」と誤訳し、それが長らく定着し、辞書でも踏襲されてきたという。岐阜県清見村で、二十年以上も前から木と取り組んでいる集団「オーク・ヴィレッジ」代表者、稲本正氏の指摘である。(1997年3月2日付朝日新聞「天声人語」)』

とあります。手元の英和辞典(『デイリーコンサイス英和辞典』)oakを引くと、
「オーク(カシワ、カシ、ナラの類)」
とあり、どの種類か特定はしていない様子。『ジーニアス英和辞典』の電子辞書を引くと、
「オーク(の木)。<ナラ・カシワ。カシ・クヌギなどの総称だが、典型的には落葉樹のナラ類をいう>」
とあり、やはり典型的には「ナラ」ということになりそうです。
今回は無難に「オーク」のままで切り抜けました。これ以上は、オーク(多く)は語らないということで・・・。
2009/9/1


◆ことばの話3687「女房役」

先日、番組で、
「麻生総理の“女房役”河村官房長官」
という表現が出てきました。この「女房役」というのを、
「補佐役」
に変えたところ、数人のスタッフから、
「“女房役”でいいのではないか」
という意見が出ました。
各社、この「女房役」という表現について、どう扱っているか、用語懇談会所属の各社に聞いたところ、以下のような意見が寄せられました。

●「女房役」は本人のコメントでは引用するが、通常は使わない。小池百合子さんや小淵優子さんが総理になったら、官房長官は「夫役」とか「亭主役」になるのか?(ならないでしょう)
●「女房役」は、実際には紙面に出てはいるが、「使うなら、よく考えてから使うように」指導している。
●個人的意見だが、「女房役」という言葉、私は良いと思う。「重要、要の役割」を指す、言い得て妙な言葉だと思う。男女差別も感じない。
個人的意見だが・・・官房長官を「女房役」と表現した例は弊社では、あまり覚えがない。たとえば、野球のキャッチャーなら「女房役」という表現は、実況の中でまれに聞くことがある。その意味は「ピッチャーの良いところを引き出す」役目というニュアンスが込められている、と野球担当者は言う。「重要な役どころ」という意味から、ジェンダーの面で特に抵抗感は無いようだ。かたや、官房長官の役どころは、首相の補佐はしていても、キャッチャーのような意味合いはあまり感じられない。またこちらの場合は、実際に女性の官房長官がいたので(海部内閣の森山真弓)、「女房役」と表現することに対し、「女性は男(首相)の付属物」と思わせる余地があるのかもしれない。現状、社内で「女房役」という言葉に対する取り決めはしていないと思われるが、やはり官房長官の比喩としては、あまり適切とは思えない。

そんな中、7月9日夜7時39分頃に見ていた、TBSのニュース番組のスポーツニュース(プロ野球のニュース)で、
「女房役の中村が」
と、男性アナウンサーが原稿を読んでいました。やはり野球では使われているみたいですね。
結論は出ていませんが、今後もウオッチして行こうと思います。
2009/9/1
(追記)
9月11日に名古屋で開かれた新聞用語懇談会放送分科会で、「女房役」に関して各社に聞いてみました。
(Q)以前、メールでお聞きした社の方もいらっしゃると思いますが、「官房長官」をさして「女房役」という表現は、特に問題なく使われているのでしょうか?野球のバッテリーのキャッチャー(捕手)に使う「女房役」はどうでしょう?
→(NHK)使わない。
(日本テレビ)トークで出てくるが、ニュース原稿では使わない傾向。
(TBS)出てこない。
(フジテレビ)官房長官を「女房役」、使ったかも。野球ではわりと使っている。
(テレビ朝日)意識していない。(使っている)
(テレビ東京)意識なく使っている。
(WOWOW)許容。ニュースでは望ましくないのでは。
(共同通信)野球は頻繁に出てくる、官房長官でも使っている。
(静岡放送)「官房長官」の意味で「女房役」は使わない。野球では使い古された言葉なので使っていない。
(毎日放送)できるだけ使わない。
(朝日放送)「官房長官」には使っていない。官房長官は、「首相の補佐」だけが仕事ではないから。野球は使うことはあるが、投手の良さを引き出すという文脈で。ただ古臭い表現なので、アナウンサーが使いたがらない。
(関西テレビ)「官房長官」には使わない。野球では古くて陳腐化しているので使わない。
(テレビ大阪)「官房長官」には使わない。野球では古くて陳腐化しているので使わないのが普通。

会議の翌日、9月12日の日経新聞「寸言」というコラムで、河村建夫官房長官「麻生首相の失言の弁明に追われたこと」を振り返って、
「真意が伝わらないもどかしさは感じた。首相としての言葉の重みは首相が考えている以上にあった」
と言ったコメントの見出しが、
「女房役の苦労」
でした。日経も「官房長官=女房役」ととらえているようです。これはもしかすると治記者の感覚なのでしょうか?(でも見出しをつけたのは、政治記者じゃないからなあ)
と思っていたら、もう少し古いスクラップが出てきました。2008年11月28日の毎日新聞。そこに、当時、麻生内閣の官房長官だった河村建夫氏が、
「本意を理解していただく努力は私がしないといけない」
として、
「女房役の官房長官として『釈明』に努めていく姿勢を示した」
という記事が出てきました。見出しは、
『女房役が「釈明」へ努力』
です。やはり、
「官房長官=女房役」
という意識、新聞にはあるようです。というか、2例とも「女房役」とされているのは河村長官ですから、
「河村官房長官は『女房役』」
ということなのでしょうかね?
2009/9/18
(追記2)
2011年1月14日、「菅再改造内閣」が始動。仙谷官房長官が閣外に去りました。
その決断をした菅総理のことを指して、1月13日の読売新聞朝刊は、
「女房役交代 未練の末」
というように、「仙谷官房長官」をさして「女房役」を使った大きな見出しを出していました。なお、新しい「女房役」枝野・前幹事長が、その座を占めました。
2011/1/17
(追記3)
2013年8月25日の日本テレビ「GOING」の「巨人対DNA」戦のニュースで、
「菅野の女房役・阿部が」
とアナウンサーが読んでいました。
スポーツニュースでは出て来ますね、「女房役」(「キャッチャ−」の意味で)。
2013/8/25


◆ことばの話3686「滑り込んで」

8月12日、NHKの午後9時37分頃のスポーツニュースを見ていたら、フィギュアスケートの浅田真央選手の特集をしていました。その中で浅田選手がインタビューに答えてこう言っていたのが耳に止まりました。
「毎日、コンスタントに滑り込んで、頑張りたいと思います」
この、
「滑り込んで」
という表現、野球のピッチャーだったら、
「投げ込んで」
になるでしょうし、バッターだったら、
「打ち込んで」
でしょうね。「打ち込み」に「打ち込む」わけです。
そういう意味ではなんらおかしくないんですが、わたしたちが普段使う「滑り込んで」は
「試験開始時間ギリギリ滑り込んで、セーフだった」
「最終電車に滑り込んで、なんとかタクシーに乗らずに済んだ」
のような使われ方をして、「滑る」という行為に打ち込む意味での「滑り込む」は、一般の人はあまり使わないな、と。その意味では、浅田選手は間違いなく、
「フィギュアスケート選手」
であるのだなと改めて確認した次第です。
ちなみにGoogle検索(8月18日)では、
「滑り込む、フィギュアスケート、練習」=  521
「滑り込む、スピードスケート、練習」 =  135
「滑り込む、スケート、練習」     =11200
でした。
2009/8/18
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スープのさめない距離