平成ことば事情3680「なぜ『京セラドーム大阪』ではなく『甲子園』か?」

読売テレビOBで、今はサイト関連のお仕事をされている先輩のYさんから、
「なぜ『京セラドーム大阪』ではなく『甲子園』か?」
という質問が来たのは3月のことでした。その際には、下記のようなお答ええをして、その分はようやくされて、読売新聞大阪本社のサイトに載りました。記録として残しておきます。

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読売テレビの系列のキー局である日本テレビの『日テレ放送用語ガイド』には、「目安になる数字」というページがあります。そこには「高さ」「長さ」「広さ」「大きさ(容積)」の目安となるものがいくつか記されています。その中の「広さ」のところに、「東京ドーム(総面積)」と並んで「甲子園球場(総面積)」が記されています。野球場では、この2つしか記されていません。そのほかに建造物で載っているのは、成田空港、関西国際空港、皇居、国会議事堂です。
なぜ「京セラドーム大阪」ではなく「甲子園」かというと、おそらく「広さ」が基準ではなくて「歴史がある」「有名」といったことなどから「たとえのわかりやすさ」で、「甲子園」に一日の長があるからではないでしょうか?
たとえば「大きさ(容積)」の例で言うと、「ビールの消費量」を言うときなどは「『大阪・マルビル』をジョッキに見立てて〇杯分」とか、これが日本酒だと「『大阪城』をマスに見立てて●杯分」などと言います。これも「大阪のマルビル」や「大阪城」が、名前と大きさがよく知られているからでしょう。
放送では、それぞれの地方のテレビ局(や新聞)によって、たとえば札幌では「札幌ドーム」、名古屋では「ナゴヤドーム」、広島では「広島球場」のように、それぞれの地方で一番分かりやすく、たとえになりやすいものを“ものさし”にしているのではないでしょうか?
先日リニューアル工事を終えた甲子園球場の、ホームから中堅までの距離と両翼までの距離が、これまでの公称より短かったというニュースを見ましたが、そうすると面積も、もしかしたら少し狭かったのかもしれませんね。なお、「甲子園球場〇個」という場合「総面積」で言う場合と、フィールドの面積で言う場合があるようです。
2009/3/23


◆ことばの話3679「トレンカ」

最近女性がよくはいている「レギンス」。(平成ことば事情3089「レギンス」で書きました)男性はあまりよくわからないのですが、先日「ミヤネ屋」の出演者の一人、飯星景子さんが、帰り際に女性スタッフとそのレギンスの「丈」について話されているのを耳に留めました。それによると、「レギンス」ってぇーのは、
「五分・六分・七分・八分・九分・十分(全部?)」
長さに段階があるそうなのです。それは買う時に商品にちゃんと書いてあるのだそうです。ふーん、全然わからん。
で、森若アナウンサーによると、彼女は足が“異常に長い”ので、
「七分丈のレギンスを買っても、はくと五分になってしまうんですよ」
のだそうです・・・自慢ですか?と聞くと
「違います!」
と言っていましたが・・・どうせ私は「五分丈」を買っても、はいたら「七分丈」になりますよ!・・・買わないし、はかないけど・・・シクシク。
また、最近流行っているのが、下のところが、野球のストッキングのようにつながったタイツであるタイプのレギンスで、これは、
「トレンカ」
という名前なんだそうです。ふーん、全然知らん。聞いたこともない。
そして、女性はみんな知っているが男性はおそらく興味がなく知らない言葉として、
「デニール」
というのがあるそうです。
「デニール」何かの「単位」で聞いたおぼえはあるけど。その「レギンスの生地の厚さ」を表す単位のようです。聞いてみると、デニールの数値が「30から40」だと「ちょっと透ける」のだそうで、「80」だと「透けない」そうです。
フムフムそうか、とメモを取っている私の姿を、新しく「ミヤネ屋」に入った外部制作会社の若い女性スタッフが、ちょっと不審気に見ている様子に気付いた森若アナウンサーが、私の代わりに弁明してくれました。
「決して道浦さんは、変な趣味でこんな話をメモしてるんじゃなくて・・・」
って、説明されれば説明されるほど、なんだかヘンなおじさんになっていく気がしたのでした。
2009/7/24
(追記)

◆ことばの話3089「レギンス」をじっくり読んでみると、そこに登場するMSアナ(今回も登場した「森若佐紀子アナウンサー」と思われる。「マイクロ・ソフト」ではないと思う)が、こう言っていました。
「レギンスはミニスカートとブーツの服装に合わせたり、長さもいろいろで、『十五分丈』って言って、下の方がクシュクシュってなっている長いものもあります。」
と言っているではありませんか!「丈」がいろいろあると!
人の話を聞いているようで全然聴いていないというか、全然覚えていないというか・・・ちょっとショックです。
2009/7/31
(追記2)

大阪の街で、女性がはいている「レギンス」の丈の分布はどういうふうになっているか、「観察」してみました。結果は以下のとおりでした!
*「何分丈のレギンスをはいているか調査(観察)」(道浦調べ・合計151人)
(1位)七分丈 =30人(19,8%)
(2位)八分丈 =29人(19,2%)
(3位)トレンカ =27人(17,9%)
(4位)六分丈 =22人(14,6%)
(5位)九分丈 =19人(12,6%)
(6位)十分丈 =17人(11,3%)
(7位)五分丈 = 7人(4,6%)
また、8月6日の読売新聞に、
「『トレンカ』すっきり脚長」
という特集記事が出ていました。その記事には、
「この夏、足先とかかとを出してはくタイプのレギンスが流行している。通称は『トレンカ』。野球のストッキングのような形が特徴で、脚をすっきりと長く見せる効果があるという」
と書かれていました。「トレンカ」、やっぱり流行っているんだ!そして「トレンカ」の語源については、
「トレンカの語源ははっきりしないが、国内だけで使われている造語とみられる。『ファッション辞典』(文化出版局)では『トレンカー』を『裾にスティラップ(足かけ)がつくパンツまたはタイツ』と説明しており、このあたりから派生した言葉のようだ。」
とありました。
2009/8/18


◆ことばの話3678「とっぽい」

『ルパンの消息』(横山秀夫)という本の46ページに、
『「この作戦の名前に決まってんでしょ。テストをかっぱらうんだからT作戦とかなんとかカッコいいヤツつけようよオ」
二人は思わず吹き出した。
「ったく、トッポイ野郎だな。おい橘、なんかいいのあるか」』
という会話で、
「トッポイ」
という言葉が出てきました。この「トッポイ」は、やや否定的な感じで、
「素人っぽい」
という意味だと私は感じます。これまで私が思っていた「とっぽい」というのも、同じニュアンスで、
「『素人っぽい』の頭の『素人』を省略したもの」
だと思ってきました。
ところが、どうやら違う意味もあるようなのです。『ヤンキー文化論序説』(五十嵐太郎編、河出書房新社:2009、3、30)という本の中で書かれた「ヤンキーとヒップホップ」で、磯部涼という人が中学生の頃に観た「いとうせいこう」のラップに、微妙な違和感を覚えたと書いている部分で、
「自分のやりたいものとはちょっと違う。向こうのとっぽい奴らとは確実に雰囲気が違う。」
と「とっぽい」を使っていますが、これは、
「肯定的」「かっこいい」
感じですよね。同じ『ヤンキー文化論序説』の中で「暴走族文化の継承」を書いた大山昌彦という人は、
「もやし(子)っぽい=びびって(後込みして)なにもできない、単車にも怖くて乗れない人間のことを意味する。モヤっぽさの対極にあるのがトッぽさ
と書いています。やはりこれも、
「トッぽい=カッコイイ」
ですよね。『広辞苑』「とっぽい」を引くと、
「(俗語)気障(きざ)で生意気である」
とあるのですが、茨城県A市の不良たちの間では、
「男っぽい」「不良っぽい」
という意味だそうです。それが、彼らにとってあこがれる「格好良さを意味する言葉」なんだそうです。その部分の大山昌彦さんの文章を引いて見ましょう。
『ひるむことなく警官に立ち向かうことは、暴走族である「幕府」のメンバーにとって重要である。そのことが自分のトッぽさを示すことを意味しているからである。(中略)祭りの後のミーティングでは警官に立ち向かったメンバーに対して幹部のメンバーは「おめえ、今日トッぽかったなあ」と労をねぎらうように言葉を掛けていた。』


さて、そんな本を読んだ後の7月6日、神戸・岡本の行きつけの店で、
焼酎「とっぽい」
を発見、思わずケータイで写真を撮りました。

また、『週刊文春』(2009年7月30日号)のエッセイ「夜ふけのなわとび・1128回〜ハルキ・ムラカミ」の中で、林真理子さんが先日サイモン&ガーファンクルのコンサートに行ったことを書いていて、その中に「とっぽい」が出てきました。
「そう、彼らが初めて来日した時のコンサートも行ったっけ。二十七年前のこと、私はとっぽいコピーライター。原宿セントラルアパートに出入りし、作詞も始めた。まるっきり売れなかったが、まあ、なんとなく最先端のギョーカイにはひっかかっていた頃」
この「とっぽい」は、
「素人っぽい」「「駆け出しの」
という意味ではないでしょうか?どうやら「不良」にとっての「とっぽい」と、それ以外の人にとっての「とっぽい」の意味は違うような気がしてきました。2種類の「とっぽい」があるんじゃないのかな。どうでしょうか?
2009/7/30
(追記)

早稲田大学非常勤講師で『三省堂国語辞典第6版』の編纂にも携わった飯間浩明さんからメールを頂きました。
「このことばは、『三省堂国語辞典』第6版で、けっこう力を入れたところです。ぜひぜひ、『三国』の語釈もご覧くださいませ。」
とのこと。そうでしたか、では早速・・・

「とっぽい」(俗)(1)不良ぽくて かっこいい。【例】「とっぽいにいちゃん」(2)とぼけて・(ぬけて)いるようすだ【例】「とっぽい女の子」(3)ぬけめがない

たしかにちゃんと(1)と(2)、別の意味が記されていますね。用例はありませんが(3)の意味もあるんですね。ありがとうございました。またこの「とっぽい」の『三省堂国語辞典』のことは、2008年1月12日の読売新聞「日めくり」でも『「三国」の新語(3)』として取り上げられたそうです。それによると、「とっぽい」は、
『大正時代に出た「隠語輯覧(しゅうらん)」には「聡明(そうめい)にし
て容易に手段に乗じ難き人物」とある。時代により少しずつニュアンスを変えてきた言葉のようだ。』
『三省堂国語辞典(三国)は第3版(1982年)以来「なまいき」「きざだが感じがいい」などとしてきたが、今の使われ方とはズレる。最新の第6版では全面的に語釈を変更した。場合によって異なるタイプの人を指すことに着目』
したと紹介されています。ほぼ全文になっちゃいましたが・・・みなさん、読売新聞の「日めくり」はためになるので読みましょう!
飯間さんのブログ、「ことばをめぐるひとりごと〜きょうのことばメモ・2007年8月11日『とっぽい』とはどういう意味か」に詳しく書かれていますので、お読み下さい。
http://yeemar.seesaa.net/article/50993752.html
2009/8/19


◆ことばの話3677「お天気おねえさん」

ダウンタウン松本人志さんの結婚相手・伊原 凛さんの紹介で、
「お天気おねえさん」
という表現をしているのを耳に(目に)しました。「ミヤネ屋」の原稿にも下読みの時に出てきたので、
「お天気キャスター」
に直しました。
「お天気おねえさん」と「お天気キャスター」の違いは何か?
と言われれば、
「『お天気おねえさん』には、『性的なニュアンス』が含まれているが『お天気キャスター』には、『知性的なニュアンス』はあっても『性的なニュアンス』はない」
というところでしょう。
そもそも職業名に「おねえさん」というのは子供じみていますよね。これ以外では、
「歌のおねえさん」
ぐらいしか思いつきません。「歌のおねえさん」も、子どもが言う分には性的なニュアンスはありませんが、大人、特に男性が使うと、「性的なニュアンス」を伴うことも、なきにしもあらず。
先日、引きこもりの人の介助(訪問支援活動)をする団体(NPO法人)が、同じ名前を付けたアダルトビデオの会社を訴えた(名称使用の差し止め)という新聞記事がありましたが、そのNPOとアダルトビデオに共通の名前が、
「レンタルお姉さん」
でした。やはり「おねえさん(お姉さん)」部分に「性的なもの」を意味づける側と、そうではない側との対立が現れた出来事なのだなあと思いながら、新聞記事を読んだのでした。
2009/7/30
(追記)

『週刊文春』2009年8月6日号の特集「女優ってヤツは・・・」木村佳乃さんのことを書いたところに、木村さんが出演しているテレビ朝日のドラマに、
「歌のおにいさん」
というのがあると書いてありました。見たことはないので、どんなドラマかは分からないのですが・・・。引きこもり介助の訪問支援活動も、派遣されるのが女性だと、
「レンタルお姉さん」
ですが、男性の場合は、
「レンタルお兄さん」
と書いてあったような?
2009/7/31


◆ことばの話3676「ナタか?なたか?」

7月27日の各紙朝刊に、駒澤大学の構内で夏祭り準備をしていた小学生の男児に、駒大生が「なた」を持って襲ったという記事が載っていました。その「なた」の表記が、見出しを見ると、平仮名の「なた」とカタカナの「ナタ」の2通りありました。

(読売)駒大生男児にナタ
(朝日)駒大生構内でなた所持容疑
(毎日)なた持つ学生が男児羽交い締め〜駒沢大、容疑で逮捕
(日経)駒大生なた持ち男児羽交い締め〜銃刀法違反容疑で逮捕
(産経)駒大になた男、小学生羽交い締め〜夏祭り準備中 在学生を現行犯逮捕
(スポニチ)大学生が恐怖ナタ男に〜駒大・夏祭り準備中の小学生羽交い締め
(日刊)夏祭り準備中にナタ男・駒大 大学生逮捕、リュックにガソリンも

ということで、一般紙は、読売だけカタカナで「ナタ」、その他は平仮名で「なた」、スポーツ紙は調べた2紙ともカタカナで「ナタ」でした。漢字で「鉈(なた)」としたところはありませんでした
これと似たような、「二文字の名前の刃物の表記」に関しては、以前書いたものがあります。
「平成ことば事情1571ナタとオノ」「平成ことば事情1727オノ・おの・斧」です。
「1571ナタとオノ」によると、2004年1月29日午前10時ごろ、韓国・ソウルの日本人学校の幼稚園部に「刃物」を持った韓国人の男が乱入し、男子園児に切りつけ重傷を負わせるという事件があり、事件を伝えた各紙夕刊(1月29日)の、刃物を示す表現が微妙な違いを見せていたとのこと。再録すると、
(読売)オノ
(毎日)オノ
(産経)ナタ
(日経)ナタ
(朝日)ハンマー
だったようです。「ナタ」と「オノ」は違うよな、と。ちなみに日本テレビのお昼の「ニュースダッシュ」は、「ナタ」と表現していたが、その後「携帯用の斧」に訂正したということでした。このときは、翌日の新聞で「ナタ」が姿を消し、すべて「オノ」「おの」に変更されました。表記に関して言うと、この時は産経と日経もカタカナで「ナタ」だったのですが、今回はひらがなの「なた」に変わっています。何かあったのでしょうかね?
2009/7/27
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スープのさめない距離