◆ことばの話3650「い抜き言葉」

いつも「ミヤネ屋」のスタッフに、
「『ら抜き言葉』はあかんよ!街頭インタビューなんかで『食べれる』と言っていても、字幕スーパーでは、『食べれる』やで!『ら』を補いや!」
と、注意しています。ある日、スタッフの一人が、
「道浦さん、『い抜き言葉』もダメですか?」
と質問してきました。え?「い抜き言葉」?初めて耳にしました。一体どういう言葉?と聞くと、
「『している』『見ている』と言うべきところを、『してる』『見てる』というように『い』を抜いた言葉です」
はは、なるほど。それが「い抜き言葉」か。知らなかったです。たしかに正確には、
「してる」「見てる」
「い」が入りますね。でも、今の話し言葉では「してる」「見てる」で十分じゃないかなあと答えました。似たようなものには、
「なんです」
がありますね。これも正しくは
「なのです」
でしょうが、話し言葉は「なんです」ですね。書き言葉は「なのです」ですが、ちょっと“抜けた”というか、音が雑に変わったというか、そんな感じ。
こういったものを認めるということは、「ら抜き言葉」も認めざるを得ないのかな。どうなんでしょうか?自然な流れではあると思いますが。
Google(6月24日)検索では、
「い抜き言葉」=1660件
でした。それほど多くはありませんが、こういった言葉はあるのですね。知りませんでした。
2009/6/24


◆ことばの話3649「バトル三昧」

「情報ライブミヤネ屋」で、大阪府の橋下知事の昨年(2008年)の活動の様子を特集した際、市長会の面々と激しい議論を展開したことを指して、
「バトル三昧」
という表現が出てきました。この「バトル三昧」は、おかしいのではないか?と思いました。私の感覚では、「○○三昧」というのは、
「○○が、好きでたまらなくて、それを満喫して楽しむ」
転じて、
「○○に熱中するあまり、本来の業務をおろそかにする」
という意味だと思います。そういう意味では、橋下知事は、
「バトル(この場合は「論争」)が好き好きでたまらなくて、それを満喫して楽しんでいた」
というわけではないでしょう。
「職務として、お互いの主張をぶつけ合っていたに過ぎない」
のです。それを指して、「バトル三昧」は、やはりおかしいですよね。
念のため『広辞苑』「三昧」を引いてみました。引く時は「さんまい」で濁らずに引きます。
「さんまい(三昧)」=「(1)(ザンマイとも)<仏>(ア)(梵語samadhiの音訳。<maのaの上にー>三摩地、三摩提とも。定・正定・等持・寂静などと訳す)心が統一され、安定した状態。一つのことに心が専注された状態。四種三昧、念仏三昧など諸種の行法がある。(用例省略)(イ)三昧場(さんまいば)の略。(2)(他の名詞に付いて、ザンマイと濁音化する)(ア)一心不乱に事をするさま。「読書三昧」(イ)むやみやたらにするさま。「刃物三昧」

うーん、(2)(イ)の「むやみやたらにするさま」の意味から言えば「バトル三昧」も、あながち間違いとは言えないなあ。
『精選版日本国語大辞典』の「三昧」の「語誌」を読んで見ました。
(1) 日本では、本来、仏教語として、念仏や誦経の場に用い、「阿弥陀三昧」や「法華三昧」といった用い方、また、「三昧」単独で、「一心不乱に仏事を行うこと」といった用い方が一般的であった。その意味から、(◇2)の意味(=精神を統一し、集中することによって得た超能力)が派生した。(2)(前略)近世以降、一つのことだけを(好き勝手に)する」「心のままである」といった意味も派生し、「ざんまい」と濁音化して「放蕩三昧」「悪行三昧」などのように、多くの名詞と結び付いて用いられるようになった。」
うーん、そうするとその「多くの名詞」の一つとして「バトル」が入ったということか。「バトル」が外来語なので 違和感を覚えるということもあるかもしれませんが、そもそも「三昧」が「梵語=サンスクリット語=外来語」なのだから、「バトル三昧」を「ダメ」とする根拠が弱いなあ・・・。
Google検索(6月24日)では、
「バトル三昧」=2790
でした。でも「論争の日々」という意味ではなく、「格闘技三昧」という趣味の世界が、最初の方のページには多かったですね。
「バトル三昧、格闘技」=740
「バトル三昧、論争」 = 174
でした。
2009/6/24


◆ことばの話3648「コンマ1秒」

水泳や陸上などの競技でのタイムで、たとえば「0.15秒」を読む時に、
「レイ・コンマ・イチ・ゴ・ビョウ」
というように「コンマ」を使う読む方を時々耳にします。同じように「0.1秒」のことを、
「コンマ・イチ・ビョウ」
と読むことはあるか?新聞用語懇談会参加の各社に質問してみました。
というのも、先日の「ミヤネ屋」で、「コンマ」と読んだケースがあったからです。
(日本テレビ)「レイ秒イチゴー」と言う。「100分の1秒差」などとも。
(TBS)「コンマ」は会話でしか出てこない。
(フジテレビ)「コンマ」は使わない「レイ秒イチゴー」。解説者が「コンマ1秒差」と言うことはあるかも。
(テレビ朝日)ニュースでは「コンマ」は使わない。
(テレビ東京)原稿で「コンマ」は使わない。中継の会話部分では出てくることも。普通は「レイ点イチゴ秒」。
(NHK)原稿で「コンマ」はない。中継コメントでは出てくる。「100分の1秒差」は出てくる。
(WOWOW)強調する時に実況アナが「コンマ」を使うこともあるが、その時は「古いなあ」と感じる。
(ニッポン放送)原稿ではない。しゃべりの中では時々出てくる。
(静岡放送)ニュース原稿では「レイ点イチゴー秒」。フリートークでは「コンマ」ということもある。
(共同通信)「コンマ」は使わない。
(毎日放送)日本テレビと同じく「レイ秒イチゴー」。会話で「コンマ」は聞くことがある。
(朝日放送)話題で「コンマ1秒の差でした」ということがあるかも。
(関西テレビ)「レイテンイチゴ秒」と言う。フリートークで「コンマ」あるかも。
ということで、各社とも、
「原稿で『コンマ』が出てくることはないが、中継などで実況アナや解説者の話の中で、しゃべり言葉として出てくることはある」
というお答えでした。おもしろかったのは、「コンマ」以外の読み方でも、
「レイ秒イチゴー」
「レイ点イチゴ秒」
の2通りがある、ということでした。言われてみればそうですね。この使い分けですが、
「レイ秒イチゴー」
というと、水泳や陸上の「タイム」っぽく聞こえます。
「レイ点イチゴ秒」
は、スポーツというよりは、純粋に「時間」という感じがしますね。
6月23日の朝日新聞「SPORTSクリック」という特集記事で、6月25日に開幕する日本陸上選手権の女子短距離を取り上げていました。その見出しが、
001秒の戦い再び」
で、「コンマ」は使っていませんでした。リード部分は、
「3戦続けて100分の1秒の接戦を演じた」
と、こちらも「コンマ」は使っていませんでした。この場合もし「コンマ」を使うなら、
「コンマ“レイ”イチ秒」
となって、「コンマ」の下にもう一つ「レイ」を言わなくてはいけません。「手動計時」の場合は「小数点以下1ケタ」のタイムを示していたので、「コンマ○秒」が「ものすごく僅差」ということが表せたのかもしれませんが、「電気計時」になって「100分の1秒」「1000分の1秒」(もっとも1000分の1秒の表示はやめたと聞きました。同着でよい、と)が表されるようになったことで、「コンマ○秒」は「僅差」を表す手段ではなくなったのではないでしょうか?だからWOWOWさんのような「コンマと聞くと古臭い感じがする」という感想も出てきたのでしょうね。
なお、「平成ことば事情2494『0コンマ5秒』」もお読み下さい。
2009/6/24
(追記)

円満字二郎さんの新著『太宰治の四字熟辞典』(三省堂:2009、6、10)の中の「加減乗除」(136ページ)に出てきた、太宰 治の『正義と微笑』の一節に、
「僕は、けさから、ただの人間になってしまった。どんな巧妙な加減乗除をしても、この僕の一・0(いちこんまれい)という存在は流れの中に立っている杙(くい)のように動かない。ひどく、しらじらしい。」
という具合に、「1,0」のルビとして、
「いちこんまれい」
という例が出てきました。これは1942年(昭和17年)に書かれ、翌年出版されたようですが、そのころ「コンマ」は普通に使われていたのでしょう。
2009/7/31
(追記2)

2010年11月14日、F1の今季(2010年)最終戦・アブダビGP(グランプリ)の中継を見ていたら、フジテレビの西岡アナウンサーが、
「小林カムイがコンマ5秒、アロンソをリード。」
というように、
「コンマ5秒」
を使っていました。ちなみに西岡アナウンサー、「15秒」を、
「ジュ/ーゴ\ビョウ」
「中高アクセント」で「コンパウンド」してました。
2010/11/15
(追記3)
海堂尊さんの最新刊『メレフェウスの領域』(角川書店:2010、12、15)の中で、
「温度調節のダイヤルをひねり、コンマ一度上昇させた」(13ページ)
「温度」の表記で、
「コンマ一度」
というのが出てきました。
2011/1/10


◆ことばの話3647「ハードルを増す」

6月24日の毎日新聞朝刊に、
「衆院選の8月2日投開票は日程的にハードルを増す」
という表現がありました。ん?「ハードルを増す」?
ハードルの台数が増えるということ?普通、この「ハードル」を使った表現は、
「ハードルが高くなる」
のではないでしょうか?Google検索(6月24日)では、
「ハードルを増す」  =189000
「ハードルが高くなる」=36500
でした。
ええ!「ハードルを増す」が18900件!多すぎないか?と思ってよく見たら、文章が載っているのはたった13件で、その他は
「最も的確な結果を表示するために、上の13件と似たページは除外されています。検索結果をすべて表示するには、ここから再検索してください。」
となっていて、しかもその13件のほとんどは「毎日新聞のこの記事」でした。こんな結果の出方をするんだな、Googleって。
ま、常識的に考えると「ハードルを増す」という表現は「一般的ではない」と言っていいでしょうね。
2009/6/24


◆ことばの話3646「凛か?凜か?」

ついに厚生労働省の現職局長、それも「女性キャリアの星」とまで言われた人までが逮捕される事態となった、障害者団体向けの郵便の割引制度を悪用した今回の郵便法違反事件。
係長が逮捕された時点で気になっていたことがあります。
5月27日の夕刊各紙(大阪版)を見ると自称・障害者団体の、「凛の会」の「凛」の字が、右側下の部分が、
毎日と日経は「のぎ(ノ+木)」の「凜」
読売・朝日・産経は「示」の「凛」
なのです。本当はどちらなのでしょうか?また、それぞれの判断基準は何なのでしょうか?
ちなみに読売テレビは、「示」の「凛」で放送しています。Yデスクに、確認とその理由を尋ねると、
「『示』の『凛』です。理由は大阪地検の発表の文字が『示』の『凛』だったからです」
という答えが返ってきました。ちなみにYデスクの息子さん(小学校高学年)の名前は、
「凜太郎」
と言い、「凜」の字「示」ではなく「ノ+木」だそうです。
この件に関して、先日新潟で開かれた新聞用語懇談会の春季合同総会で各社に尋ねたところ、以下のような返事が返ってきました。
(朝日)1990年に人名用漢字に「ノ+木」が入った時からそれを使用しているが、今回は大阪地検の発表原稿が「示」だったために、それに倣った。
(毎日)「ノ+木」が原則なので、それに従った。
(読売)表外字は原則「正字」を使うが、固有名詞は例外。女優の「菊池凛子」は「示」。今回も「示」の「凛」。
(産経)本文は「示」、グラフィックは「ノ+木」になっていた。原則は「ノ+木」。社会部にゲタを預けたら「示」になった。
(共同通信)うちのハンドブックは「ノ+木」になっているので「ノ+木」。
(時事通信)大阪地検の発表に従って「示」。
(NHK)画面スーパーは「白山会」だったので、わからない。

そうなんです、実は人名に使える漢字「人名用漢字」には、「ノ+木」の「凜」が、1990年に加わりましたが、この時点では「示」の「凛」は、まだ人名用漢字に入っていなかったのです。「示」が入ったのはものすごく最近、5年前の2004年なのです。このときは、それまで290字だった人名用漢字が、9月27日に許容字体の205字と488字追加され、一気に983字にまで増えたのでした。
この際の人名用漢字の大幅増には、同じ漢字の「異体字」が数多く含まれたことで、混乱が生じ、それがいまも続いているというのが現状で、「凜」と「凛」の問題もその一つなのです。
「凛(凜)の会」についてはその後も、毎日新聞と日経新聞は「ノ+木」の「凜」、そのほかの新聞は「示」の「凛」で表記しています。

先日(6月13日)、大阪・ミナミを徘徊していたら、写真のような看板を見つけました。これははっきりと「示」ですね。これだけ大きいと分かりやすい。

これからは「示」の「凛」の方が増えるのかもしれませんね。皆さんも、今度「凛」(凜)の感じを見つけたら、どちらの「リン」か、よーく見てみてくださいね。
2009/6/24
(追記)


大阪・北新地で見つけたお店の看板。ちょっとにじんで分かりにくいですが、これは「ノ+木」の「凜」でした、わかりにくいけど。下が「木」ですよね。こちらの店の方が、ミナミの店より歴史があるのかな?

2009/6/26
(追記2)

これらより前の、6月4日に大阪・梅田の阪神百貨店のワイン売り場で見つけたチラシの文字は、
「凛」
「示」でした。

2009/9/29

(追記3)

20091215日放送の日本テレビ系列『ベストアーティスト2009という歌番組を見て(聴いて)いたら、ポルノグラフィティの『サウダージ』(2000という曲の歌詞の字幕で、

「凜とした痛み 胸に」

と、「示」じゃなくて「ノ+木」の「凜」が出てきました。

しばらくすると、GLAYの『Winter again』(1999という曲の歌詞の字幕で、

「凜と鳴る 雪路を急ぐ」

というふうに、またもや「ノ+木の凜」が出てきました。

1999年、2000年あたりは、まだ「示」の「凛」が人名用漢字に入っていなかったので、やはり「ノ+木の凜」が使われていたのでしょうかね?

そういえば、ベネッセコーポレーションによる2009年の『赤ちゃんの名づけランキング』(200812月から200911月に生まれた赤ちゃんの名前)129日に発表され、男の子部門では「大翔(ひろと)」が4年連続で1でしたが、女の子部門では、なんと「示」の方の

「凛」

1位に輝いたという調査結果が出ていました。凄いなあ。「示」か「ノ+木」かで、生まれた年がわかってしまいますね。

2009/12/16
スープのさめない距離