◆ことばの話3625「なぜ第一日目はダメか?」

「第一日目」
という表現は間違いである。正しくは「第一日」あるいは「一日目」である、と会社(読売テレビ)に入ってから教えられました。
でも「なぜそうなのか」、何となく分からないままで過ごしておりました。
その後、2003年に日本新聞協会・新聞用語懇談会放送分科会が『放送で気になる言葉・改訂新版』に、その理由が記されているのに気付きました。36ページ、「不適切な表現」の項目に、
『「第一日」の「第」は、数字が順序数詞であることを示す接頭語、「一日目」の「目」も同様の意味を表す接尾語だ。したがって「第一日目」のように「第」と「目」の両方をつけるのは表現としては重複する。意味は通じるので実害は少ないのだが、こんなことで無知と思われるのはつまらない。「第×日」「第×回」あるいは「×日目」「×回目」と簡潔で正確な表現を心がけよう』
とあります。これで一応納得したのですが、やはりどこか、引っかかるところが合ったのでしょう。先日ついに「ハッ!」とひらめいたのです。
『「第」は「順序・順番」を表し、「目」は「合計いくつか」を表すのでは?「第九」は「9番目の曲」で。「9曲目」はこれまで聞いた演奏した作曲・作詞した曲の合計ではないか?』
と。「第」はデジタルで、「目」はアナログ・積算では?
あ・・・でも、「9曲目」は、必ずしも「合計」ではないような気がしてきたぞ。
うーん、やはり「思いつきは、思いつきに過ぎない」ということか・・・精進します!
2009/6/8


◆ことばの話3624「可視化」

最近気になる言葉の一つに、
「可視化」
があります。「平成ことば事情3458気づき」でもちょっと触れました。その時は、『現代用語の基礎知識2009年版』に載っていた「見える化」(「経営・産業」の欄)の項目の見出しに「可視化」も並んで、こう載っていたのでした。
「見える化・可視化」=多様に見える企業活動を具体的にして、目で客観的にとらえられるようにすること「目で見る管理」ということもある。(以下略)
「可視化」って、文字で見るとすぐに、
「見ることができるようにすること」
と意味は分かるのですが、耳から音で聞くと、
「カシカ」
は、一瞬、
「仮死化?貸しか?歌詞化?菓子化?樫化?下肢化?」
なのかな!?と思ってしまったら、意味がつかみにくいです。しかし最近この「可視化」、(私が気にしているせいか)よく見かけます。
『「新しい郊外」の家』(馬場正尊、太田出版:2009、1、25)という本には、
「特にデザインの領域を再定義しなければならないと強く感じていた。いわゆる可視化できる物体のデザインではなく、経験の総和のようなもの。」(190ページ)
「おそらく僕らの世代は土地や家に固執しない。所有という欲求や概念さえ少しずつ薄くなっている。それよりも過ごす時間を大切にする。誰と、どのような環境で、何を語り、何を食べるか。不可視の現象をいとおしく思う」(204ページ)
と、「可視化」と、反対語(?)の「不可視」が出てきました。
また、日本民間放送連盟が今年の1月15日に出した「裁判員裁判の取材における基本スタンス(骨子)」の中にも、
「(前略)公判前(裁判員選任手続き、公判前整理手続)、公判中(心理、評議、表決)、公判後(裁判員への取材等)など、あらゆる過程で情報が開示されることこそが、本来の目的である“司法制度の可視化”につながると考える」
ということで、裁判員制度関連の文章には「可視化」がよく出てきます。固いよね、文章が。
「目に見えるようにすること」
と言い換えたほうが分かりやすいと思いますが、いかがでしょうか?
(「平成ことば事情3558激化」「平成ことば事情2512レンダリング」にも「可視化」が、ちょこっと出てきます)                 
2009/6/8
(追記)

『切手が伝える仏像〜意匠と歴史』(内藤陽介、彩流社:2009、4、28)にも、二十五菩薩に関する記述で、
「いずれも、信徒たちに極楽浄土の素晴らしさを可視化するためのものであった」(65ページ)
「可視化」が出てきていたのでした。どこかに書いたような気がするけど。
2009/6/9
(追記2)

2009年6月6日の読売新聞に、
『取調べ「可視化」に意欲〜岡田・民主幹事長 足利事件受け』
という見出しがあり、「可視化」が使われていました。記事では、岡田幹事長が、
「警察や検察による容疑者取り調べの全過程の録音・録画(可視化)を義務付ける刑事訴訟法改正案を成立させるべきだと訴えた」
とあり、「可視化」が示す内容が書かれていました。
2009/7/7


◆ことばの話3623「元教え子か?教え子か?」

中央大学教授刺殺事件で、容疑者の男が逮捕されました。容疑者の男は、教授の「元教え子」でした。5月22日の「情報ライブミヤネ屋」では、日本テレビが、
「元教え子」
でやっていたので、それを踏襲して「元教え子」で放送しましたが、事前にチェックしたスーパー・原稿ともに、
「教え子」
のままの分がありました(原稿は直しました)。本当は、昔(何年か前)に教えても、
「『教え子』で正しい」
のですが。
「元教え子」だと「破門」でもされたような、
「もう、師でもなければ、弟子でもない!!」
感じもするので、「教え子」でもいいかなとは思いますが、
「昔、大学で教えた」
という「昔」を強調する意味で(「今教えているの学生ではない」という意味で)の「元教え子」ということでしょうか。
ところが、5月24日の日本テレビ『バンキシャ!』では、原稿もスーパーも、
「教え子」
で放送していました。日本テレビの原稿を見ると、けさ(5月25日)一番のニュースまでは、
「元教え子」
だったのですが、お昼の「ストレイトニュース」から、
「教え子」
になっています。どちらかに統一はされていないのでしょうか?
ちなみに、22日夜10時20分頃のケーターサイトの毎日新聞は
「元教え子」
読売新聞は、
「元中大生」
朝日新聞は、
「卒業生」
でした。またNHKは24日夜6時のニュースで、
「教え子」
でした。
新聞を引っ張り出してみました。最初にこの記事が載ったのは「5月22日の朝刊」です(大阪版)。
(読売)教え子の男(見出し)
(朝日)元教え子(見出し)、同学部卒業生でアルバイト店員の(リード)
(毎日)元教え子(見出し)、高窪さんの教え子だった(本文)
(産経)元教え子(見出し)、高窪さんの教え子の(リード)
(日経)元教え子(見出し)、元教え子(リード)
と、この段階ではほとんどの新聞が見出しで「元教え子」を使っています。「教え子」としたのは「読売新聞」だけです。しかし「22日の夕刊」の段階では、
(読売)教え子
(朝日)同学部卒業生のアルバイト店員
(毎日)アルバイト店員
(産経)中央大学卒業生のアルバイト店員
(日経)同学部卒業生で教え子だったアルバイト店員
と、各社とも「元教え子」は使わなくなって、何とか苦労しながら、殺された高窪教授と山本容疑者との関係・接点を表そうと努力しています。日経は23日の朝刊では、あっさり「教え子」を使っているのですが。
この件について日本テレビの用語担当者に問い合わせてみたら、
『「元教え子」は、「教え子」でもよかったが、最初のニュースでは「卒業生」でもあり、「現在の教え子」と少々距離感があるのではないかと考えられ、「現在の教え子と区別すること」「わかりやすさ」を第一に考えて「元教え子」を使った。その後少しずつ事件の概要がわかり、頻繁に教授のもとを訪ねていたことなどで距離感が近くなった感があり「教え子」になった。しかし用語の統一はしていないので、情報系番組はその番組のプロデューサーの判断で使っている』
とのことでした。
また、5月28日に新潟で開かれた新聞用語懇談会春季合同総会でも、フジテレビの委員からこの件に関して質問(というか意見)が出されました(「教え子」でいいのではないか?と)。それに対しての各社の答えは、概ね、
『容疑者逮捕直後は、「読売新聞」以外の各社は「元教え子」としたが、その後「教え子」とした社が多かった。本来広義では、卒業生も含めて「教え子」だが、今回は「今の学生ではない」という事を強調して短い言葉で表したかったので、「元教え子」という言葉を使った。(狭義の「教え子」)』
というものでした。
なお、「元」に関して書いたものは、「平成ことば事情」の、
0065「前と元」
0334「元妻と結婚」
0958「最高の元大統領」
1227「元少年」
1227「元少年か?男性か?2」
1315「フセイン大統領は元?前?」
1438「辻本清美元議員か前議員か」
1439「田中前外相か元外相か」
1559「元患者」
1759「前と元2」
2116「元カノ」
2199「林健治さんか元受刑者か」
2773「元義父」
3126「元親方か?前親方か?」
などがありますので、またお読み下さい。
2009/6/8


◆ことばの話3622「底気味の悪さ」

翻訳家の鴻巣友希子さん『カーヴの隅の本棚』(文藝春秋:2008、10、30)という本を読んでいたら
「ヒロインの存在の希薄さかげんが、なんとも言えぬ底気味の悪さを漂わすが」
という一文にぶつかりました。ここに出てきた、
「底気味の悪さ」
という言葉、初めて知りました。「薄気味の悪さ」なら知っています。「何となく気味が悪い」という意味ですね。「底〜」という言葉では、
「底意地の悪さ」「底深さ」「底冷え」「底無し」
ぐらいしか知りません。「そこ」で、「底〜」の言葉を『広辞苑』で捜してみました。
「底上げ」「底意」「底意地」「底板」「底至り」「底入れ」「底魚」「底反(がえ)り」「底が知れない」「底堅(がた)い」「底固め」「底が割れる」「底気味」「底気味悪い」「底倉」「底心」「底刺網(そこさしあみ)」「底敷網(そこしきあみ)」「底知らず」「底知れず」「底知れぬ」「底心(そこしん)」「底澄(ず)み」「底企(だく)み・底巧(だく)み」「底溜(だ)め」「底鱈(そこだら)」「底地」「底力」「底つ磐根(いわね)」「底つ下」「底土」「底土持(そこつちもち)」「底筒男命(そこづつのおのみこと)」「底つ根」「底つ根の国」「底積み」「底無し」「底雪崩」「底荷」「底抜け」「底抜け騒ぎ」「底抜け上戸(じょうご)」「底抜け屋台」「底値」「底の国」「底這(ば)い」「底ひ」「底翳(そこひ)」「底冷え」「底光り」「底引網」「底ひ無し」「底歩(そこふ)」「底本」「底豆」「底物」「底り」「底滓(そこり)」「底る」「底割れ」「底を入れる」「底を打つ」「底を押す」「底を突く」「底を叩(はた)く」「底を払う」「底を割る」
いやあ、恐れ入りました!「底」は奥底が深い!知っている言葉もありましたが、初めて見る言葉も!
「底る」
ってなんですか!?え?「潮が引いて海底が出る。干潟となる」ことを「底る」だあ?知らなかったなあ。
「底気味」
もありましたね。
「何となく心の底に感ぜられる気味」
ですから、「底気味が悪い」の意味は、
「何となく気味が悪い」
なんだ、それならそうとスッキリ言ってくれれば、すぐに分かるのに・・・底意地が悪い。でも、それだと「薄気味が悪い」とはどう違うのか?そうですね、「底〜」には、奥が知れない不気味さが漂っているような感じがする一方、「薄気味が悪い」は何となく表層に漂っている「気味悪さ」という感で、根っこの深さでは「底〜」に一歩譲っている気がしますね。またひとつ、勉強になりました。
2009/6/8


◆ことばの話3621「高ブレ」

『「新しい郊外」の家』(馬場正尊、太田出版:2009、1、25)という本を読んでいたら、
「高ブレ」
という言葉が2度、出てきました。
「当然、少々施工費も高ブレするだろう。」
「ただし3階建てになったら確認申請も面倒になり、また柱の太さが大きくなるので高ブレの要因になる。」
意味は分かります。値段(費用)の高いほうにブレることですよね。でもあまり普段使わないな、私は。建築業界用語でしょうか?
ネット検索すると(Google,6月5日)
「高ブレ」 = 341件
「高ぶれ」=1030件
でした。でもここでの意味合いではなく、「やや高(ブレード)」「高ブレーキ力」「驕り高ぶれば」「首都高・ぶれパパ」「気持ち高ぶれど」というような使い方が多く、この意味での例は、
「円高ブレ」
「円は高ブレする可能性」
などの経済関係用語でした。
ところで、逆の場合もあるのかな?つまり安い方にブレること。これは「安ブレ」?それとも「低ブレ」?
「安ブレ」 =239件
「安ぶれ」= 93件
「低ブレ」 = 42件
「低ぶれ」=  2件
ということで、あまり一般的な言葉ではないようですね。
2009/6/5
スープのさめない距離