◆ことばの話3620「紘子」


5月13日の『情報ライブ ミヤネ屋』で、元東京地検特捜部長の河上和雄弁護士(76歳)が、『折鶴』のヒットで知られる歌手「千葉紘子」さんと結婚したという話題をお伝えしました。この千葉紘子さん、お年は61歳」(昭和22年か23年生まれ)ということで、河上さんとあわせて137歳!」と伝えました。放送後、これにちょっと引っかかりました。というのは、「紘子」の「紘」という字は、戦時中には、
「八紘一宇(はっこう・いちう)」
というスローガンでよく使われたので、「戦中(昭和16〜20年)」に生まれた子どもの名前にはよく使われたそうなのですが(私の叔父も「紘彦(ひろひこ)」と言います。戦中生まれです)、「民主主義」が謳われ、戦中の軍国主義を否定したはずの「終戦後すぐ(2〜3年後)」の時期に生まれた子供に、この字を使う人がいたのか?と、疑問に思ったのです。
その疑問を引きずりながら、『週刊新潮』に載っていた千葉さんの記事を読んでいたら、なんとそこには千葉さんの年齢が、
64歳」
になっているではないですか!「64歳」ならば1944(昭和19)年か45(昭和20)年生まれですから、まさに「戦中」、「紘」の字を使うのも納得できます。
ネットで調べて見ると、ウィキペディアなどには「1947年生まれ」と書いてありましたが、千葉さん本人の公式サイトには、生年月日・年齢は載っていません。しかし、
19653月 山脇学園短期大学卒業」
とあります。短大の卒業年齢は、20歳=21歳になる年。そこから逆算すると(一番若く考えて、ストレート入学・卒業だとしても)、千葉さんの生まれた年は、
1965211944(昭和19)年」
ということになります。もちろん「戦中」です!やはり61歳」(=戦後生まれ)ではなかったのです!となると、「二人合わせて137歳」というのも「プラス3歳」で、
「二人合わせて140歳」
なのではないでしょうか?(そもそも「二人の年齢を足すこと」に何の意味が?JRの「フルムーン・パス」が使えるかどうかぐらいの意味しかないようにも思いますが・・・・)
その後、「紘子」という名の有名人ピアニストの「中村紘子」さんを思い出し、生まれ年を調べてみたら、19447月」でした。やはり「戦中」です。
ただ最近は、若者の中にも「紘」の字を使っている人がいます。歌手の前川清さん(60)の長男で歌手の「前川紘毅さん(23)」「紘」の字が名前に使われています。また、「ミヤネ屋」のスタッフの中にも、「紘」という漢字を使った名前を持つ人がいます。まさか「戦中」生まれ・・・・のわけは、ないよな・・・。
2009/6/8
(追記)
『人名用漢字の戦後史』(岩波新書)の著者・円満字二郎さんに、「紘」について尋ねてみたところ、
1970年代前半に何度も『人名用漢字に入れてほしい』という要望が出された漢字で、1976年の改定で『当選』している。(拙著第2章)。そうすると、現在33歳以下の方々のお名前にはこの字を用いることができたわけで、そのあたりの世代には比較的多く見られる名前なのかもしれない。新しく認められれば使いたくなる、という心理もあっただろうし、だれか有名人がいたのかもしれない(中村紘子さんもその1人かもしれない)。」
というお答えをいただきました。円満字さん、ありがとうございます!
2009/6/9
(追記2)
私の叔父の「紘彦」は、確認したところ、やはり「昭和15(1940)年生まれ」でした。
2009/7/4
(追記3)

自民党の、
「加藤紘一・元幹事長」
「八紘一宇」の「紘」の字を使っています。オフィシャルサイトのプロフィールを見ると、生年月日は、
「昭和14(1939)年617日」
でした。
2009/7/14
(追記4)

2009年11月25日、「代理母出産」の会見で出てきた諏訪マタニティークリニックの、
「根津八紘院長
「八紘一宇」の「八紘」と書いて「やひろ」と読む名前ですが、生まれは、
1942年(昭和17年)」
だそうです。
また、ちょっと昔の大阪から出た国会議員で、
「坪井一宇」
という人がいましたが、この「一宇」と書いて「かずたか」という名前も、おそらく「八紘一宇」から来ているのでしょうね。生まれは、
1939年(昭和14年)」
で、加藤紘一さんと同学年です。
2009/11/26
(追記5)

きょう(2013年5月22日)のニュースに出て来た、京都大学の、
「松本紘(ひろし)総長」
は、調べてみたら
「1942年(昭和17年)11月17日生まれ」
だそうです。やはり、その年代の生まれであったか。
2013/5/22


◆ことばの話3619「キッシンジャー」

6月1日放送の「情報ライブミヤネ屋」の中の「ヨミ斬りタイムズ」のコーナーで選んだ夕刊の記事(時間の都合で飛ばし、OAされませんでしたが)の中に、
「キッシンジャー元国務長官」
が5月31日、CNNの番組で、
「中国が北朝鮮を抑えなければ、日本と韓国が核武装するかも」
と、物騒な話しをしたという記事がありました。ふと思いついて、今日のコーナー担当の入社2年目・山本隆弥アナウンサーに、
「キッシンジャーって知ってる?」
と聞いたら、案の定、
「いえ・・・国務長官というと、ライスさんしか知らないです」
という答えが。これを「世代の差」というのでしょうか。「ヨミ斬り」の若いスタッフに聞いてもみんな、
「さぁ・・・」
という答えでした。
40代以上の人にとっては「キッシンジャー」と聞けば、ニクソン大統領の補佐官時代に世界を仕切っていた様子を思い浮かべるのですが・・・。これがなければ、(つまり「キッシンジャーって誰?」というのであれば)、記事としても成り立ちにくいですよね・・・。
無類のサッカー好きでも知られるキッシンジャー氏も、今年で86歳。(1923年5月27日生まれ)その現役でバリバリやっていた頃のことを知っている人も、少なくなりつつあるということなのですね・・・。
2009/6/1


◆ことばの話3618「キャンディーズ」

ひょんなことから、ユーチューブで「キャンディーズ」の映像を見ました。解散してからもう30年以上が経つんですねえ・・・しんみり。
そう言えば、TBSの『ザ・ベストテン』の1978年―79年のヒット曲ばかりを集めたCDを見つけ、つい買ってしまい、つい聴き入ってしまいました・・・。キャンディーズの『微笑みがえし』も入っていましたよ。
さて、その「キャンディーズ」に見入っていた私の横からパソコンを覗き込んで来た、小学6年の息子にも、こういった“歴史”はちゃんと教えねばならぬと、
「『キャンディーズ』と言えば、ランちゃん・スーちゃん・ミキちゃんの3人や!」
と誇らしげに(!?なんで?)言ったら、息子は不思議そうな顔をして、
「え?山ちゃんと、しずちゃんじゃないの?」
と。・・・そ、それは、
「『南海キャンディーズ』や!」
・・・時代を感じた、元「南海ホークス」ファンの私でした・・・。

(追記)

そんな私に追い討ちをかけるように、息子いわく、
「お父さんも、もっと新しい曲のCD、買(こ)うて来(き)いや。外国の曲は、昔のクイーンとかは、いいけど。」
って、なんでおまえ、クイーンがお気に入りなわけ???
2009/6/1


◆ことばの話3617「オトキチ」

『ルパンの消息』(横山秀夫)という本を読んでいたら、47ページに、
『その昔、「オトキチ」と呼ばれたほどのバイクマニアだったというし』
という文章で、
「オトキチ」
という言葉が出てきました。「バイクマニア」のことのようですが、中でも「音」にこだわるのですね。Google検索(6月1日)では、
「オトキチ」=17500
「音キチ」 =  3320
でした。ただ出てきたサイトをのぞいてみると、「オトキチ」はたしかに「バイクマニア」のようでしたが、「音キチ」は「ステレオ」とか「カラオケ」とか、そういった「音」のマニアのようです。・・・あ、そうか、「オトキチ」の「オト」は、
「オートバイの『オ(−)ト』」
か!今、気づきました。じゃあ、漢字で「音」と書くのは、この場合は間違いですね。
平成ことばの話707「トラキチ考」と、平成ことば事情2382「キチガイはダメ?」もお読み下さい。
2009/6/1


◆ことばの話3616「住民と住人2」

「平成ことば事情1546」でも書いた「住民と住人の違いについて」です。
きょう(2009年2月9日)の昼ニュースで、以下の表現がありました。
『午前5時50分ごろ、京都市右京区のマンションで、「痛い」という女性の叫び声を聞いた住民が、2階の廊下を見たところ、女性が血を流して倒れていました。女性は病院に運ばれましたが死亡が確認されました。女性は23歳の住民とみられ、首や手足に刃物で切りつけられた跡がありました。』
この原稿の表現についてS解説委員から、
「『住民』という表現に何となく違和感を覚えました。『住人』の方がしっくりくるのではないかと…。」
そして、 なぜ違和感を覚えたのか調べてみようとネット辞書で検索してみたそうです。それによると・・・・
「じゅう‐みん〔ヂユウ‐〕【住民】
ある一定の地域内に居住している人。[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ] 」
「じゅうみん[ぢゆう―] 03 【住民】
その土地に住んでいる人。[ 大辞林 提供:三省堂 ]
「じゅう‐にん〔ヂユウ‐〕【住人】
その家、またはその土地に住んでいる人。「隣家の―」[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ] 」
「じゅうにん[ぢゆう―] 0 【住人】
その土地に住む人。「武蔵国の―」[ 大辞林 提供:三省堂 ]」
ということで、ほぼ同じような意味。あえて、感覚的な違いを見出すならば、
「『住民』は、ある『エリア』に住む『複数』の人という意味合いが強いのに対して、『住人』は、その『家』に住む『特定』の人という感じなのかなと…思いました」
というS解説委員からのメールでした。
ふーむ、なかなか鋭い考察ですね。私も原稿を読んですぐ考えたのは「複数と単数」の問題でした。殺された女性は「住人」の方が良いと思います。英語で言うところの、
「不定冠詞と定冠詞」
の問題のような感じです。「目撃者」は、
「周囲のどの人でも良かった」
のですが、
「たまたまその人」
だったわけで、そういう意味で、
「住民(のうちの一人)」
ですから「住民」で良いと思います。「不定冠詞(a)」ですね。「住民=ある人」です。
これに対して「殺された女性」は、ある意味、
「その人でなければならない何らかの訳があり、まさに殺されたその人」
ということのなので、
「そこに住んでいるその人=住人」
ということで、「定冠詞(the)」なのではないでしょうか。
さらにこの日(2月9日)の表現を「目撃者」に絞ってみてみると(サイトで)、
(読売)住人
(朝日)住人
(毎日)2階の住人
(産経)住民の女性
(熊本日日新聞=共同通信の原稿)住民
(大分合同新聞)住民から
(日刊スポーツ)住民
といった感じで、
「住人」=読売・朝日・毎日
「住民」=産経・熊本日日(共同通信)・大分合同・日刊スポーツ
でした。(本当は夕刊から拾うもりが、バタバタしている間に3か月以上経ってしまい、しょうがなく、サイトから拾いました)
2009/5/25
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スープのさめない距離