◆ことばの話3605「試合終了間際」

4月29日夜、久々にゆっくりと、家でスポーツニュース(『ニュースゼロ』)
を見ていたら、気になる表現が。
この日は楽天の野村監督が、監督通算1500勝を挙げた日でした。それを祝福して花束が贈呈されたシーンのナレーション(男性ナレーターさん)が、こうでした。
「試合終了間際、選手会長の岩隈投手から花束が手渡されました。」
え?終了“間際”?って、試合終わってなかったら「1500勝」にならないんだから、花束贈呈は、
「試合終了後」
に決まってるじゃないですか!なんで「間際」?頭が混乱しました。
読み間違いというのではなく、原稿にそう書いてあったのでしょうが、なぜそんなことになったのか?おそらく、書き手が言いたかったことは、
「試合が終わって、ヒーローインタビューなども終わって、選手や監督が引き上げる直前」
というタイミングで花束が贈呈されたということだと思うのです。でも、それは「間際」という言葉で表現するものじゃないでしょ。単純に、
「試合終了後」
でいいじゃないですか。ねえ。
2009/5/14


◆ことばの話3604「新聞用語集のマル特」

「情報ライブミヤネ屋」のTディレクターからの質問です。
「『歌舞伎』の『伎』は表外字ですが、ルビが必要ですか?」
そうかたしかに「伎」は表外字。でもルビが振ってあるのを見たことがないぞ!
そこで『新聞用語集』を引いてみると、
○の中に「特」の文字のマークが!これはどういうものかと言うと、
「表外字を含んでいるが、新聞用語懇談会が使用することを認めた特別な語」
なんだそうです。知らなかったなあ。
この(特)には、「歌舞伎」の他にはどんな漢字があるか、調べてみました。すると、

「一揆」「元旦」「桂馬」「小唄」「柵越え」「鉄柵」「地唄」「獅子舞」「鍾乳洞」「庄屋」「浄瑠璃」「(鉛筆・リンゴ・ろうそくの)芯」「枢機卿」「筝曲」「僧侶」「竪穴(遺跡の場合)」「常盤津」「長唄」「俳諧」「琵琶」「捕捉(率)」「冥王星」「冥福」「冥土」「弥生(〜時代、〜式土器)」

というものがありました。歴史的に使われてきた、伝統芸能っぽい感じのものが多いですね。大体、読めるんじゃないかな。ちょっと難しい漢字も含まれていますが。これらは「ルビなし」で書けるということです。
これ以外にも、○に「慣」という字のマークがあって、これは、
「表外音訓を含む熟語、熟字訓などで、いわゆる「慣用表記」として使用を認めた語(新聞常用漢字表の付表の語)」
なんだそうで、これもルビなしで使えます。数えてみたら162語ありました。けっこう、「例外」があるんですね、常用漢字も。
2009/5/12


◆ことばの話3603「手指消毒液」

新型インフルエンザが世界で猛威を振るっています。
読売テレビの社内でも、感染予防のための措置が!エレベーターの乗り口の横に、
「手指消毒液」
と書かれたアルコールスプレーが、きょう(4月30日)から置かれました。
でもちょっと待って!「手指」って、「指」でいいのでは?なぜ「手」をつけているのでしょうか?「足の指」との区別なのでしょうか?
Googleの日本語のページの検索(4月30日)では、
「手指」=39万5000件
もありました。
「手指消毒」=3万8000件
で、どうやら専門用語のような感じがします。医学関連用語でしょうか。
『精選版日本国語大辞典』『デジタル大字泉』『明鏡国語辞典』『広辞苑』『新明解国語辞典』には「手指」は載っていませんでした。しかし『三省堂国語辞典・第6版』には、たった1行の説明ながら、
「てゆび(手指)」=手の指。しゅし。
と載っていました!さすが!当たり前の言葉でもきちんと載せるところがすごいですね。
皆さん、手指消毒、しっかりしましょうね!シュッシュ!
2009/4/30


◆ことばの話3602「呼び名も高い」

ミヤネ屋のSプロデューサーから、電話で質問です。
「若手ナンバー1と『呼び名「が」高い』でしょうか?それとも『呼び名「の」高い』でしょうか?」
私は、
「呼び名『も』高い」
だと思いましたが、すぐにはどれが正しいとは分かりません。そこで電話を切って、こちらからかけ直すとして辞書を調べましたが、あまり適当な用例が載っていないのです。「コロケーション事典」を引いても載っていません。こういった時はネット検索!(Google・5月1日)その結果は、
「呼び名高い」=6300件
「呼び名高い」=5470件
「呼び名高い」=9990件

でした。「も」が一番多いものの、どれも1万件以下。ドングリの背比べですね。
でも、よく考えると、これは「呼び名」ではなく「呼び声」なのではないか?と思い直し、調べてみると、これなら国語辞典に載っています。
「次期総理への呼び声高い」(明鏡国語辞典)
「(前略)アルフレッド・ノイスにもっとも呼声高いのは、英文壇でも日本英文学界でも更に認められないとして不思議である」(精選版日本国語大辞典)
「優勝候補の呼び声高い」(デジタル大辞泉)
「優勝候補の呼び声高い」(広辞苑)
あ、『広辞苑』と『デジタル大辞泉』の作例が、まったく一緒だ!
呼び声高い」(新明解国語辞典)
優勝の呼び声高い力士」(新潮現代国語辞典)
ということで、「呼び声」の後の助詞は、もうすべて「が」ですね。
結局、原稿は「呼び声が高い」にしました。Google検索(5月1日)は、
「呼び声高い」= 3万8200件
「呼び声高い」=15万3000件
「呼び声高い」=10万2000件

で、ネットでは「呼び声高い」が一番多かったです。
2009/5/1


◆ことばの話3601「未曾有の読み方」

麻生総理大臣が、
「未曾有」
を読めなくて馬鹿にされてから半年が経とうしていますが、先日、『放送研究と調査』というNHK放送文化研究所の専門誌(2009年2月号)を読んでいたら、知り合いの塩田雄大主任研究員の論文が載っていました。
「戦前の放送用語委員会における“伝統絶対主義”からの脱却〜1939年『決定語彙記録()』と当時の辞典類」
という少し長いタイトルの力作です。その中で特に目を引いたのは、当時、アクセント辞典作成用に選ばれた語彙の中の、
「漢語の読みのゆれ」
を記した資料です。「語彙記録1」の漢語(1062項目)のうち、
その当時、『読みのゆれ』があったことが確実な漢語=368語」
が、全て網羅されている表が載っていました。その中に、なんと、
「未曾有」
があったのです!「未曾有」のゆれている読み方として、
「ミゾウ〜ミソウ〜ミゾー〜ミソーウ〜ミゾユー〜ミソーユー」
となんと6種類もの読み方が「ゆれ」として記録されているのです!これが何を意味するかというと、
70年前から『未曾有』という言葉は、いろいろな読まれ方をしていた!」
ということです。もしかしたら麻生総理のおじいさんの吉田 茂・元総理も、「未曾有」を「ミゾウ」とは読んでいなかったかもしれません。麻生総理は単に読み間違ったのではなく、麻生家か吉田家では皆、
「ミゾユー」
と言っていたかもしれないな、と思いました。
歴史の流れの中では、一つの読み方が絶対正しいとは言い切れないなと思いました。正に言葉は生きている変化していくものなのです。別に麻生総理を擁護する気はありませんがね。(「あぶさん」が何歳なのか知らなくても、何も困りませんから。もちろん知っていてもいいのですが。)
2009/4/30
(追記)
家の本棚にあった『新仏教語源散策』(中村元、東書選書:1986、2、25第一刷・1988、10、13第2刷)という本をたまたまパラパラ見ていたら、83〜86ページに「未曾有」がありました。仏教語だったのか。
そこには読み方として、本来は、
「みぞうう」
と読んでいたはず、と記してありました。
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《「みぞうう」、また「みぞう」とも読む。『日本国語大辞典』には両方の読みがあげられているが、『広辞苑』には「みぞう」のみ。本来は「みぞうう」と読んでいたはずであるが、発声しやすいからみぞうという省略語ができたのであろう。》
《この未曾有という言葉も、仏教伝来以前の中国にはなかったもので、サンスクリット語や西域語から仏典を漢訳する際に造られた漢訳仏典語である。》
「未曾有」はサンスクリット語では「アドゥブダ」(阿浮陀・アブダと音写されることもあり。)びっくりしたというほどの意味。


へえー、「未曾有」に関しては知らないことが多いですねえ・・・。
2010/1/19
スープのさめない距離