◆ことばの話3565「『規制緩和』のアクセント」

お昼のニュース担当のRアナウンサーが質問してきました。
「道浦さん、『規制緩和』のアクセントは、コンパウンドして『キ/セイカ\ンワ』でしょうか?それとも2語に区切って『キ/セイ・カ/ンワ』でしょうか?」
「うーん、僕は2語に分けて『キ/セイ・カ/ンワ』だなあ。」
といいながら原稿を見てみると、2002年の小泉改革での「規制緩和」をさしているようです。
「そうなると、1語と考えてコンパウンドして、『キ/セイカ\ンワ』かなあ・・・」
と迷いながら、Sキャスターに、「どっちで言う?」と聞くと、
「これはもう1語で『キ/セイカ\ンワ』でしょう。」
とキッパリ。それなら、と今回は、
「キ/セイカ\ンワ」
としました。
2009/3/31


◆ことばの話3564「『美男子』の読み方」

用語懇談会でご一緒しているフジテレビの委員Kアナウンサーからメールが来ました。それによると、
「『美男子』はビダン、ビナンどちらが第一義でしょうか?アクセント辞典には『ビダンシ、ビナンシ』の順に併記してあります。『広辞苑』は両方載せているものの、『ビナンシ』は『ビナン(1)に同じ』となっています。いかがお考えになりますか?」
とのこと。
うーん、今で言うところの「イケメン」ですよね。このカタカナなら、読みに迷うことはないのになあ。自分で考えてもラチがあかないので、とりあえず辞書を引くことに。
*『広辞苑』
・「びなんし」→美男(びなん)(1)に同じ。びだんし。
・「びだんし」=容姿の美しい男。好男子。びなんし。
*『明鏡国語辞典』
(「びなんし」は、見出しなし)
・「びだんし」=容姿の美しい男性。びなんし。
・「びなん(美男)」=容姿の美しい男性。美男子。びだん。
*『精選版日本国語大辞典』
・「びなんし」→「びなん(美男)」(例)「別れ霜」(1892)<樋口一葉>六「打仰ぐ面(おもて)見れば(手偏の匁)も美男子(びなんし)
・「びだんし」→「びなん(美男)」(例)小公子(1890−92)<若草賤子訳>前編「また、カプテンは生来美男子(ビダンシ)で」

『精選版日本国語大辞典』の用例で見ると、「びなんし」も「びだんし」も1890年頃、明治20年代が一番古い用例です。一方、「びなん」を引くと、

「びなん」(1)容貌の美しい男。美男子。好男子。(例)徒然草(1331頃)九九「堀川相国は、美男のたのいしき火地にて」<戦国策―秦策>

というふうに書かれています。ということは、「びなん」の方がかなり古くからある言葉だということですね。
ここからは推測です。
もともとあった「びなん」に対して、明治以降「男子(だんし)」という言葉がよく使われるようになって来た。その「男子」で「美しい」人のことを「男子」に「美」を付けて、
「美男子」
という言葉が明治20年頃に生まれた。その際に、従来の「美男(びなん)」に引きずられて、
「美男・子」
という考え方で「ビナン・シ」と言う人と、「男子」に「美」を付けたのだから、
「美・男子」
と考えて「ビ・ダンシ」と言う人の両方が現れたのではないか?
こういう推測をしてみました。
そうすると、古くからの「ビナン」に敬意を表して、まず「ビナンシ」、明治以降に出た「ビダンシ」ももう100年以上歴史があるので2番目にしたらどうでしょうか、とフジテレビのKさんにお返事したところ、
「そうですね。『ビダン』は、『美談』と同音異義語でわかりにくいかもしれませんしね。『ビナンシ』でいきます」
という主旨のメールが届きました。
ちなみに、Kアナウンサーは「美男子」です。
2009/3/23


◆ことばの話3563「船旅と海路」

ヨットで太平洋横断を果たしたタレントの間 寛平さん。その航海を指した「ミヤネ屋」でのスーパーで、
「太平洋1万7000kmの船旅」
というのがありました。放送の前にチェックしていたのですが、この、
「船旅」
というのが引っかかりました。「船旅」というのは、
「旅客船などに乗っての優雅なもの」
を想像します。『広辞苑』では「船旅」は、
「船に乗ってする旅行」
とありますが、今回の寛平さんの「アースマラソン」はいわゆる「旅行」ではありません。自らある意味、命がけでヨットを操っての過酷なものですから、「旅」というのがイメージに合いませんね。そこで、
「太平洋1万7000kmの海路」
に変えて放送しました。
2009/3/30


◆ことばの話3562「『どす黒い』の『どす』」

週末、京都に行ってきました。銀閣寺から哲学の道を歩いて南禅寺、清水寺と半日がかりで。桜(ソメイヨシノ)はまだ2分から3分咲きで、肌寒かったですが、それでも結構な人出でした。そんななか見かけた京都のお店の名前に、
「○○どす」
と京都弁を使ったものがありました。
で、家に帰ってケータイでニュースを見ていたら、麻生総理大臣が大学生などとの交流会で、総理大臣の立場について聞かれて、
「どす黒い孤独がある」
と答えたというニュースが。「どす黒い孤独」・・・「孤独」の表現としては、ちょっと変わった表現ですねえ・・・。それを見ていてふと思ったのは、
「『どす黒い』の『どす』は、一体どういう意味だろうか?ほかの色にも『どす』はつくのだろうか?『黒い』専用なのか?」
ということでした。ためしに、いろんな色を「どす」の後につけてみると、
「どす白い」「どす赤い」「どす青い」「どす黄色い」「どす茶色い」
どれもピンときません。「どす赤い」と「どす青い」が、かろうじて「使えなくもないかな」という程度。Google検索(3月30日)してみると、
「どす黒い」=14万1000件
「どす白い」=    140件
「どす赤い」=    434件
「どす青い」=    900件
「どす黄色い」=  165件
「どす茶色い」=  208件

でした。やはり、「どす黒い」が正統で、「どす青い」「どす赤い」が少々、といったところでしょうか。
家に帰ってから『広辞苑』を引くと、
「どす」=「濁って不透明なさまにいう語。(例)どす黒い
と、やはり「黒い」の用例しかありませんでした。
2009/3/30


◆ことばの話3561「『内食』の読み方」

3月16日、「ミヤネ屋」のWプロデューサーから質問を受けました。
「『外食』ではなくて、家で食べるごはんを『内食』というそうなんですが、読み方は『ナイショク』ですか?それとも『ナカショク』ですか?」
「『ナイショク』というと『内職』みたいだなあ。“デパ地下のお惣菜”や“コンビに弁当”なんかを買ってきて家で食べるのは『中食(ナカショク)』というから、『内食』も『内』は訓読みで『ウチショク』かなあ・・・?」
と答えてから調べましたが、何種類か引いてみた国語辞典には載っていません。
『現代用語の基礎知識2009年版』にも「中食(ナカショク)」は載っていますが、「内食」は載っていませんでした。
ところが、ネットの「YAHOO国語辞典」をSプロデューサーが検索してくれたら、載っていました、「内食」。なんと、
「ナイショク」
と読むようです。おそらく「外食(ガイショク)」の、
「外(ガイ)」⇔「内(ナイ)」
ということなのでしょう。いずれにせよ、新しい言葉のようですね。 
2009/3/30
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スープのさめない距離