◆ことばの話3510「セルヴィス」

『バナナは皮を食う〜暮しの手帳・昭和の「食」ベストエッセイ集』の中の、今 日出海のエッセイ「すき焼きの辯」を読んでいたら、
「日頃物ぐさな僕が、すき焼きの時だけ自分で味をつけ、自分でセルヴィスをする。」
という文章が出てきました。この、
「セルヴィス」
というのは、
「サービス」
のことでしょうね。うーん、「サービス」よりもよっぽど原音に忠実な感じですね。実際に声を出して「セルヴィス」と言って見ると、その響きが英語っぽいことに驚きます。昭和20年代に書かれたエッセイなんですが。
このエッセイ、今 日出海は、
「余りすき焼きを軽蔑しなさんな。」
で結んでいるのですが、「すき焼き」って軽蔑されてたのかな?いや、実は軽蔑されているように感じていたのは今・本人だったりして。
それにしてもこの『バナナは皮を食う』は、本当に昭和20年代の珠玉のエッセイが集められていて、勉強になり、楽しめます。ご一読を!
2009/2/9


◆ことばの話3509「方言も可」

NHK教育テレビの「お母さんといっしょ」の中の(だと思う)、
「おとうさんスイッチ」
というコーナー。いつもはタイトルの歌の時に
「♪おとうさんスイッチ、おじいちゃんも可」
と言っているのですが、2月4日の放送では、
「♪おとうさんスイッチ、おじいちゃんも可、方言も可」
と言っていたので、「おや?」と思ってみていたら、青森県の親子が出てきて、「方言編」をやっていました。ふだんはたとえば「か・き・く・け・こ」のそれぞれで始まる言葉を演じます。
「か・・・髪の毛」
「き・・・北枕にして寝る」
「く・・・首を回す」
といった具合。これを「青森方言」でやっていたのです。具体的には、
「か・・・カッ/チャニキル=服を、うしろ前に着る」
「き・・・キ/ミク\ウ=とうもろこしを食べる」
「く・・・ク/ピタ=首」
「け・・・ケ=かゆい」
「こ・・・コ/マル=おじぎをする」
という具合で、とっても新鮮でおもしろかったです。
全国の方言でやってくれないかな。期待しています!
2009/2/9


◆ことばの話3508「口が裂けるほど」

大相撲の尾車親方(元大関・琴風)が、自分の部屋の十両・若麒麟が大麻で逮捕されたことを受けてのコメントで、
「皆さんが見ているということは、口が裂けるほど言ってきたんですけど・・・」
と言っていましたが、この、
「口が裂けるほど」
という表現は、初めて耳にします。本来こういう場合は、
「口を酸っぱくして言ってきた」
となるのでしょうが、その表現では足りないような思いだったのでしょう。また、
「口が裂けても人に言うな」
という表現もあることから、間違って「混交表現」になってしまった可能性も高いです。
「大麻をやっていることは、口が裂けても他言無用だぞ」
と言っていたのなら問題ですが・・・。
尾車親方の発言を字幕スーパーでフォローするときに、そのまま「口が裂けるほど」と出す「口を酸っぱくして」に直すか、それとも「口が裂けるほど(口を酸っぱくして)とするか悩みましたが、結局、発言を尊重してそのまま出すことになりました。
「口が裂けるほど」は、結局「絶対」にという意味の強調表現なのだと思います。「口を酸っぱくして」では「弱い」という場合に、今後も使われるかも(?)知れません。
Google検索では(2月2日)、
「口が裂けるほど」=     5110件
「口がさけるほど」=       25件
「口を酸っぱくして」=  16万8000件
「口をすっぱくして」=  10万4000件
「口が裂けるほど言ってきた」=3件
でした。
2009/2/2


◆ことばの話3507「感染増悪の読み方」

2月3日の「情報ライブミヤネ屋」で、落語家で日本テレビの人気番組『笑点』の司会者・桂 歌丸さんが肺気腫で入院したというニュースをお伝えしました。その際に、
「感染増悪」
という見慣れない言葉が出てきました。最初、スーパーのルビと原稿のルビに、
「かんせんぞうお」
と書いてあって、
「そんな病気があるのか!」
と思っていたら、スーパー校閲担当の読売新聞OBのOさんからSプロデューサーに、
「これは『ぞうお』ではなく『ぞうあく』と読む。漢字もよく見ると『憎(にくい)』ではなく『増(ふえる)』でしょ。」
というご指摘をいただき、訂正することができ、事なきを得ました。
「ぞうあく(増悪)」
医学用語のようですが、ふだんほとんど目にしない言葉だけに、あやうく間違ったルビを出すところでした。読み方も間違えずに済みました。ありがとうございます!
その後、辞書で確認すると、やはり大きな辞書には載っていますね。
「症状が一層悪くなること。(例)病勢が増悪する」(『広辞苑』)
「ますます悪化すること。病状などが進み悪くなること。(例)伊沢蘭軒(1916−17)<森 鴎外>二六○「是より先に病を発して、此旬に入って増悪(ゾウアク)したのかも知れない」(『精選版日本国語大辞典』)
「病状などがさらに悪化すること(例)病勢が増悪する」(『デジタル大辞泉』)
森 鴎外は医者ですから、こういった言葉をフツーに使ったのでしょうね。
ひとつ賢くなりました。
2009/2/9


◆ことばの話3506「芳紀」

1月27日の「情報ライブミヤネ屋」「17歳の女子高生がミス日本」になったというニュースをお伝えしました。その原稿で、「ミス日本」はもちろん女性なのに、
「弱冠17歳」
という表現が出てしまいました。「弱冠」というのは、
「男性20歳の異称」
ですので、本来、「女性には使えません」!また男性でも、
せいぜい20歳プラスマイナス2〜3歳」(=17歳〜23歳ぐらい。その意味では17歳はギリギリセーフか?『広辞苑』は「弱冠17歳で7段の棋士」という用例)
ぐらいでしょう。
「弱冠34歳の若社長」
などというのは、放送ではダメです。
「年頃の女性の年齢につける言葉」としては、
「芳紀(ほうき)」
という言葉があります。
「芳紀、まさに18歳」
というふうに使います。
「年頃の女性の年齢。女性の若く美しい頃」
『精選版日本国語大辞典』にありますが、
「じゃあ、それ以外の年齢の女性は美しくないのか!」
と突っ込まれそうです。辞書編集者も、気を抜けません。
と、ここまで書いて『バナナは皮を食う〜暮しの手帳・昭和の「食」ベストエッセイ集』檀 ふみ選、暮しの手帳社:2008、12、10)という「昭和20年代に『暮しの手帖』に載ったエッセイを集めたもの本」を読んでいたら、池田成彬という人の「うまいもの」というエッセイで、
「わが年来の親友名取和作翁、芳紀正に七十九、まことに目出度いのであるが」
と、「男性に“芳紀”を使っている例」を見つけました。
「芳紀」は男にも使うのか・・・・・じゃあ『精選版日本国語大辞典』の解説はどうなる?他の辞書も見てみました。
『三省堂国語辞典』=年ごろ頃の女性の年齢。「芳紀まさに十九歳」
『新潮現代国語辞典』=年ごろのじょせいの年齢。「(姉娘)芳紀正に熟するや、豊頬秀眉、一目人を幻するの態あり」(透谷・国民と)「芳紀十八歳」
『岩波国語辞典』=年ごろの女性の年齢「芳紀まさに十八歳」
『新明解国語辞典』=(「芳」は、美しい人の意)これからオンナとしての花が開くという年ごろ。若い女性の年齢。「芳紀まさに十九歳」
『広辞苑』=年頃の女性の年齢にいう語。「芳紀まさに18歳」

うーん、どれを見ても「女性の年齢」ですねえ。しかも若い。男性で、79歳に使った例などないぞ!どうなってんだろうか?
2009/2/2
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スープのさめない距離