スープのさめない距離



◆ことばの話3505「和顔施」

もう1年前のことになりますが、2008年2月11日の読売新聞に、
「和顔施」
という言葉が出てきました。初めて見る言葉です。
「わがんせ」
と読むそうです。(ネットで見ると「わげんせ」という読み方もあるようです。)
芦屋市の谷崎潤一郎記念館館長の松岡有宇子さんが書いていました。調べてみると「和顔施」とは
「穏やかな顔は、周りの人もなごやかな気持ちにさせる力を持っているが、穏やかな顔をすることで、自らも穏やかな精神状態になっていく」
ところから、
「人に対して笑顔で優しく接すること」
をいうのだそうです。
「和顔施(わげんせ・わがんせ)・愛語施(あいごせ)・慈眼施(じげんせ)・房舎施(ぼうしゃせ)・床座施(しょうざせ)・捨身施(しゃしんせ)・心慮施(しんりょせ)」
の7つが、
「無財の七施」
と呼ばれているのだそうです。仏教は奥が深い!俺は仏の道に暗い。だから提灯借りに来たんじゃねえか・・・というのは落語の「道灌」か。
それからほぼ1年経った昨日(2009年2月1日)、『シモネッタのドラゴン姥桜』(田丸公美子、文藝春秋:2009、1、10)という本を読んでいたら、今度は、
「顔施」
という言葉が出てきました。同じですよね、これ。
「ユウタを見たおばさんが拝むような仕草で言った。『顔施、顔施、ありがたいこと』顔で人々に施しを与える。つまり、見るだけで幸せになるような顔を言うのだが、確かに何の屈託もなく笑う子の顔を見ると、誰でも思わず微笑む。」
という使われ方でした。Google検索(2月2日)では、
「和顔施」=1万5800件
「顔施」= 1万7800件
でした。
2009/2/2


◆ことばの話3504「Aソ連型」

2008年12月10日、インフルエンザが200年ぶりの速さではやっていると、『情報ライブミヤネ屋』で特集しました。「6年ぶり」の大流行になりそうだと。
インフルエンザに関して、以前から疑問に思っていたことがあります。それは、
「ソ連がなくなったのに、なぜ『Aソ連型』と呼ぶんだろうか?」
ということです。その悩みを抱えたまま年を越したら、2009年1月27日の毎日新聞朝刊「質問なるほドリ」というコラムに、その答えは記されていました。質問は、
「『Aソ連型』とか国名を聞くけど、名前を付ける決まりがあるの?」
というもので、答えは、
「インフルエンザで聞く地名は、最初にウイルスが特定された国を指します。Aソ連型はA,B,Cと3種類あるインフルエンザウイルスのうち、A型で、旧ソ連で最初に特定されたものを意味します。」
とあって、さらに
「Aソ連型(が最初に特定されたのは)は1977年です。(中略)Aソ連型は『H1N1』ウイルスを指します。30年以上前に特定されたウイルスが、今でも流行しているのです。」
国が滅んでもウイルスは生き残っているのですね。さらに質問は、インフルエンザウイルスの組み合わせは144種類あることにふれ、
「144もの国名が付いているのかな?」
「いえ国名などがついているのは20世紀に大流行したものだけです。ほかには68年の香港かぜ(H3N2)、57年のアジアかぜ(H2N2)、18年のスペインかぜ(H1N1)があります。現在も流行しているのは、Aソ連型と香港かぜの子孫によるA香港型です。B型は流行していますが1種類しかないため単にB型と呼ばれ、C型は人では流行しません。」
そうだったのか!これで見ると「Aソ連型」の「H1N1」というタイプは、あのヨーロッパを震撼させた1918年の「スペインかぜ」と同じタイプのものなんですね!かなり用心しないといけないですね。何でも「Aソ連型」には「タミフル」はあまり効かなくて、「リレンザ」(グラクソ・スミスクライン社)という薬が効くとか。「ミヤネ屋」のスタッフで「Aソ連型」にかかったスタッフも「効いた」ということです。
でも今朝(1月30日)の読売新聞朝刊によると、長野県松本市で、「リレンザ」を処方された高校2年の男子生徒が1月27日に団地から転落死していたことがわかったと載っていました。異常行動との因果関係は不明だそうですが、厚生労働省は、
「『リレンザ』のほか、『アマンタジン』や『タミフル』といった『抗インフルエンザ薬の服用者』と。『インフルエンザに感染した未成年者』を、少なくとも発症から2日間は1人にしないよう、改めて注意喚起するよう製薬企業に通知した」
そうです。うーん、よく効く薬にも弱点はある、ということですか・・・。
いやあ、それにしてもこの「質問なるほドリ」、ためになりますね!
2009/1/29


◆ことばの話3503「頭高の3」

「世界のナベアツ」ではないですが、「3」が気になります。「3」の何が気になるかというと、その「アクセント」です。
2009年1月19日深夜(1月20日の午前1時過ぎ)、NHKラジオの「ラジオ深夜便」で、ベテランアナウンサーの遠藤ふき子さん(1946年3月生まれらしい。とするとお年は62歳?)が「昭和30年」の「30年」を、
「サ\ンジュウネン」
「頭高アクセント」で話していらっしゃいました。それが気になりました。現在、私などは、
「サ/ンジュ\ーネン」
「中高アクセント」で言うところです。
また、「頭高アクセント」で気になったことというと、この日、同じく「深夜便」でニュースを読んでいた、やはりベテランの佐藤りゅうすけアナウンサー「座長」「頭高アクセント」で、
「ザ\チョウ」
と言っていました。現在の『NHK日本語発音アクセント辞典』には「平板アクセント」の、
「ザ/チョー」
しか載っていませんが、きっと昔は、もしくは「専門家アクセント」としては、「頭高アクセント」の、
「ザ\チョー」
があるのでしょう。
また別の日、古今亭志ん生の落語のCD(『火焔太鼓』)を聴いていたら、
「三百両(サ\ンビャクリョー)」
という「頭高アクセント」を耳にしました。現在なら、
「サ/ンビャク\リョー」
という「中高アクセント」が主流だと思いますが、「三」のつく「三十」「三百」の「頭高アクセント」、きっと「昔はそちらが主流だった」のでしょう。
いつ頃から「中高アクセント」に変わってきたのでしょうかね?また、調べてみたいと思います。
2009/1/29


◆ことばの話3502「経済情勢報告の言葉」

前々から思っていたのですが・・・・。
問題は、きょう(1月28日)の夕刊に載っていた「財務省の全国財務局長会議」で報告された、各地区の2008年10月〜12月期の「経済情勢報告概要」です。その「経済情勢」の表現は、全国まとめると、
「全国的に悪化している」
なのですが、各地域は、
(北海道)厳しくなっている
(東北)悪化しつつある
(関東)急速に悪化している
(北陸)急速に悪化している
(東海)悪化している
(近畿)悪化しつつある
(中国)急速に厳しさが増している
(四国)厳しくなりつつある
(九州)悪化している
(福岡)悪化している
(沖縄)全体として弱含み
(※「福岡」は「福岡、佐賀、長崎」の3県。「九州」はそれをのぞく九州地域を指す)
という表現なのです。皆さん、それぞれの表現は、
「どれが一番経済状況がマシか」
わかりますか?私は分かりません。うーーんと考えて、景気の良い順から、
「全体として弱含み>厳しくなりつつある>急速に厳しさが増している>悪化している>急速に悪化している」
ですかね?一番悪いのが「急速に悪化している」にしてみました。でも「急速に悪化している」段階は、まだ「悪化している」にまで落ち込んでいないのだから、一番景気が悪いのは「悪化している」かな???わかりません。
大学時代(ふた昔以上前)、東京の地下鉄の表記が「こんど」「つぎ」と書いてあって、どちらが「先発」なのか分からなかったのに似ています。
それにしてもなぜ、
「A+、A、A-、B+、B、B-、C+、C、C-、・・・」
のような表現にしないのでしょうか?これならば状況は一発で分かるのに・・・あ、そうか、ということは、
「状況が一発でわからないようにしている」
としか思えません。分かるとまずいのでしょうか?じゃあ、発表しなければいいのに。素人考えなのでしょうが、そう思うのが「一般の素人」だと思います。いかがでしょうか?
2009/1/28


◆ことばの話3501「あんにゃもんにゃ」

古今亭志ん生のCDを聞いていたら、
「あんにゃもんにゃ」
という言葉が出てきました。これは何か?まあ、大体分かるんですが、ネット検索してみたら(Google検索・1月28日)、
「あんにゃもんにゃ」=722件
で、トップに出てきたフリーライターの松井高志さんの、
「落語・講談によく出てくることば話芸“決まり文句”辞典」
というサイト(これはなかなか充実していますね!)には、こう載っていました。
http://wageiidiom.cocolog-nifty.com/takmat/
「あんにゃもんにゃ」=【意味】口論の際、相手のことを罵倒してこう呼ぶ。「なんじゃもんじゃ」(その地方にはみられない大木のこと)と同義であるという。が、要するに意味はない。(落語・首ったけ)(類義)→すっぱらげっちょ

そうか、「なんじゃもんじゃ」と同じか!でも気になるのは「類義」と矢印がついている、「すっぱらげっちょ」だな。

「すっぱらげっちょ」=【意味】口論の際、興奮して相手のことを罵倒する時に使う表現。意味はない。「すっぺらげっちょ」(落・小言幸兵衛)「すっからべっちょ」と表記する速記(落・五人廻し)も。(落語・笠碁)(類義)→あんにゃもんにゃ

ふーん、なるほど、なるほど。「すっからべっちょ」とも言うのか。これもGoogle検索したら(1月28日)、
「すっぱらげっちょ」=261件
「すっからべっちょ」=  4件
でした。「最高の罵り言葉」と書いてあるサイトもありました。たしかに単なる罵倒言葉ではなく、楽しい言葉ですよね!
あそうだ、これで思い出した。漫画家の手塚治虫の『ブラックジャック』に出てくる女の子「ピノコ」が、驚いた時に発する言葉
「アチョンブリケ」
は、もしかしたらこの「すっぱらげっちょ」のイメージから手塚治虫がインスパイアされて作った言葉かもしれませんね。リズムが似てますから。
2009/1/28
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