◆ことばの話3485「弟妹の呼びかけ名称」

唐突ですが、弟や妹から兄、姉を呼ぶ言葉は、
「おにいちゃん、おねえちゃん」
があるのですが、
「兄・姉から、弟・妹を呼ぶ言葉がない」
のはなぜなのか?急に気になりました。
こういう時は・・早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんに、さっそく質問してみたところ、すぐに返事が来ました。

『このことについては、一般によく話題になりますが、方言はともかく、共通語の親族語彙体系について、くわしく論じたものをあまり知りません。ただ、柴田武『語彙論の方法』(平凡社 1988 p.76)には次のようにあります。
“呼びかけ語は、Ego〔自分のこと〕よりも年上の者には、親族語にサンなど の敬称接辞をつけた語形で呼び、Egoよりも年下の者には名(ときに名プラ ス敬称接辞)で呼び捨てるという傾向がある。しかし、これは実はEgoに近 い親族に対してであって、Egoから遠い親族に対しては必ずしもそうではな い。〔以下、オジ・オバ・イトコなどについて言及〕” つまり、「いとこさん」などとは目上にも言わない、ということを言っています。まあ、当然という気もしますね。これは事実を淡々と記述したもので、「なぜそうなるか」については書いてありません。
そこで、私見を申しますが、「おにいちゃん」「おねえちゃん」などは、ただの呼びかけ語ではなく、敬称ですね。敬称は目上に使うもので、目下には使わないので、弟や妹を指す呼びかけ語はないのでしょう。
これと同じ原理の例を探すなら、「課長」「部長」などの役職名がそれにあたる と思います。上司には「部長」と呼びかけますが、部長が部下である課長に向かって「課長、○○してくれたまえ」と言うでしょうか。会社勤めの経験がないので分からないのですが、おそらく「○○くん」と名前で言うのではないでしょうか。また、選手は監督に「監督」と呼びかけますが、監督は選手を名前で呼びます。これも同様でしょう。
というわけで、親族呼称や役職は敬称として使われるため、目上への呼びかけに用いられるが、目下には用いられない、という原理が存在すると思います。』

まさに目からウロコ!「おにいちゃん」「おねえちゃん」は「敬称」である・・・言われてみれば、ストンと腑に落ちる説明ですね!「妹よ」という歌はありましたが、あれは直接面と向かって呼ぶ呼び方ではなく、第三者的に(?)その場にいない「妹」に対して呼びかけているので、ちょっと違いますね。
ただ、2本目の下線「部長が課長に見かって“課長”と呼ぶか?」については、これは呼ぶケースも「なきにしもあらず」というところではないでしょうか?たまにありそうです。
飯間さん、いつもありがとうございます!
2009/1/12


◆ことばの話3484「5人目の娘」

京都大学付属病院で、当時1歳5か月の自分の娘(五女)の点滴に腐敗したスポーツドリンクを注入したとして殺人未遂容疑で逮捕された母親が、既に亡くなった四女の殺人容疑再逮捕されました。また警察の取調べの中で、もう既に死亡した二女と三女に関しても異物を点滴に混入したと話していることがわかったというニュースを読みました。
この中で、読売テレビでは「五女」(ごじょ)と読んだのですが、日本テレビは、
「5番目の娘」
と言っていました。おそらく「ごじょ(五女)」は、音で聞いてわかりにくいことで配慮したのでしょうが、ちょっと違和感が。それとともに、
「『五女』は、『5番目の娘』でいいのだろうか?それとも『5人目の娘』なのだろうか?」
という疑問が出てきました。
「5番目」というのは「順序数詞」「序数詞」です。これは生まれた順番ですよね。それに対して、「5人目」というのは、「人数」を表すので、純粋な「助数詞」です。どちらも間違いではないのでしょうが、もともとは「順序」を表していたのだろうな、と思います。そうすると「5番目の娘」でいいのですね。
ただ、ややこしいのは(というかややこしいケースを想定するならば)、
「もし、養女ももらっていた場合に、その養女は『○女』と呼ぶのか?生年月日順になるのか?」
というケースです。うーん、たぶんそうなるのでしょうねえ、調べてないけど。そうすると、これまで「二女」とされていた人が「三女」に格下げされるんだろうか。難しいなあ。でもそれしかないですよね?ご存知の方、ご教示下さい。よろしくお願いします!
2009/1/19



◆ことばの話3483「『ひ』と『か』、単数と複数」

「2007読書日記125」で書きましたが、『「数」の日本史』(伊達宗行、日経ビジネス人文庫)という本の中に、「日本語の単数と複数」に関して、こんな記述が。
「単数、複数の話をしよう。日本語にこの差がないのは世界的に有名であり、日本人も皆知っている。しかし、古代日本語には、それがちょっぴりあったのだ、という例を示そう。
それは日の数え方である。古代ではひとひ、ふつか、みっか、・・・と数えた。『ひ』が単数語尾、『か』 が複数語尾である。今日では「いちにち、ふつか、・・・とチャンポンになっている。」
そうだったのか、おもしろいですね。日数の数え方では、「ひ」が単数で「か」が複数だったのか!でも今は、その月の初めの日「1日」は、
「ついたち」
と言いますよね。「ひとひ」とも「いちにち」とも言わずに。これはどうしてだろう?と思ったら、それについても書いてありました。
「なお一日をついたちと呼ぶのは、月立ち、つまり月の初めの新月のことで、これは別の話である。いずれにしても例は少ないながら単数、複数は存在した。」
うーん、興味深いですよねえ!おもしろい!!勉強になりました。
2009/1/19


◆ことばの話3482「ぶら下がり取材と囲み取材」

麻生総理のニュース原稿を読んでいて、ふと疑問が。
「『ぶら下がり取材』と『囲み取材』の違いは何か?」
うーん、同じような状態を指して、どちらも言うような気がするなあ。
ちょっと考えて、気付いた違いはと言うと、
「『ぶらさがり』は歩きながら、『囲み』は、立ち止まって」
という、取材を受ける人の状態によって呼び方が違うのではないか?と思いました。しかし、2008年12月5日に見た読売新聞のケータイサイトのニュースでは、
「立ったまま答えるぶら下がり」
という記述がありました。これだと「『ぶら下がり』は歩きながら」という私の説は否定されることになります?。トホホ。あ、でも歩きながらでも立ち止まっても「立ったまま」は同じだな。
あと、きょう思いついたのは、
「大臣や監督、警察署長など『偉い人(=その業界における社会的地位の高い人)』に対して、歩きながら囲んだりして後ろに付いて行ったりして話を聞く取材を『ぶらさがり』、えらくはないけど、話題の人などの周りに集まって話を聞いて取材するのが『囲み』ではないか?」
いうことです。偉い人だと、取材者のスケジュールに合わせるわけではないから、移動途中でも記者が食いついて「ぶら下がる」ということになるのではないでしょうか?
うーん、何気なく使っているけど、難しいなあ。
隣の席のSプロデューサーに聞いてみたら、
「『囲み』はカメラ位置を決めて、そこに相手に来てもらう場合、『ぶらさがり』は、場所が決まっていない場合ではないでしょうか?」
とのこと。あ、そうか、納得。さらに、
「『ぶらさがり』は『どちらかと言うと取材を受けることを嫌がっている人』なのに対して、『囲み』は『一応、取材を受け入れてくれている人』という違いもあるかもしれませんね」
とも。なーるほどなあ。そう言われるとよくわかりました!聞いてみるものだな。
2009/1/16


◆ことばの話3481「ひとり親」

正月休みに妻の実家に帰った際、義理の姉がこんな話をしていました。
「最近は『片親』のことを、『ひとり親』って言うんやね」
へー。知りませんでした。こういった新しい言葉はネットで検索!Google検索(1月15日)してみると、
「ひとり親」=19万5000件
も出てきました!トップに出てきたのは「ひとり親Tokyo〜東京都母子寡婦福祉協議会」というところのサイト。
(www.tobokyou.net/)
「母子」とか「寡婦」というのは古めかしさを感じさせますが、「ひとり親」の方が、わかりやすいというか、優しい感じがします。「ひらがな」だし。そのサイトをのぞいてみると、「ひとり親Tokyoとは?」というページがあって、そこにはこう書かれていました。
『ひとり親Tokyo(財団法人東京都母子寡婦福祉協議会)は、都内の母子家庭の母及び寡婦等が自立精神の確立を図り、相互扶助と福祉の増進に努め、健全な家庭生活が営めることを目的として活動を展開しています。また、都内の地区母子会との連絡・提携機関としての役割も果たしています。ひとり親Tokyoは、母子及び寡婦福祉法(昭和39年法律第129号)に基づく東京都で唯一の公益団体です。ひとり親Tokyoは、財団法人東京都母子寡婦福祉協議会の愛称です』
とありました。他のページを見ると、
「ひとり親家庭」
という言葉もこれは「母子家庭」「父子家庭」に代わる言葉なんでしょうか?
「ひとり親家庭」=13万3000件
「母子家庭」=  130万0000件
「父子家庭」=  25万3000件
でした。やはりまだ「母子家庭」という表現が圧倒的に多いですね。
でも大阪府では「ひとり親家庭医療費助成制度」という制度があるようです。これは、
「親が離婚したり、死亡した等の児童の家庭に対して、必要とする医療が容易に受けられるよう医療費の自己負担額の一部を助成する制度」
で、大阪府は市町村が実施している「ひとり親家庭医療費助成制度」に対して補助を行っているのだそうです。そして、地元の市町村で申請をすると、
「ひとり親家庭医療証」
を発行してもらえ、大阪府内の医療機関であれば、この「ひとり親家庭医療証」を窓口で提示すれば、一部自己負担額を支払うだけで医療を受けることができるそうです。
こうなってくると「行政用語」として「ひとり親」が成り立っていそうですね。
不慮の事故や病気など仕方がないこともあるでしょうが、「ひとり親」状態をできるだけ作り出さないことが重要なのは言うまでもありませんが、なかなかそうは行かないから「ひとり親」が生まれているのでしょう。そうなると「ひとり親」への支援は重要ですね。
2009/1/15
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スープのさめない距離