◆ことばの話3475「何か国語と何言語」

甲南大学の都染直也先生に、去年の春頃、新聞用語懇談会で助数詞のことをやっていると話した時のこと、都染先生が、
「『言語』も助数詞なんですよね。」
とおっしゃいました。最初、何のことだか分からなかったので、
「・・・と言いますと?」
と聞くと、
「これまで言語の助数詞は『か国語』だったでしょ、『3か国語しゃべれる』とか。けれど、必ずしも『一つの国に一つの言語がある』とは限らない。『か国語』を、言語を数えるのに使う助数詞だとするには『1か国=1言語』が前提になるはずです。しかし実態はそうではない。ですから『か国語』ではなく『○言語』が、『言語の助数詞』としては、実態に合っているのです。」
ということでした。なーるーほーどー。「必ずしも一つの国に1言語ではない」ことはわかったつもりでいましたが、つい、普段は「○か国語」という表現を使っていました。一般的にはそうでしょうね。今後はもう少し気をつけてみます。勉強になったー!
2009/1/14


◆ことばの話3474「羽田に向かう『上り』」

年が明けて1月4日の夜6時のテレビ朝日のニュースを見ていたら、新年あけまして初めてのビックリが。「Uターンラッシュ」の交通情報で若い女性アナウンサーが、
「羽田に向かう“上(のぼ)り”は」
という原稿を読んだのです。飛行機に「上り・下り」を使うのでしょうか?鉄道と道路情報では聞いたことがありますが。
「上りは離陸時、下りは着陸時」
なのでは・・・(冗談です)。一応ネット検索したら、2006年8月の共同通信のお盆の帰省ラッシュ「帰省のUターンが本格化 高速道路など午後ピーク」という記事で、
「空路は、各地から羽田空港に向かう上り便で、日航、全日空の予約率が85−90%とほぼ満席。」(2006、08、1603:37 【共同通信】)
という一文が出てきました。共同通信の知り合いに聞いてみたところ、
『特に何も決まりはないようだ。色々当たってみるとJRに限らず、日本では鉄道、道路、航路、空路には、原則「起点」「終点」があるようで、起点に向かうのが「上り」、その逆は「下り」だそうだ。ただし山手線や大阪環状線のように起点を超えて運行している場合は「上り」「下り」の表現をしないこともあるとか。余談だが、飛行機はみんな、出発は「上り」、到着は「下り」では???これは冗談』
はい、私と同じジョークを・・・オヤジギャグですかね?ありがとうございます。
テレビ朝日の知り合いにも聞いてみたところ、
『飛行機の「のぼり くだり」に関しては、特に決まりはないようだ。今回は道路・鉄道の情報と合わせて「分り易さ」を表現するために「のぼり」を使ったようだ。JAL広報の話では、「のぼり くだり」という言い方は「もちろんしない」ということだった』
とのことでした。いろいろ調べてくださってありがとうございます。
飛行機の「登り、下り」は、あながち「間違い」とは言えないが耳慣れない表現であった、ということのようです。
2009/1/14


◆ことばの話3473「たまごは『卵』か『玉子』か」

先日、急に、
「たまごの表記は、『卵』か?『玉子』か?それとも『たまご』か?」
ということが気になって、近くの百貨店の生鮮食料品売り場で調べてしました。その結果はその百貨店「卵売り場」で売っていた「卵の表記」は、
17種類中、「卵」は3、あとはすべて、ひらがなで「たまご」(=14)
でした。そのうち2種類は、商品にはひらがなで「たまご」とあったのに、百貨店側が書いた表示が「玉子」でした。固有名詞にあまり配慮をしていないのでしょうか?あまりしてないわな、普通。
また「たまご豆腐」は2種類おいてありましたが、一つはひらがなで「たまご豆腐」もうひとつは「玉子豆腐」でした。「玉子豆腐」は大阪の会社でした。
また別の少し離れたところにあるスーパーは、
「たまご4、卵2、玉子2(「ふるさとの赤玉子(姫路)」、「赤玉子(広島)」)」
でした。
この表記に関して、食べ物の言葉に詳しいNHK放送文化研究所の塩田雄大・専任研究員に知らせたところ、こんなメールをいただきました。
『「生たまご」は「卵」もあり、「たまご豆腐」には「卵」がない、というのは貴重なデータですね。なお、吉野家・松家・すき家は、すべて「玉子」でした。以前に「四国では牛丼店の展開が他地域に比べてそれほど進んでいない」ということを聞いたことがあったのですが、では当地では牛丼店で一般に多用されている「玉子」という表記を目にする機会も少ないのではないか、と愚考いたしました。ですが、これはおそらく「偶然の一致」なのだろうと思います。』
Google検索(日本語のページ、12月24日)では、
「卵」  =740万件 (1)
「玉子」 =409万件 (3)
「たまご」=653万件 (2)
「タマゴ」=250万件 (4)
でした。これに「生」をつけてみると、
「生卵」  =67万9000件 (1)
「生玉子」 = 6万6700件 (2)
「生たまご」= 5万0300件 (3)
「生タマゴ」= 1万8400件 (4)
でした。今後も「卵・玉子・たまご」に注目していきます!
2008/12/24
(追記)

大横綱・大鵬が日経新聞「私の履歴書」で連載したものをまとめた著書のタイトルは、
『巨人、大鵬、卵焼き』
「卵焼き」でした。(「玉子焼き」ではなく)。
ちなみにGoogle検索(2009年1月9日)では、
「巨人、大鵬、卵焼き」= 1万9800件
「巨人、大鵬、玉子焼き」=1万7400件
と拮抗していました。
2009/1/9
(追記2)

NHK放送文化研究所の専任研究員・塩田雄大さんが、以前「東西食のイメージ差」という文章を書かれていました(『クラス』2008年秋号〜特集・江戸の「食」はこんなに穣だった・朝日出版)。その原稿を送ってもらいました。それによると、「卵」と「玉子」の境界線は、
「どのくらい火を通すか?」
「素材であるか、料理であるか?」
にありそうだと。ただ新聞・テレビといったマスコミは「卵」一辺倒で、あまり「玉子」という表記は使っていない。NHKが2007年2月〜3月に行ったウェブ上での調査によると、
「生卵+玉子焼き」
という使い分けをしている人が全体の55%だということ。ただ、60歳以上に関しては43%と若干少なく、20代は64%と逆に多いということも記されています。
そして、昔は卵と玉子の使い分けが緩やかであったのが、だんだんと(マスコミの影響か)使い分ける方向に向かっているようだということ、地域差でいうと、高知では、
「卵丼」
という表記が目立つことや、東北は「玉子」の表記をあまり使わないこと牛丼チェーンの進出によって、生のタマゴを「生玉子」と表記することが増えてきているのではないか?というような話も書かれていて、大変興味深かったです。
2009/1/12

(追記3)

『おれたちの街』(逢坂 剛、集英社)という小説を読んでいたら、28ページに、
「わたしは、卵焼きをお願いします」
「でも、ここの卵焼きは、天下一品ですよ」
「卵焼き」という表記が出てきました。
また、今週の『週刊文春』(1月22日号)の「阿川佐和子のこの人に会いたい第762回」のゲスト、俳優の西田敏行さんが、こんなことを言っていて、それをこんな表記で書いてありました。
「ナンバー2が好きなんです。巨人・大鵬・玉子焼きの時代に、阪神・柏戸・目玉焼きでしたから」(笑)。
やはり「巨人・大鵬」と来ると「玉子焼き」という表記なんですね。でも
「阪神・柏戸・目玉焼き」
も、それなりに語呂がいいですね。西田さんは、役者と俳優の違いについても述べていて、「自分は役者で、いろいろな役になるけれども、高倉 健さんはどんな役をしても高倉 健さんで代わらない。そういう人を俳優という」
というようなことを話していて、なるほどなあと思いました。
2009/1/19
(追記4)

久々に新幹線に乗って東京に行きました。その際、新横浜駅の少し手前(=大阪側)、東京に向かって左側に大きな看板があって、
「愛鶏卵の玉子」
と書かれていました。
「愛鶏卵」はおそらく会社の名前で、「玉子」は「鶏卵」を意味するのでしょう。「卵」と「玉子」が、一つの看板の中に出てきたのが印象に残りました。
2009/10/19


◆ことばの話3472「シティーホール」

正月休み、初詣に向かう車の中から見かけた建物の看板に、
「シティホール●●町」
というのがありました。英語で「シティーホール」と言えば、
「市役所」「市庁舎」
だと思いますが、その建物は誰がどう見たって、
「葬儀場」
でした。
Google検索したところ、
「シティーホール」=46万2000件
も出てきました。そのトップに出ていたのは、やはり「葬儀場」でした。紹介文は、
「シティホールは各地に幅広く点在。まずは都道府県をお選びいただき、ご希望のホールをお探しください。 ... 急な出来事でお時間がない場合も、ご家庭のパソコンから直接『全国シティホール』へ弔文をお送りいただけます。」
「弔文」・・・やはり葬儀場です。どうやら全国にあるようですね。
2009/1/12


◆ことばの話3471「マイナス気温」


1月9日放送の「情報ライブミヤネ屋」で、ナレーターの松尾明子さんから質問を受けました。北海道の円山動物園を紹介した特集の原稿で、
「『マイナス気温と冷え込む中』という一文があったんですが、『マイナス気温』というのは聞いたことがありません。おかしくないですか?」
たしかに私も聞いたことがないですね。日本テレビ系列では、
「気温の表示では、『マイナス○○度』という表現は使わない」
ことになっています。
「氷点下○○度」
と言います。ただ、“上空の寒気団の場合”のみ
「マイナス30度の寒気団」
というふうに「マイナス○○度」が使えます。
ただし、こと「北海道」に関しては、日常的に「氷点下の気温」が出てきますので、地元の放送局では、
「ただいまの気温はプラスの3度」
とか、
「外はマイナス10度まで下がりました」
というふうに「プラス」「マイナス」を使っているのが現状だそうです。これに関しては以前、書きました(平成ことば事情2801「プラスの3度」参照)
ですから、もしかしたら現地の言葉として「マイナス気温」というのがあるのかもしれません。そう思ってGoogle検索してみたら(1月9日)、
「マイナス気温」=1万9700件
も出てきました!内容を見てみると、やはり北海道では使われている言葉のようですね。ただ、『ニューススクランブル』の坂キャスター(北海道釧路出身)に、
「『マイナス気温』って言葉、使う?」
と聞いたところ、
「いやあ、話し言葉では使いませんねえ」
とのこと。また、
「きょうは暖かかったねえ、プラスの2度だもん」
とは言っても、
「きょうは寒いねえ、マイナス10度だからねえ」
とはあまり言わないと。
「マイナス=氷点下は“当たり前”なので、わざわざマイナスとは言わない」
と。つまり、
「きょうは寒いねえ、10度だからねえ」
と、冬の時期、単に「10度」と言ったら、それは「氷点下10度」のことだそうです。
なるほど。北海道は、奥が深いですね。
2009/1/9
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スープのさめない距離