◆ことばの話3440「容疑を否認か?事実を否認か?」

『情報ライブミヤネ屋』のスタッフのF君から質問を受けました。
「他局の報道ですが、舞鶴の事件で窃盗の容疑で逮捕された男が、字幕スーパーでは、『容疑を否認している』
となっていたのに、原稿の読みでは、
『事実を否認している』
だったんですが、『容疑』と『事実』、どっちが正しいんでしょうか?」
ふむ、と考えて、私はこう答えました。
「それは『容疑を否認』でいいよ。『事実を否認』というのは『容疑事実を否認』の『容疑』を省略した形だと思うけど、ややこしいからね」
こんな細かなところにも気をつけて質問してくれるなんて、スタッフのみんなも、ずいぶん成長してきたんだなあ・・・と、すごくうれしかった私です。
2008/12/1


◆ことばの話3439「発報」

11月30日夜、静岡県浜松市の航空自衛隊・浜松基地のフェンスに設置されている「侵入防止用のセンサー」26か所切られているのが見つかったというニュース。これを12月1日の『情報ライブミヤネ屋』の中のニュースコーナーで伝えた、静岡第一テレビの女性アナウンサーは、
「センサーが発報しました」
と原稿を読みました。私はてっきり、
「発砲」
かと思って「ドキッ!」としました。そんな発砲するセンサーがついているなんて、自衛隊の基地は今そんなになっているのか、と。
でも、字幕スーパーを見ると「発報」となっていました。『精選版日本国語大辞典』『デジタル大辞和泉』『明鏡国語辞典』「発報」を引きましたが、載っていません。『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『新潮現代国語辞典』『広辞苑』にも載っていません。辞書に載っていない言葉なのか?Googleで日本語のページを検索してみると(12月1日)
「発報」=54500
もあるではないですか!なんと!一番最初に出てきたのは、
「緊急発報システム:商品名・緊急発報くん」
というもの。説明文を読んでみると、
「緊急発報システムは、あなたが管理したい遠方の状況が、お手持ちのメディア端末で直ちにキャッチできます。 緊急発報システムは、広域遠隔地で発生した事象を、電話回線を通じてキャッチします。」
とありました。つまり「センサーが発報した」というのは、
「センサーが異常を感知して知らせた」
ということなのですね。それならそう書くべきだと、思いませんか?
ネット上で5万件以上出てきても、まだ一般にはなじんでいない言葉だと思います。
2008/12/1


◆ことばの話3438「ムンバイの旧名」

インドのムンバイでテロ事件が起きて、たくさんの方が亡くなりました。日本人も商社マンの方が亡くなられました。テロは許せません。
さて、テロがあった町・ムンバイの旧名は「ボンベイ」。こちらの方が馴染み深い人も多いのではないでしょうか?これは「英語の読み方」から「地元の読み方」を採用したということです。
これ以外でも、結構馴染みの都市や国の名前が変わっているケースがあります。『新聞用語集2007年版』からピック・アップしてみました。
*コルカタ(旧名カルカッタ:インド)
*チェンナイ(旧名マドラス:インド)
*ケムニッツ(旧名カールマルクスシュタット:ドイツ)
*コンゴ民主共和国(旧国名ザイール)
*サンクトペテルブルク(旧名レニングラード:ロシア)
*シアヌークビル(旧名コンポンソム:カンボジア)
*タンルウィン川(旧名サルウィン川:ミャンマー・中国)
*ニジニノブゴロド(旧名ゴーリキー:ロシア)
*ヌーク(旧名ゴットホープ:グリーンランド)
*バフタラン(旧名ケルマンシャー:イラン)
*ハロン(旧名ホンゲイ:ベトナム)
*ホーチミン(旧名サイゴン:ベトナム)
*ボルゴグラード(旧名スターリングラード:ロシア)
*ポンペイ島(旧名ポナペ島:ミクロネシア連邦)
*ミャンマー(旧国名ビルマ)
*ヤンゴン(旧名ラングーン:ミャンマー)
☆カフカス(英語名はコーカサス)
といったところです。
「コルカタ」と聞くと、肩が凝るような気がするのは私だけでしょうか・・・。あ、ダジャレを言うと前頭葉が活性化するそうですよ!
2008/12/1


◆ことばの話3437「直筆(ちょくひつ)」

出張先のホテルでNHK―BSでやっていた「趣味の時間」のような番組をつい見てしまいました。「墨絵」の教室でした。その中で、
「直筆」
という言葉が出てきました。これは普通に読むと、
「じきひつ」
で、「著名な人が、直接書いたもの」を指しますが、この墨絵の教室で使っている用語としては、
「ちょくひつ」
と読み、「筆を寝かせることなく立てて書くこと」を意味するようです。ちなみに、筆の穂先を寝かせて書くのは、
「側筆(そくひつ)」
と言うそうです。なるほど。そうすると、名人が「ちょくひつ」で書いたものは、
「直筆(じきひつ)の直筆(ちょくひつ)」
か。なんで、そんなややこしいことを考えてしまうんだろ、おれ。
なお、『精選版日本国語大辞典』の電子辞書を引いてみると、
「ちょくひつ(直筆)」
(1) 用筆法の一つ。筆管を紙面に直角に当てて運筆すること。じきひつ。
用例として「側筆」「蔵筆」「露筆」というのも載っていました。これも引いてみよう。
「側筆」=用筆法の一つ。筆をかたむけて筆の腹で書くこと。
「蔵筆」・・・載っていません
「露筆」・・・載っていません。
うーん、なんなんだろうな。「ちょくひつ」の2番目の意味は、
(2) 事実をありのままに書くこと。事柄を曲げたり隠したりしないで書きしるすこと。また、その文章。(⇔曲筆)
なるほど(2)の意味もあるのか。
(3)→じきひつ
「じきひつ」のことを「ちょくひつ」と言うこともあるようですね。
2008/11/25


◆ことばの話3436「ボタンボタンと繰り返すと」

朝、通勤電車の中で、小学生の声が聞こえてきました。
「ボタンボタン、ボタンボタン・・・」
それが、次第にこう聞こえてきたのです。
「田んぼ田んぼ、田んぼ田んぼ・・・」
子供の頃、こういった遊びしましたよねえ・・・懐かしく思いながら、「なぜ、こう聞こえてしまうのか」を考えました。
それはおそらく、「ん」の「撥音」が1拍分にあたるのだけど、「休符」のように半拍分ぐらいしか音が聞こえないため、その次の「た」の音が、単語の始まりに聞こえることに原因があるのではないか?とすぐに思いつきました。そしてさらに、
「日本語には『ん』ではじまる単語はないので、『ん』の次にくる『た』が、単語のはじめ=語頭だと感じるので『たんぼ』と聞こえるのではないか」
と思いました。ですから日本語を知らない人が聞けば、ずっと、
「ボタンボタン・・・」
と聞こえるのではないでしょうか?
子供の頃は、「だまし船」のように言葉(単語)が変わることのおもしろさを楽しんでいただけなんですけどね。何がしかの理由があるということを、大人になって考えているということですね。
2008/11/25
Copyright (C) YOMIURI TELECASTING CORPORATION. All rights reserved
スープのさめない距離