◆ことばの話3415「八ヶ岳」

「情報ライブミヤネ屋」のニュース原稿に、
「八ヶ岳」
が出てきました。この読み方は、
「ヤツガダケ」
と濁るのか?それとも、
「ヤツガタケ」
と清音なのか?担当のOアナウンサーから、
「ヤツガダケでしたっけ?ヤツガタケでしたっけ?」
と聞かれました。
「たしか濁らないと思うよ」
と答えて辞書を引くと、はたして「岳」は濁りません。清音でした。
昔、杉田二郎の曲に『八ヶ岳』という曲がありました。(「誰も知らない泣ける歌」です。)
「知ってる?」
Oアナに聞くと、
「いや、知りません」
隣にいたADのM君は、
「『杉田二郎』が、わからないです」
と言うので、
「キミは『杉田二郎を知らない子供たち』か!」
と、杉田二郎が「ジローズ」時代に歌っていた国民的フォークソング、
『戦争を知らない子供たち』
を引き合いに出して一人ツッコミ一人ボケをしましたが、当然のことながら通じませんでした・・・。
で、辞書によっては「八ヶ岳」の「ケ」の表記が「大きいもの」と「小さいもの」があることに気づきました。
大「ケ」=「精選版日本国語大辞典」「都道府県小事典(朝日新聞社)」「高等地図帳(二宮書店)」
小「ヶ」=「デジタル大辞泉」「ブリタニカ国際大事典」「百科事典マイペディア」「広辞苑」「最新基本地図(帝国書院)」
*「やつがたけ」を載せていない辞書=「明鏡国語辞典」「新明解国語辞典」「三省堂国語辞典」「デイリーコンサイス国語辞典」「岩波国語辞典」「新潮現代国語辞典」

うーん、困った。
ネット検索で「ウィキペディア」には、「八ヶ岳」で見出しは載っていますが、
『八ヶ岳(やつがたけ、八ケ岳とも表記される)』
と記されていました。
Google検索(10月27日)では、
「八ヶ岳」=205万0000件
「八ケ岳」= 28万2000件
で、小さい「ヶ」が8倍ほど使われています。うーん、じゃあ小さい「ヶ」の「八ヶ岳」でいいのかな。ややこしい問題ですねえ。
2008/10/27


◆ことばの話3414「当選か?当せんか?」

岩手県で起きた、2億円の宝くじに当たった女性が殺された事件で、この宝くじに当たったことを、10月23日の読売テレビの『情報ライブミヤネ屋』では、
「当せん」
と交ぜ書きにしました。驚いて担当Dに聞くと、
「日本テレビから宝くじのあたりの場合は『当選』ではなく『当せん』と書くと連絡があったので」
ということでした。本来は「くじ(籤)に当たる」ことなので、「せん」の字は、
「籤」
という難しい字(もちろん表外字)を使って、
「当籤(とうせん)」
でも、もちろん「籤」は表外字なのでそこで当て字として「当選」も使えるのですが、放送では交ぜ書きの「当せん」を使っているようです。 他局の番組を見ていると、TBSもその系列のMBS
「当せん」
としていました。ただ、この日の夜7時のニュースでNHKは、
「当選」
としていました。新聞はどうか、その日(10月23日)の夕刊を調べると、
「当せん」=産経、日経
「当選」=読売、朝日、毎日
でした。
新聞用語懇談会に所属する各社に聞いてみたところ、
(共同通信)「当選」だが、日本の宝くじやサッカーくじは「当せん」
(TBS)10月23日(木)からJNNニュース統一で「当せん」を使うことにした。委託販売をしている「みずほ銀行」が「当せん」を使用していること、「当選」が正しくは「当籤」であり、「籤」は常用漢字外なのでというのが理由。
(NHK)選挙や、選出で選ばれるのが「当選」、くじに当たるのは「当せん」というのがルールだが、一般的には「当籤」についても「当選」で代用していることが多くなっている。「籤」はどう見ても常用漢字レベルではないので、「代用字」としてもいいのかもしれない。『NHK用字用語辞典』では、「当せん<当選>」となっており、本則が「当せん」だが「当選」も許容ということになろうかと思う。
(ABC)弊社でも「当せん」としている。理由は、宝くじなどの場合「当選」では誤用となるから。選挙用語とは区別している。
(テレビ東京)テレビ東京は「当せん」。「共同通信記者ハンドブック」に準拠。
(フジテレビ)弊社では「別の定め」がない限りは、「新聞協会」および「共同通信記者ハンドブック」に準拠している。したがって、「くじ」類は基本的に「当せん」でOAしている。(本来「当籤」なのだと思う。)
(テレビ朝日)ネットニュースはみずほ銀行表示にならって「当せん金」。
(関西テレビ)KTVでは「当せん」を使っている。
(静岡放送)我が社のCG室に聞いたところ、『静岡放送(SBS)が請け負っている「全国自治宝くじ」特番の中では、「当せん番号」としている。それ以外に、くじで当せんというようなスーパー表記はあまり出ないかと思う。ただ過去、「当選者」で出した場合も、きっとあると思う。』とのこと。

ということは、「共同通信」の基準に従うと、「海外の宝くじ」の場合は「当選」ということですね、
なお、「宝くじの歴史」という「財団法人日本宝くじ協会」(「くじ」は平仮名)のサイトを見ると、(http://www.jla-takarakuji.or.jp/ayumi.html)
「宝くじ」の草創期の昭和20(1945)年は、
「第1回宝籤」
で、「籤」は漢字。1枚10円で1等賞金は10万円だったようです。厚生省指導による組立住宅(6坪余)が1500円、白米1升(ヤミ値)が70円という時代です。
その後、昭和23(1948)年の前後賞合わせて200万円の「宝くじ」のポスターは、
「宝くじ」
「くじ」が平仮名になっていますが、翌昭和24(1949)年に日比谷公園で行われた初めての「カラくじ供養祭」「抽籤券」には、
「たから籤供養崔抽籤券」
「籤」は漢字で記されています。これはおそらく「カラくじ(=はずれくじ)」の「カラ」に引っ掛けたためだと思われます。
昭和25(1950)年発売の、4枚シートの「茨城百景シートくじ」は、
「宝くじ」
「くじ」が平仮名になっています。昭和26(1951)年「講和記念宝くじ」のポスターや、昭和27(1952)年発売の「第1回徳島市宝くじ」の券も、
「宝くじ」
「くじ」は平仮名表記です。このあたりからあとは、もう「籤」が漢字で登場することはなく「宝くじ」の表記が定着していったようです。
これまで何度となく見てきたと思っていた「当選」の文字ですが、実は「当せん」を見ていたことも多いようです。
ここで一つ疑問が。選挙の場合は「当選」でいいのですが、もしも選挙で、
「得票数が同じで、くじ引きで“とうせん者”を決める場合は、“当選”なの?それとも“当せん”なの?」
ということです。これを共同通信のMさんにメールで聞いたところ、
「当選者が、くじ引いて決まった場合は、『当選者の当選』となるのかな…。あまり難しいこと聞かないで下さい」
というメールが返ってきましたが、私は、
「(くじに)当せんして(選挙に)当選した」
となるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?ああ、ややこしい!
2008/10/28


◆ことばの話3413「正体と素顔」

『ニュースウィーク日本版』の2008年9月17日号の表紙に、
「ペイリンの正体」
という見出しがありました。アメリカ大統領選挙の、共和党副大統領候補のサラ・ペイリンさんです。ちょっと興味を惹かれた中をのぞいてみると、特集のタイトルは、
「アラスカで見たペイリンの素顔」
と、「正体」ではなく「素顔」でした。
どっちかって言うと、私は「正体」の方が見たかったんだけどな。語感としては、
「正体」=本当は何かコワイものなのに普段はそれを隠している。それを暴く場合に使う。
「素顔」=表向き(建前)とは違う、自然体の本人の一面。
という違いがあるように感じますが。『精選版日本国語大辞典』(電子辞書)を引くと(用例は省略)、
「正体」=(古くは「しょうだい」)(1)そのものの実際の姿。変化(へんげ)する前の姿。また、ものごとの本質、精髄。本体。実態。(2)神体。聖体。上に「御」をつけていう。(3)正気。たしかな精神。(→正体がない)(4)詩文・歌・連俳などの、あるべき姿。
古くは「しょうだい」と濁っていたのかあ、知らなかった!また(1)の「変化(へんげ)する前の姿」って、やっぱり妖怪のようですねえ。
「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」
って言うもんねえ。
「素顔」=(1)地のままの顔。化粧していない顔。(2)酒を飲んだようには見えない顔。また、酒気のない顔。しらふ。(3)飾らない、ありのままの姿。
この場合「ペイリンの素顔」は(3)の意味でしょうね。(1)を見せられても・・・ねえ。
そういえば、「素顔のままで」とは言うものの、「正体のままで」とは言わないな。
2008/10/30


◆ことばの話3412「結婚か再婚か」

けさ(10月24日)の一般紙で、女優・長谷川京子さんの結婚と、フジテレビ・佐々木恭子アナウンサーの結婚を報じていました。その際、佐々木アナの件について、
「結婚」=読売
「再婚」=産経、毎日
でした。読売が「結婚」としたのはおそらく、
『「再婚」とすることは「離婚した」ことをいうことになり「個人情報」に深入りするために自粛した』
のではないか、と推測します。でもそれなら、毎日新聞や朝日新聞のように、「記事を載せなければいい」わけで、記事にするということは、佐々木アナウンサーを、
「半ば公人」
として扱っていることになります(=「ニュースバリューがある」と考えた)。そういう意味では、読売の「結婚」は、中途半端な表現という感じもするのですが・・・。
「一会社員」の「(女性)アナウンサー」の結婚という個人的なことを、一般紙が取り上げるということ自体、「女子アナとは何か」を考える話です。
ちなみに長谷川京子さんの結婚を取り上げた新聞「読売・朝日・日経・産経」の4紙で、毎日新聞には載っていませんでした。逆に、佐々木恭子アナウンサーの結婚を取り上げたのは、「読売・産経・毎日」の3紙でした。毎日は、長谷川さんは取り上げないのに佐々木アナウンサーは取り上げています。
「女優より女性アナウンサーの方が、ニュースバリューがある」
と判断したのでしょうか。すごいですね。
2008/10/24


◆ことばの話3411「ゼッケン」

スポーツ関係で、背番号や胸番号が付いた、いわゆる、
「ゼッケン」
ですが、数年前から「ゼッケン」という表現は使わずに、
「ナンバーカード」
と言うと教わったのですが、北京オリンピックのリレーでの「ゼッケン」には、
「国名」
しか書かれていませんが、あれでも「ナンバーカード」と言うのでしょうか?
NHK放送文化研究所の塩田雄大・専任研究員に聞いてみたところ、
「スポーツに詳しい者に聞いたところ、『選手登録の個人番号が付されているのでは?』ということでした。事実と違っていたら申し訳ございません。どうも『ナンバーカード』以外に言い方がないようです。」
という答えが。でも「ナンバー」は付いてなかったのです。私が見たのは、例のバトントスを失敗したアメリカチームのゼッケンです。
何かの手違いで、番号どころか、「国名も書かれてなかった」ので、選手が(?)「手書き」で「USA」と書いていたものです。
その写真の横に映っていた「トリニダードトバゴ」の選手のゼッケンも、
「TRI」
としか書かれていませんでした(こちらは印刷でしたが。番号は、なし)
そういうふうにもう一度メールすると、
「この場合、もうどうしようもないでしょうね。『ユニホームにはトリニダードトバゴと書かれています』などと言うしかないのでは ないでしょうか。『胸(or胴体)のところには手書きで「USA」と書かれた布が付けられています』が1つの案として考えられるでしょうか。なおご存知かもしれませんが、「ゼッケン」の語源および使用の現況については、清水泰生(2006)「スポーツのことば 今むかし」『日本語学』2006.12(明治書院)に詳しく論じられています」
と、参考文献を教えてくださいました。『日本語学』のバックナンバーは、家にありますから一度読んでみますね!塩田さん、ありがとうございました!
2008/10/23

(追記)

『日本語学』のバックナンバー、読んでみました。「ゼッケン」の歴史が大変よくわかりましたが、「国名」のケースについての答えは載っていませんでした・・・と思っていたら、NHKの塩田さんを通じて、『日本語学』に「ゼッケン」の歴史について書かれた社団法人日本マスターズ陸上競技連合の清水泰生さんから直接メールが届きました。そこには陸上競技の記録をとり続けている「陸上競技の神様」と呼ばれている日本で数人しかいない国際陸上競技統計者協会員・野口純正(よしまさ)さんが、この件に関してコメントを下さった、というのです。そのコメントとは、
『世界選手権や五輪などのスタートリストやリザルト用紙には、リレーに限らず、
「BIB」
と表記されているようです。 「ビブス」であれば、数字でもアルファベットでもどちらにも対応できるのかなあ??と思ったりもしています。』
というものでした。「ビブス」が、サッカー選手が紅白戦の時に着たりしている「チョッキ」みたいなものを「ビブ」とか「ビブス」と呼びますが、あれと同じ感覚なんでしょうかね。
野口さんの紹介記事はこちら。
http://osaka.yomiuri.co.jp/sp_love/al70702a.htm

ともあれ清水さん、そして野口さん、どうもありがとうございました!
2008/12/16
(追記2)

12月4日の朝日新聞に、
「ゼッケンに企業名解禁」
という見出しの記事が載っていました。全国高校体育連盟が、高校総体に出場する選手のゼッケンに、協賛企業名を入れることを解禁することが、12月3日にわかったという記事です。これまで広告を入れることは「高校生にふさわしくない」と禁止してきたのですが、開催費用工面の一助とするために方針転換したそうです。選手が直接身につけるものに広告を認めるのは、初めてだそうです。第1弾の実施は、来年2月に長野県で開かれる全国高校スキーで、協賛企業を探しているそうです。
記事の内容はともかく、「ゼッケン」という言葉が使われていました。
2008/12/26
スープのさめない距離