◆ことばの話3400「いんげん」

東京・八王子市のスーパー「イトーヨーカドー」で販売されたニチレイの冷凍食品、
「いんげん」
を食べた女性が、気分が悪くなり入院するという事件がありました。この「いんげん」からは、基準値の3万5000倍という、考えられないほどの高い濃度の農薬、
「ジクロルボス」
が検出されました。
さて、普通、野菜の名前を書く場合は「カタカナ」が用いられます。ただ今回のニチレイの場合、商品名が平仮名で「いんげん」ですから、この場合も「いんげん」としていたのです。ですから、カタカナと平仮名を使い分けると、
「ニチレイの冷凍インゲン『いんげん』」
ということになります。されはさておき、
「冷凍インゲン」
と聞くと、なんとなく、
「冷凍人間」
に聞こえてしまいました。この「冷凍インゲン」を「解凍」したら、
「解凍インゲン」
そしてもし、インゲンが透明だったら・・・・
「透明インゲン?」
などとろくでもないことが頭をよぎり、
「いかんいかん、そんなことを考えている場合ではないのだ」
と気を取り直したのですが、頭から離れません。
「人間」と「隠元(インゲン)」
単独だとアクセントは違い、
「ニ/ンゲン」(平板アクセント)
「イ\ンゲン」(頭高アクセント)
なのですが、その前に「冷凍」とか「透明」とか何かついてコンパウンドすると、
「レ/イトーニ\ンゲン」
「レ/イトーイ\ンゲン」
と、同じアクセントパターンになり、しかも「に」と「い」、同じ段の母音なので、響きが似てくるのでしょうね。
2008/10/15

◆ことばの話3399「一流の努力」

『週刊文春』2008年9月18日号福岡伸一先生の「福岡ハカセのパラレルターンパラドクス」というコラムに「なるほど、そうなのか」ということが書かれていました。それは、
「一流プロの子弟が同じ道の一流プロとなっている数多くの例は、一見、DNAが伝わっているように見えるけれど、実はプロを育てる『環境』が伝えられているのだ。それに関してこんな調査がある。一流と呼ばれる人々は、それがどんな分野であれ、例外なくある特殊な時間を共有している。幼少時を起点としてそのことだけに集中し専心したゆまぬ努力をしている時間。それが少なくとも10000時間ある。一日三時間練習するとして一年に1000時間、それを十年にわたってやすまずに継続するということである。その極限的努力の上にプロフェッショナルという形質が獲得される。」
また、
「そう思うと別の、ある事実が納得できる。一国の主に限らず、議員でも会社でも芸能界でも、どんな組織にあってもいわゆる二世、三世はおしなべて、なぜ、かくも弱く、薄く、粘りがないのか。それは外形だけは親から伝えられるものの、肝心の10000時間の内実が与えられていないからである。」
素質だけではダメで、自らの努力がなければせっかくの素質も、宝の持ち腐れということでしょうか。
以前から私は、
「量は質を凌駕する」「量は質に転化する」
と言ってきましたが、その「量」を時間で表すと、福岡先生の言う「10000時間」ということなんでしょうかね。なんだか非常に重みのある言葉のように感じました。
2008/10/13

◆ことばの話3398「父兄」

10月14日のデイリースポーツに、
「エロキャラ封印 健全な沢村です」
という見出しの小さな記事が出ていました。俳優の沢村一樹さん(41)が、吹き替えで出演した映画「センター・オブ・ジ・アース」の完成披露試写会に登場した時に、自身が“エロキャラ”でおなじみである(私は知りませんでしたが)ことを心配して、
「お子様も楽しめる映画です。僕が出ると不安になる父兄の方がいらっしゃると思いますが、安心してご覧になってください」
とPRしたと記事には記されていました。この沢村さんの発言の中にある、
「父兄」
という言葉、ここ最近、とんと耳にしなくなった言葉ですね。「父兄」には女性が含まれていないから女性差別だという理由で、最近は、
「保護者」
がよく使われます。「父兄会」ではなく「保護者会」です。「父母」としてもいいのですが、そうすると、お父さんのいない人もいるし、おじいちゃん、おばあちゃんが保護者の人もいるということに配慮して、一番無難な表現が「保護者」なのでしょうね。
それは同時に「家族構成の多様化」を示していて、
「夫婦に子供2人の標準世帯」
などという家族が、かなり珍しくなってしまって、「全然、標準世帯ではない」という現状も示していると思います。
2008/10/14

◆ことばの話3397「価格と値段の違い」

「情報ライブミヤネ屋」の人気コーナー「質屋ウオッチング」の字幕スーパーを、OA前にチェックしていた時のこと、サイドスーパー(画面の右上や左上に出る字幕)に、
「買い取り値段」
という言葉が出てきて、「おや?」と思いました。ここは、
「『値段』ではなく『価格』ではないか?」
思ったのです。
「価格」は「そのものの価値をお金で表したもの」、
「値段」は価格に基づき実際にそのものを売る時の金額
ではないのかなあ。だから、
「実直な商売をする場合は『価格=値段』」
ですが、ちょっと吹っかけるような時は、
「価格<値段」
になるのでは?その意味ではちょっとニュアンスが違うなと思い、
「買い取り価格」
に直しました。しかし・・・実はこのVTR、サイドスーパー以外は、すでに「焼きこみ」されていて、そちらは、
「買い取り値段」
となっていて、しかも原稿のナレーションも「買い取り値段」になっていたので、ちょっとサイドスーパーとの齟齬が出てしまいました・・・。
それと、「かいとり」も「買取」と送り仮名なしでもよかったかな?とも思いました(経済用語の場合は)。
2008/10/15

◆ことばの話3396「対称性のやぶれ」

10月13日の産経新聞に、今年のノーベル賞受賞者4人についての特集記事が出ていました。物理学賞を受賞した南部陽一郎さん、益川敏英さん、小林 誠さんの3人の大きな顔写真(胸から上)を見ていたら、
「あれ?」
っと思いました。南部さんの着ているブルーのボタンダウン・シャツの襟のボタンが、片方だけ外れているのです。私も、ボタンダウン・シャツを着る時に、ボタンを留め忘れることがよくあるので、
「ノーベル賞学者でも、やっぱり留め忘れたのかなあ」
と思いました。そして、そもそもほかの二人のシャツはボタンダウンではない、いわゆるワイシャツ(カッターシャツ)なのに、一番年配の南部さんがボタンダウン・シャツというのは、
「さすが、国籍はアメリカ!」
と思いました。と、次の瞬間、「何か」がひらめきました。
「あ、これは留め忘れなんかじゃない!これこそ南部さんの研究のテーマである、『対称性のやぶれ』なのではないか!」
つまり南部さんは、その理論をファッションにも応用していたのです!(ウソ)
でも、「もしかしたらそうなのかもしれないな・・・」と思わせるところが、ノーベル賞を受賞するぐらいの天才なのでしょうね。記事によると南部さんは、
「文字通りの天才肌で、世界中の物理学者から尊敬を集めてきた」
「ずば抜けた先見性と洞察力で『預言者』の異名も」
というぐらいなのですから。
もちろん私には「素粒子」のことは分かりません。私に分かるのは、ボタンが外れているかどうかぐらいです。
2008/10/13
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スープのさめない距離