◆ことばの話3370「一国の首相たるもの」

9月1日、福田康夫総理大臣の、突然の辞意表明。唐突な感じはしましたが、その1週間前に気になる記事が新聞に載っていたのです。まず8月26日の読売新聞朝刊ですが、
「英サッチャー元首相が認知症」
という記事が出ました。これもショッキングでしたが、その同じ日の毎日新聞朝刊に、
「よその国の心配をしている場合ではない」
という記事が朝刊に載っていたのです。
記事によると、福田総理が昨日(25日)、オーストラリアのエバンズ元外相と会った際に、
「いやあ13年ぶりですねえ!」
と言ったところ、エバンス元外相は苦笑いしながら、
「今年1月に(スイスの)ダボスでお会いしましたよ」
と答えたと。さらに同席した川口順子元外相を紹介するのに、
「川口外相です」
と紹介して、秘書官が慌てて「元外相です」訂正。
さらに夕方の記者会見で、北京五輪で印象に残ったことを聞かれて、
「これまであまりスポットの当たらなかった“アーチェリー”で銀メダルを取るなど、よく頑張った」
と答えて、また秘書官が、
「フェンシングです」
と訂正したと…。アーチェリーの銀メダルは「アテネ五輪」でしたよね。4年前です。
この記事、毎日新聞にしか載っていなかったのですが、実はこれ、「国家機密」だったのではないでしょうか?昔のソ連のアネクドート(政治的小話)に、
「ブレジネフはアホだ」
と言った男が、
「国家機密漏洩罪」
で、つかまったというのがありましたが・・・・。
辞意を表明して以降、福田総理は、朝夕の「ぶら下がり取材」を拒否していると、今朝(9月3日)の各紙朝刊に載っていましたが、「沈黙は金」なのでしょうか?
以前読んだ『新明解国語辞典・第6版』の「一国」の用例(作例)に、こんなものがあったのを思い出しました。
「一国の首相たる者」(=たとえ、その器量でなくとも、)現実に総理大臣として内閣を統率する人」
( )内が、強烈ですねぇ・・・。次に、
「たる者」
を背負う人は、誰になるのでしょうか・・・。
2008/9/3


◆ことばの話3369「古と書いていにしえ」

「情報ライブミヤネ屋」の原稿をチェックしていたら、
「古から」
とありました。
「『古く』の『く』を書き忘れたのかな」
とまず思ったのですが、「ちょっと待てよ」と。この原稿を書いたディレクターは、もしかしてたら、
「いにしえ」
と読ませたいのではないか?きっとそうなんですね。「いにしえ」で変換したら「古」が出てきて、そのままにしてしまった可能性が強い。ならば「いにしえ」と読みましょう。
そう思った瞬間、「いにしえ」の言葉の意味が分かった気がしました。つまり、
「いにし、え」
で、「いにし」は「去にし」だと閃いたのです。で、「え」ってなんだ?
次の日、珍しく一人でバーで飲んでいて、また閃きました!
「『いにしえ』はもともと、『いにしへ』だったはず。だとすれば、『へ』は『経る』だ。つまり、『いにしへ』は『去にし経』=『去ってしまった、経て来たことども』=『昔』なのではないか?」
電子辞書の『精選版日本国語大辞典』を引くと、最初にこう書かれていました。
「『往(い)にし方(へ)』の意。時間の経過を観念にもつ」
お。「へ」の解釈と「いぬ」の「い」の漢字が違いましたが、大体の意味は合っていましたね。「へ」は、「経」ではなく「方」かあ。『新明解国語辞典』にも
「往(い)にし方(へ)の意」
とありました。そのほかの辞書も、
「現在では文語的。『往(い)にし方(へ)』で、過ぎ去ったかなたの意。」(『岩波国語辞典』)
「『往(い)にし方(へ)』の意で、時間的にはるかに隔たったあたりをいう語」(『広辞苑』)
と書いてありました。語源を考えるのもおもしろいですね。
2008/9/2


◆ことばの話3368「無料案内所」

9月2日のお昼のニュースで、担当のMアナウンサーが質問してきました。
「道浦さん、『風俗店無料案内所』の『所』は、『ショ』でしょうか?それとも『ジョ』でしょうか?大阪市内の風俗店無料案内所で、1500万円入りのかばんが盗まれたニュースなんですが・・・」
「うーん、まあ、どちらでもいいんだけど、東日本は『ジョ』と濁り、西日本は『ショ』と濁らない傾向はあるね。」
前に「平成ことば事情571」に書いたものを見てみると、フジテレビ系列のハンドブックでは、「案内所」は「ジョ」と濁ることになっていて、『NHKハンドブック』には「ショ、ジョ、どちらも可」となっています。結局、Mアナウンサーは「ジョ」と濁って読みました。関西各局のお昼のニュースを見ていたら、
(MBS)ジョ
(ABC)ジョ
(KTV)ショ
と、MBSとABCは濁っていました。「ショ」と濁らないと、
「案内書」
同音異義なので、それを避けるために「ジョ」と濁るということもあるかもしれません。「同音衝突を忌避する」
ということでしょうか。関西テレビだけ「ショ」と濁りませんでした。フジテレビのハンドブックは「濁る」ことになっているのですけど、基本は、「どちらでも可」なんでしょうね。
ついでに、そのニュースで、奪われた「かばん」の呼び方は、
(YTV)金属製のかばん
(MBS)アタッシェケース
(ABC)アタッシュケース
(KTV)アタッシェケース
正しくは「アタッシェ」なんですが、ABCはなぜか「アタッシュ」でした。うちはなぜ「アタッシェケース」を使わなかったか、デスクに聞くと、
「もちろん正しくは『アタッシェ』だと知っているが、一般的には『アタッシュ』と呼ばれている。『アタッシェ』と正しくしても視聴者が『ん?』となるのがイヤだったので、あえてその表現を避けて『金属製のカバン』という表現にした」
とのことでした。
それにしても、「無料案内所の売上金」ってちょっと「ん?」と思いますが、要は、
「無料案内所が、風俗店から受け取った紹介手数料」
のことですね、「売上金」というのは。そんなにもうかるのか。
2008/9/2


◆ことばの話3367「ブストスかバストスか」

北京オリンピック・ソフトボールは、日本が悲願の金メダルを獲得しましたが、その最大の敵・アメリカの4番バッター見るからに強打者。ポンポンとホームランを打ってきます。準決勝でも、力投の上野投手から軽々とホームランを放ち、日本が勝った決勝でも、アメリカ唯一の得点は、この4番バッターのホームランでした。
そのバッターの名前をテレビでは、
「ブストス」
と読んでいたのですが、新聞はどれを見ても、
「バストス」
になっていたのです。一体、どっちが正しいのか?いや、きっと正解は
「ブとバの間の音」
とか言うんでしょうけど、これは新聞と放送の間で、選手名に対する何か取り決めがあったのかな?と思っていろいろ聞いてみました。共同通信の知人に聞いたところ、
「共同では『バストス』となっている。世界の主要通信社で作った五輪の為の記録送信システムである『WANPA』(通称ワンパ)での日本語表記も『バストス』になっており、新聞各社はそれに合わせているのだろう。アメリカのインターネットを見ると原語の表記は『Crystl Bustos』で、顔の感じや大叔父の姓が『Rios』などとなっていることから、ラテン系(メキシコ系?)と思われ、スペイン語の読みなら『ブストス』になるのだろう。たぶんアメリカでは、英語風の読み方である『バストス』で通用しているのだろう。」
またNHKの知り合いに聞くと、
「選手名については、事前にNHK・民放合同で統一していて、『ブストス』で、ずっと来ている。変更したという連絡はない。ほかのスポーツでは、アルゼンチンやメキシコに『ブストス選手』がいるので、スペイン語読みのようだ。本来は『ブストス』なのだろう」
とのこと。また、朝日新聞の知人は、
「外国人の選手名表記は、記録との整合性の問題で共同通信の表記に従っている。他社もおそらく同じだろう」
とのことでした。結局「放送と新聞で違う」ということは確認できましたが、なぜ違うのか?の根拠は確定できずじまいでした。
また「ブとバの中間の音」という私の推測はハズレでしたね。「英語風か、スペイン語風か」というのが正解のようです。
そうこうしていうるうちに、北京五輪も終わっちゃいました。
2008/8/29


◆ことばの話3366「二足のわらじをはく」

8月27日「情報ライブミヤネ屋」のスタジオに、宝塚歌劇団・雪組男役のトップ5人で作るユニット「AQUA5」が出演してくださいました。その5人を紹介する原稿で、
2足のわらじはく5人組」
という表現があったのですが、これに「ちょっと待った!」がかかりました。
というのは、「2足のわらじをはく」は、『精選版日本国語大辞典』によると、
「同一人が両立しにくいような職業や任務を兼ねること。特にばくち打ちが捕吏を兼ねること。」
という意味で、その意味では今回は、
「似たような仕事で、別のユニットを組んだ」
ということなので、ちょっとふさわしくないですね。そこで、
2つの顔を持つ5人組」
という表現に変更されました。
2008/8/28

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スープのさめない距離