◆ことばの話3360「地黒」

8月19日の「ミヤネ屋」で、奈良の平城遷都1300年記念祭のマスコット「せんとくん」の着ぐるみが登場したというニュースをお伝えしました。
その際に、「せんとくん」の着ぐるみの肌の色が、思っていたより浅黒いことを指して、
「思っていたより“地黒(じぐろ)”」
と表現したかったのですが、辞書(『精選版日本国語大辞典』『広辞苑』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』)を引いてみても「地黒」という言葉が載っていませんでした。俗語なのかなと思って米川明彦先生の『日本俗語大辞典』にも載っていません。方言かな?とも思って『日本方言辞典』も引きましたが、載っていません。
Googleで検索したところ(8月28日)
「地黒」=177000
ありました。かなり使われているようです。そうやってよく使われる言葉でも、辞書に載っていないということは、やはりあるのですね。
毎日新聞の最近の記事(2008年8月8日夕刊)の中にも、
『〈このところ、会う人、会う人に「夏休みだったんですか?」ときかれる。「海?それともプール?」とも。もともと◆地黒の肌が、黒光りしているせいだ。イチロー選手(マリナーズ)の日米通算3000安打の取材に、テキサス州アーリントンに行ったら、こうなった。〉〔冨重圭以子〕』
と使われている例があることを、早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんが教えてくれました。ありがとうございました。
2008/8/28


◆ことばの話3359「ケトル」

会社の帰り家の近くのスーパーに寄ってブラブラしていたら、
「やかん」や「フライパン」
を売っているコーナーに迷い込んでしまいました。驚いたことに、そのコーナーの表示板には、「やかん」ではなくて
「ケトル」
という表示が!既に日本語では「ケトル」と言うのでしょうか?「やかん」ではなく。しかし、よくそのコーナーの品物(商品)を見てみると、中学や高校時代に弁当箱のフタにお茶を注いだ大きな「やかん」のようなものではなく、とってもカラフルでおしゃれなものばかりが並んでいました。とすると舶来品(古い!)やおしゃれなやかんのことを「ケトル」と呼ぶのでしょうかね?
知らない間に、日常生活に外来語と品物が入り込んできているようです。そう言えば最近、
「茶瓶」
って、あまり聞きませんね。これも「ティー・ケトル」(?)とか言われているのでしょうか?Google検索(8月21日)では、
「やかん」=6290000
「薬缶」=   78110
「ケトル」= 4360000
でした。思いのほか、「ケトル」が多かったな、というのが実感です。
2008/8/21


◆ことばの話3358「首相と総理」

6月の新聞用語懇談会の放送分科会で、関西テレビの委員から
「読みは『総理』なのに、なぜ表記は『首相』なのか?」
という疑問が出されました。
「テレビ東京系列以外では、アナウンサーが『総理大臣』と読むのに、字幕表記は『首相』となっている。 閣僚の略称も『〜大臣』と読むのに、表記は『〜相』となっている。ニュースを読む時に、言文不一致が気になる。先日フジ系列のアナウンス用語統一部会でこの件が話題になり、『首相』も「総理」も二文字であり、表記も言行一致で『総理』とするべきではない?これまで当たり前と思っていたが確かに違和感があり、今後広く議論する必要があるのでは?という話になった。みなさんは、いかがお考えだろうか?」
というのです。
その会議の中では、
「『総理』は総理大臣の略。『首相』とするのは、外務大臣を『外相』とするのと同じ。音声上は『シュショウ』がラジオなどで聞き取りにくいためという説もある。」
「日本国憲法上は、あくまで『内閣総理大臣』。『首相』という言葉は使われない。『大臣』も同じ。」
というような声もあったということです。放送分科会では、
『「総理」という略し方は荒っぽいので、スーパーに馴染まない。「首相」がよい。音声では「総理大臣」と言っている。(1回目は。2回目以降は「総理」と言うこともある)書き分け(言い分け)はもう定着しているので、変えることはデメリットが大きい。「大臣」は本来「王様がいる国」で「王様の補佐をする者」の意味なので、「王様」がいない国に「大臣」は本来、ない。』
『ルーツはわからないが、ガイドラインにも「原則、そうしている」と。』(日本テレビ)
『私(委員)が入社した頃(30年ほど前)には「首班指名選挙」とも言ったと思うが、ここ5年ぐらいで「総理大臣指名選挙」になった。昔は「スーパーは『首相』も可」だったはずなのに、いつの頃からか「スーパーは『首相』でなければならない」に変わったように思う。戦前は「大臣」は「天皇の臣民」であったが、現行憲法では「臣民」ではないので、「大臣」はないはず。「G7」「G8」も、日本が「大蔵大臣」としていた時は「蔵相会議」と言っていたが、日本が「財務相」に変わったら「財務担当閣僚会議(財務相会議)」になった。』
『「しゅしょう」はラジオでは聞き取りにくいから「首相」と書いても、そうは読まなくなったという説もある。中国は「国務院総理」だが、「温家宝首相」となぜか「首相」を使って日本では呼ぶ。「蔵相会議→財務相会議」は、カウンターパートに合わせた呼び方をしたものだから、中国のケースも「国務院総理→首相」にしているのかもしれない。なお、キムタク(木村拓哉)が総理大臣を演じている某局のドラマでは「首相官邸」と言っていて、報道の現場の現実を映していない。』
『視聴者はどう感じているのか?もう字幕は「首相」、読みは「総理大臣」に、なじんでいるのではないか?「読みとスーパーを統一せよ」という要望があったのか?』
という声がある一方で、
「既に表記も『総理大臣(総理)』にしている」
という意見も出されました。それもテレビ東京以外にも、です。
『1998年からスーパーも読みも「総理大臣」「総理」にしている。理由は、読み原稿にスーパーをあわせた。たとえば「舛添厚生労働大臣」の場合は、スーパーは「舛添厚労大臣」として、2回目以降の読みは「舛添大臣」と略する。外国の「プライムミニスター」は「首相」とする。例外は台湾で、本来なら「プライムミニスター」なので「首相」とすべきところを「行政院長」としている。また、日本の複数の役職を持つ大臣(=岸田文雄大臣は、内閣府特命担当大臣として(1)沖縄及び北方対策(2)科学技術政策(3)国民生活(4)規制改革、そのほか(5)消費者行政推進大臣(6)宇宙開発担当大臣の6つの大臣を兼務)、そのニュースの該当の担当名だけ(例・国民生活大臣、宇宙開発大臣、のように)をつける。』(テレビ朝日)
『スーパーも読みも「首相」は使わない。「総理(大臣)」にする。「総理官邸」と。1回目は「総理大臣」、2回目以降は「総理」。1回目「舛添厚生労働大臣」、2回目「舛添大臣」。
私(委員)が把握しているだけで3〜4回、「スーパーと読みが一致していて、良い」というお褒めの言葉が視聴者から届いた。』(テレビ東京)
そうだったのか、知らなかった!
また、放送局と新聞社の両方に出稿している共同通信社は、
『活字媒体へは「首相」、放送原稿は「総理大臣」にしている。』
とのことでした。また、
『「しゅしょう」と読むと「主将」と間違うから「総理大臣」と読むのではないか?』
という意見もありました。
日本新聞協会の金武伸弥氏(読売新聞出身)は、
『新聞は「首相」。私が読売新聞に入った時に(50年ほど前)、既に「総理大臣」を略する時は「総理」ではなく「首相」だった。他の閣僚の略し方が「外相」「法相」「蔵相」などだったため、それに揃えるために「首相」としたのではないか?また辞書によると「総理」は(内閣総理大臣の)「略称」だが、「首相」「外相」などは「通称」となっているので、「通称」に統一したのかもしれない。』
という意見で、最後にTBSの委員から
『もともと読みは「首相も可」だったのに「必ず首相」になったというのが、どうやら真実のようだ。』
というところで、会議は終わったのでした。
2008/8/13


◆ことばの話3357
「日本語アクセント辞典搭載電子辞書が静かなブーム?」


今年になって、『NHK日本語発音アクセント辞典』を搭載した電子辞書が、カシオから発売されました。
「EX−Word(エクスワード) XD−SP6600」
というものです。『広辞苑』の第6版も搭載されていますが、これまで「アクセント辞典」を載せた電子辞書はなかったと思いますので、アナウンサーにとっては便利なものかと思い、先日私も購入しました。(2万5000円ぐらい)音声は出ないのが残念です。
読売テレビのアナウンス部でも、既にわかっているだけで5人が購入しましたが、
「もしかしたらこれは全国のアナウンサーの間で“静かなブーム”となっているのではないか?」
と思い、知り合いのアナウンサーにメールを送り、
「貴社のアナウンス部では、購入された方は、アナウンサー何人中何人ぐらい、いらっしゃるでしょうか?」
と問いかけたところ、次々と返事が返ってきました。
<山形放送>貴重な情報ありがとう。知らなかった。早速購入する。
<TBS>4月に購入している。NHKの知り合いから3月ごろ、紹介された。見渡す限りでは、まだ私一人。見せると「便利ですね」「良いですね」とは言うがまだ、買わないようだ。この機種に苦言を呈すれば、老眼が一部入った人間には、カタカナの上のアクセントの印がとても読みづらい。バックライトを当てても読みづらい。もっと拡大できるはず。
<ABC>アクセント辞書搭載の電子辞書・・それは便利!我が部のアナに聞いたところ、2人が所持していた。最新の1機種は、アクセントを音声で示す機能もあった。電子辞書、恐るべし!
<日本海テレビ>弊社アナウンサー9人のうち持っているものは1人(今年入社の新人)だけ。その1人も自分で買ったのではなく、アナウンサーになったのでプレゼントされたもの。私は、そのとき初めて「こんな電子辞書があるんだ」と知った。次はこれに音声が出てくれればと思う。
<静岡放送>今回の電子辞書、アナウンス部13人中1人が使っていた。実家が電気店で、常に大型テレビなど最新の電化製品を持っている者が、6月に購入したそう。「欲しい」という声は多数ある。2万5000円ならば、もう少し買う人も増えるかもしれない。
<西日本放送>西日本放送では、男性アナ5人、女性アナ9人、計14人中、購入者は「0」。そのような電子辞書があることを知っているアナウンサーは、私を含めて2人だった。情報のアンテナの感度が悪いのか、田舎だからなのか・・・。
<テレビ信州>電子辞書の件、当社のアナウンサー7人の内、現在の購入者は「0」だが、  近々の購入予定者が1名。(その後、8月26日現在購入済み)
<北日本放送>嬉しいニュースをありがとう!他のアナウンサーに伝えたら、喜んでいた。弊社のアナウンサーで持っている人は、まだ誰もいない。
<中京テレビ>中京テレビでは、その電子辞書の存在を知っていた者はおらず、まだ誰も持っていないようだ。お知らせいただき、ありがとう!私自身、最近外での取材が多く、「コンパクトなアクセント辞典があるといいなぁ」と思っていた。さっそく探してみる!他の部員も興味津々だった。(その後今回の電子辞書、さっそく私も含む2人が購入。欲を言うなら、発音してくれる物もうれしいのだが。もう少し小さければ、なおうれしい・・・)
<テレビ岩手>『NHK日本語発音アクセント辞典』を搭載した電子辞書、私はこのメールで初めて存在を知った。まわりのアナたちに聞いても、誰も知らなかったようだ。もともと、普段、電子辞書を持ち歩いて活用しているアナも3人ぐらいしかいないので、電子辞書所持率が低いような気がする。今度、店頭で見つけたら、使い勝手をチェックしてみる。
<日本テレビ>メールを拝見し、思わず昨日、買ってしまった。
<宮城テレビ>弊社では、アナウンサー13人中、所持者は、一人もいない。(7月30日現在)
<関西テレビ>今のところ我が社では、1名だけ(4年目男子アナ)所有している模様。
<MBS>今のところ購入したのを確認したのは、アナウンサー40人中1人と、用語懇談会委員1人。みんな興味を持ち単語を引いてみているが、値段を聞いて「今は買わない」と言っている。すでに1人1台、電子辞書を持っているので、「2台目」にするには高価だなあという感じ。
<南海放送>電子辞書の機能もぐんぐん上がっているのだなあ。しかし一般的には、アクセント辞典より他に必要なものがありそうだが。我々にとっては便利になったということで「よかったよかった」と言いつつ、南海放送では、所持者「0」だった。
確か電子辞書はバージョンアップは不可だと思うので、それがための買い替えは、物価高の折り、ちょっと難しいのが現実。

16社の方からお返事をいただきました。ありがとうございます。なお、SDカードを使って、一部新しい辞書を追加で搭載することも出来ますが、この『NHKアクセント辞典』のSDカードソフトは、販売されていませんでした。
それとABCの方からの報告では「音声付き」も出ているんですね!それは知りませんでした。すごい!!どこのかな?
しかし、結論から言うと
「静かなブームは、起きていない」
ようです。
その後、実は大変なことに気づきました。実は、いわゆる「アクセント辞典」ではない、「国語辞典」でも、「新明解国語辞典」などアクセントも載っているものがあるのですが(アクセントの下がるところを音節の数字で示してある)それと同じ方式でアクセントを表記している国語辞典を搭載している電子辞書を、「ミヤネ屋」のナレーターの女性が持っているのを見つけたのです!それは「大辞林」を搭載した電子辞書でした。そうか、NHKのアクセント辞典を搭載していなくても、これならアクセントも分かるな。
なお、NHK放送文化研究所が出している『放送研究と調査』の2008年8月号に、
「『NHK日本語発音アクセント辞典』改訂始まる」
メディア研究部・放送用語担当の坂本充さんが書いてらっしゃいました。それによると、平成20年度から「5年後を目指し」アクセント辞典の改訂作業を始めたということです。少なくとも新しいアクセント辞典が完成するまでには、5年はかかるということですね。
そして、その第1回編集会議の中で専門門員から出た意見の中には、
「『発音アクセント辞典』なので、何かしら音声の出るものを作ったほうがよいのではないか」
という意見もあったそうですから、期待しましょう!
2008/8/28


◆ことばの話3356「帰途につくか?帰路につくか?」

8月26日の「情報ライブミヤネ屋」で、横綱・朝青龍のモンゴル巡業のニュースをお伝えしました。その原稿に、
「故郷モンゴルへと帰路に着いた」
とあったのですが、私は、
「そもそも『帰路に着く』という言い回しはない。正しくは『帰途に就く』。(「着く」も間違い)たしかに朝青龍の故郷・モンゴルだ、今回は『帰る』というよりは巡業の一行として『行く』のだから、『帰路』『帰途』どちらもふさわしくない。」
と思い、
「故郷モンゴルへ向かった」
という表現にして読みました。そしてそれをスタッフにもメールして知らせたところ、S君から、
「広辞苑の5版には『帰路につく』と言う表現が載っていますよ」
と指摘されました。そこで慌てて書く辞書を引いてみると、「帰路につく」という表現は「広辞苑」をはじめ、『大辞泉』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』にも載っていました。あちゃあ・・・すぐに訂正しました。
Google検索(8月27日)では、
「帰路につく」=58万3000件
「帰途につく」=22万5000件
「帰路に就く」=5万5100件
「帰途に就く」=2万6000件
でした。ただ『三省堂国語辞典』では「帰途に就く」という言い回ししか載せていませんでした。「帰路」が「古語」とも載っていました。
なお「就く」という漢字表現は「仕事に就く」と同じで、
「帰り始める、その(帰る)作業に就く」
ということで「就く」です。「付く」「着く」は間違いです。
2008/8/27

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スープのさめない距離